共闘
アイラさんが滞在してから5日が経った。
オルフェさんとの仲は、知り合い以上友達未満といった感じで、出来れば友達レベルまでに仲を深めて欲しいところだ。
残り2日間、このままでは一向に仲が深まらないと思ったアリーが夜部屋を訪ねてきて、
「明日、私とワタルさん、オルフェさんとアイラの4人で少しお出かけしてみませんか?」
「ピクニックみたいな感じ?でも危なくない?」
「あの2人であれば、この森の魔物に負ける事は無いとティーフェン様からのお墨付きですので大丈夫です。それに万が一に備えて準備をして下さるそうなので」
「まぁそれなら良いかな。じゃあ明日の朝2人に伝えようか」
翌日、朝食を食べている際にオルフェさんとアイラさんにも出かける事を伝えた。
案の定オルフェさんが面倒くさがったが、アイラさんに喝を入れられて2人とも行く事になった。
「それじゃあいってきまーす」
「お気をつけて」
「いってらなのじゃ〜」
朝食後、少し時間をあけてから出発した。
「これから何処に向かうの?」
今回、道案内もアリーが全て行う為、目的地が何処なのかは知らない。
「それは到着してからのお楽しみです!」
先頭にアイラさん続いてアリー、俺、オルフェさんの順で森の中を進んでいる。
歩き出して1時間程経過したところで、
「つ〜か〜れ〜た〜」
とオルフェさんが根を上げた。
「魔王しっかりしろー!」
と前の方からアイラさんの声が聞こえてくる。
「なんであの子あんなに元気なの・・・そうだ!歩くんじゃなくて浮けばいいんだ!」
「どういうこと?」
「まぁ見てて〜」
オルフェさんが自分に魔法かけると、フワッと10cm程浮かび上がったのだ。
「どう?すごいでしょー」
たしかにこれなら歩く必要も無いので疲れる事は無さそうだったのだが、
「いたっ!」
少し進んだ所で、木の枝に引っかかったりと踏んだり蹴ったりだった。
「飛ぶのやめたら?」
「そうする・・・」
オルフェさんは大人しく飛ぶのをやめて、再び歩く事にした。
「皆さん、あともう少しなので頑張ってください!」
アリーがそう言ってから10分ほど経った所で、開けた場所に出てきた。
「ここが目的地です!」
太陽の光が差し込み、中心には余り大きくは無いが透き通った湖があった。
「この森にこんな場所があったんだ」
「はい、エレオノーラとティーフェン様が戦闘中に偶然発見したみたいで、教えてもらったんです」
空気も澄んでいてとても落ち着く場所だった。
「皆さん、歩いて疲れたと思うので少し早いですがお昼ご飯にしましょう」
アリーはそう言ってマジックバックの中から弁当箱を取り出した。
蓋を開けると、サンドイッチにおかずには唐揚げなど様々な料理が入っていた。
「それじゃあ、いただきます」
早速サンドイッチに手を伸ばし食べ始めた。
「うまい!」
「おいしいね〜」
「とてもおいしいです!」
皆口々にそう言った。
「良かったです。実はこのお弁当は私が作ったんです」
「え!アリーが作ったの!?」
「はい、何度か練習はしましたがワタルさん達の反応を見てホッとしました」
「練習してたのは知ってたけど、あの短期間でこんなに美味しいの作れるのか」
「まぁ先生が良かったですからね」
「たしかにアンさんとリビアさんなら先生として申し分ないしアリーの努力もあるからね。それにしてもアリーの手料理を食べれて凄い嬉しいよ」
「喜んで貰えて何よりです」
お昼を食べ終えるとデザートにカップケーキも用意してくれていた。
これも勿論、アリーが作った物で大変美味しかった。
その後、少し湖の側に寝っ転がり日向ぼっこをしながら休んでいた。
「気持ちいね〜」
「ですね」
「これでお酒があったら最高なんだけどなー」
「魔王、たまには自重しろ」
とほのぼのと会話が続いていた。
その内、俺達は眠ってしまっていた。
「はっ!寝ちゃってたか」
「ふふ、お目覚めですか?」
「今何時?」
「3時くらいですね。2時間程寝てたみたいです。私も先程目を覚ました所です」
隣では、オルフェさんとアイラさんも眠っていて、
「もっとお酒ちょうだい〜」
「魔王め覚悟しろ〜」
と寝言を漏らしていた。
それを見て思わず2人して笑みがこぼれてしまった。
しばらくアリーと話していて、そろそろ2人を起こそうとした時、アイラさんがパッと目を開けて立ち上がった。
「どうしたの?」
「足音が・・・」
「足音?聞こえないけど?」
俺とアリーは耳を澄ましてみたが何も聞こえなかった。
「近づいて来てます」
すると、だんだんと遠くの方からドッドッドッドッと生き物がたくさん走って来ている音がしてきた。
