世界樹の依頼
「世界樹?」
座っていた女性が立ち上がり歩み寄って来ると、朧げにしか見えなかった姿がハッキリ見える。
緑色の髪に、顔や雰囲気がエムネスさんに似ている。
「世界の何処かにあると言われる大木。そう聞いた事はありませんか?」
以前そんな話をチラッと聞いた事がある気がする。
「私の一部を見た事もある筈です」
「そうなんですか?」
「大勇者フィーアの聖剣。彼女のそれは、私の一部です」
「アレですか・・・・・・」
勇者の集いで使っていた木の棒かと思い浮かべる。
本人は秘密と教えてくれなかったが、意外な所でネタバラシをされた。
「それでそんな凄い方が、俺にどの様な用事が?」
「その前にまずは世界樹とは何かを教えましょう。私の本体は勿論後ろにある大きな木です。この人の姿は貴方と話す為だけに作った分身、精霊エムネスを模したので似ているのです」
なるほどと納得する。
「では普段の木の姿で何をしているかと言うと、この世界の監視です」
「監視ですか?」
「この空間の無数の星の様な光、これはこの世界にある全ての植物の命の光です。私はこれを通して世界を監視しております」
「その理由を聞いても?」
「この世界が滅びない様にする為です。世界を滅ぼす者、事象が現れようとすると私が手助けをする。それが世界樹の役割です」
「俺もその原因で排除されるとか・・・・・・」
「確かに貴方は異世界からやって来た不安因子でしたが、世界を滅ぼす原因であればもっと昔に手を打ってましたよ」
良かったと安堵しつつ、俺の素性もバレバレである。
「誰もいないあの森に突如湧いた人間でしたから、当初はかなり警戒をしました」
「あはは、それもそうですよね」
「そんな貴方の行動を見てきたからこそ、今回はある依頼をと思いここに呼びました」
ここからが本題の様だ。
「実は世界樹にも寿命があります。それは数年かもしれませんし、数百年、数千年とバラつきがありますが、死期が近付くと新たな種を生むのです」
「その話の流れ的に、もしや種があるんですか?」
「えぇ、こちらです」
10cm程の黒い植物の種を見せる。
「私は数年以内に寿命を迎えます。本来は植物を通して次の安全な場所を見つけ植えに行くのですが、今回は貴方の家の側に植えて欲しいのです」
「この精霊国なら、かなり安全では?」
「残念ながら同じ場所に連続で世界樹を植えると、土地が耐えきれないのです。今までに各地を転々としてきた、それが世界の何処かにあると言われる由縁です」
色んな所で目撃された過去があるのだろう。
「貴方の住む森には、しばらく植えておりませんでしたので問題無いでしょう」
「1つ聞きたいのですが、このサイズの木が我が家の側に出来るって事ですよね?あまり目立つ事は避けたいんですが・・・・・・」
「それは安心して下さい。しばらくすると、この様な異空間を作り存在を隠しますから。ただそこまで成長するのに安全な場所が必要なのです」
「そういう事なら手伝いますよ」
「ありがとうございます。ではこちらをどうぞ」
種を受け取る。
「育て方は水をあげるだけで大丈夫ですか?」
「水だけで他に特別な物はいりません」
帰