その足音は、かなりの勢いでこちらに近づいてきていた。
そして、湖を挟んだ向こう側の森からたくさんの動物や魔物が走り去って行った。
「なんだったんでしょうか?」
俺達が疑問に思っていると、走り去って行った動物達が来た方向から木々を薙ぎ倒しながら何が近づいてきた。
「お二人とも私の後ろに下がっていて下さい」
アイラさんの指示通りに後ろに下がった後、森から出てきたのは巨大なヘビだった。
全長は20mほどで、高さも5mほどはあった。
そのヘビは辺りをキョロキョロと見回すとコチラの存在に気づき近づいて来た。
アイラさんは剣を抜き、すぐさまヘビに攻撃をした。
しかし、そのヘビの体の表面は鱗で覆われており、深くまで刃が通らなかった。
「くっ、予想より硬い!」
アイラさんに攻撃されたヘビは怒り、口をパカっと開けて紫色の液体を飛ばしてきた。
「まずい!離れて下さい!」
焦るアイラさんの声を聞いて、俺とアリーは急いでその場を離れたが、オルフェさんはまだ夢の中にいた。
「もう飲めましぇ〜ん」
「あのバカ魔王!」
アイラさんは駆け出してオルフェさんを担いで、その場を離れた。
ヘビから放たれた液体が着弾すると地面はえぐれて周りの草花は枯れていた。
「何アレ・・・」
「あの魔物攻撃です。触れると体が一瞬で溶ける毒ですので、気をつけてください」
そんな恐ろしい攻撃だったのかと驚愕した。
しかし、こんな状況でもオルフェさんはまだ眠っていた。
見兼ねたアイラさんが、オルフェさんの頬をペシペシと叩いて起こした。
「痛い痛い」
「やっと起きたか魔王」
「起きたから叩くのやめて〜」
こんな危険な状況下で眠り続けていたオルフェさんは流石と言ったところだ。
「いや〜ぐっすり寝た〜・・・って何あのでっかいヘビ」
「気づくの遅すぎ・・・」
「って私が寝てた場所なんか黒くなってない?」
「アイラさんが、寝てたオルフェさんを担いでヘビの攻撃から守ってくれたんだよ」
「そうなの?」
アイラさんは、少し照れてそっぽを向いた。
「ありがと〜」
そう言って、オルフェさんがアイラさんに抱きついた。
「離れろ、鬱陶しいだろ」
「ごめんごめん、嬉しくて」
「とりあえず、あの魔物倒すから魔王も手伝って」
「めんどくさいって言いたいけど、コタケくんとアリシアちゃんが居るしそうも言ってられないか」
珍しく真面目な顔をしてオルフェさんはアイラさんの横に立った。
オルフェさんは魔法、アイラさんは物理で攻撃を仕掛けているのだが、魔物の体が硬いせいか苦戦していた。
「先に目を潰す!」
アイラさんが飛び跳ねて、ヘビの目に剣を振り下ろしたが、尻尾に防がれてしまった。
ヘビは続け様に滞空しているアイラさんに向けて先程の液体を発射した。
「くっ!」
「アイラ!危ない!」
空中で思うように身動きが取れないアイラさんに液体がかかろうとした直前で下の地面が急に盛り上がりヘビからの攻撃を防ぎ、そのままヘビの周りを土の壁で囲い閉じ込めた。
「助かった!」
「お互い様だよ!」
どうやらオルフェさんが魔法で助けてくれたみたいだ。
「しかし、アレどうやって倒そうか?硬くて攻撃通らないんだけど」
「そもそもあの魔物はなんなんですか?」
と俺は聞いた。
「アレはバジリスクという魔物です。体が鱗で覆われ硬く、毒の液体を飛ばしてくる厄介なヤツです」
「何か弱点とか無いんですか?」
「確か寒さに弱くて、気温が低下すると鱗が柔らかくなるはずです」
「寒さというと氷系の魔法が効果的ですね、オルフェさんなら使えるのではないですか?」
「アリシアちゃんの言う通り私なら使えるよ」
「なるほど・・・なら私が囮になるから魔王はヤツに魔法をかけ続けてくれ」
「わかったわ!」
「お二人は危険ですのでこちらで待機していて下さい」
そこで、バジリスクは閉じ込められていた土の壁を破壊して外に出てきた。
アイラさんは、バジリスクに近づいて行き攻撃を仕掛けて注意を引き、少し離れた所でオルフェさんが魔法を詠唱し一帯に雪を降らせた。
そして10分程経過した所で、バジリスクの動きが明らかに鈍くなっていた。
相手も気付いたのか、原因である魔法を使用しているオルフェさんに近づき始めたのだが、
「今更気付いた所で遅い!」
そう叫んだアイラさんが、目一杯力を入れて剣を振り下ろし、一刀両断した。
バジリスクは体の中心を真っ二つにされて、そのまま動かなくなった。
「倒したのかな?」
オルフェさんは魔法を止めて、バジリスクの方へと近づいて死んでいるか確認した。
「オッケー、もう大丈夫だよー!」
その言葉に俺達もバジリスクの方へと近づいて行った。
「近くで見ると尚更凄いな」
遠くからでもかなり大きかったのに、近づくとその大きさがよりはっきりと分かった。
「いや〜でもこんな魔物がいるなんてビックリだね〜」
「ごめんなさい、私のせいで皆さんを危険に晒してしまって・・・」
「アリーは悪く無いよ。こんなの居るなんて知らなかったんだし」
「そうそう、それに楽しかったから大丈夫だよ〜」
「ありがとうございます」
「あとアイラちゃんもナイスファイトだったね!」
「魔王、お前のおかげで助かった・・・ありがとう」
結果的に共闘したおかげで、より仲が深まったみたいだ。
その後は、バジリスクの牙はかなりの価値があるとのことで、アイラさんに採取してもらい拠点へと帰ってきた。
汚れている事もあり、アリー達3人にはそのままお風呂に行って貰った。
「ただいま〜」
「おかえり〜ってなんじゃ、えらい疲れとるな?」
「なんかでっかいヘビが出てきて危ない所だったんだ」
「あぁ、あのバジリスクか?」
「えっ!?ティー知ってたの?」
「まぁ、あの辺りに巣があったからのう」
「それなら先に教えてよ」
「あの程度なら問題ないと思って伝えとらんかったわい」
「まぁたしかにオルフェさんとアイラさんで倒してくれたけど、次から強そうな魔物いたら教えてよ」
「すまんかった。しかし、そんなに苦戦する相手じゃったか?」
「アイラさんでもオルフェさんの協力が無いと倒せなかったよ?」
「ん〜?前に遭遇した事あったがエレオノーラは一太刀で倒しておったぞ?」
「えっ!?」
(勇者であるアイラさんよりエレオノーラさんの方が強いのか・・・?)
「ちなみにそのバジリスクの大きさはどれくらいじゃった?」
「大きさ?20mくらいだったよ?」
「あーなるほどのー」
とティーが少し呆れた表情で言った。
「それはバジリスクじゃなくて、バジリスクキングじゃ。普通のヤツは10m程の大きさじゃ。バジリスクキングは数倍強いから苦戦するのも当たり前じゃな」
「そんなにヤバイ魔物だった?」
「妾からしたら変わらないが、普通の人間であれば冒険者ランクがA以上の者で30人程の討伐隊を組むレベルじゃ」
ティーから衝撃の事実が伝えられた。
(それをたった2人で倒すって、やっぱりあの2人も凄いな)
と考えていると、お風呂の方から、
「必殺!魔王トルネーーード!」
とオルフェさんの声と共にザッパーンと水の音が聞こえた。
「魔王、少しは落ち着いたらどうだー!」
とアイラさんの叱咤の声が聞こえた後、また水の音が聞こえてきた。
一足先にアリーがお風呂から上がってきた。
「ねぇ、中で何してたの?」
「2人がはしゃいじゃいまして・・・私には止められませんでした」
その後,お風呂から2人が上がってきたのだが、オルフェさんはニコニコしていて、アイラさんはゲッソリとしていた。
「もう魔王とは風呂に入らない」
とアイラさんが呟いていた。
こうして6日目は2人の仲も深まって?いったのだった・・・
翌日、アイラさんは午前中に身支度をして、午後に国に向けて出発する事となった。
「それでは、皆さんお世話になりました」
「またいつでも遊びに来てください」
「アイラも道中気をつけてね」
「はい、ありがとうございます。アリシア様の無事はきちんとお伝えいたしますので!」
「よろしくね」
「それと最後に魔王!他の方達に迷惑かけるんじゃないぞ!」
「はいはーい、分かってますよー」
(2人ともすっかり仲良しだな。多分・・・)
しかしこの2人を見ていると何処となく、
「姉妹に見えるなぁ・・・」
「なっ!それは聞き捨てなりません!」
「あっ、聞こえちゃってた?」
「私とこの魔王の何処らへんが似てるんですか!」
「似てるというか、だらしない姉をたしなめる、しっかり者の妹みたいに見えるから」
「私"だらしない"姉なの!?」
とオルフェさんはどうでもいい所でショックを受けていた。
他の人達もだらしないの部分に、うんうんと頷いていた。
「でもまぁ、私がお姉ちゃんだからねー!ほらほらお姉ちゃんだよー。私に甘えて良いんだよー」
と何故か勝ち誇った様にアイラさんにちょっかいをかけていた。
アイラさんはうつむきながらワナワナと震え、
「魔王なんてだっいきらいだーー!」
と叫びながら森の中へと消えて行った。
「最後まで元気な子だったね〜」
アイラさんは最後までオルフェさんにやられっぱなしだったが、この1週間で仲良くなってくれた様で何よりだった。
書いてたら想像以上に長くなってましたが、これでアイラ編は終了です!
次回からは遂にアリーの居た国へと向かいます!
 




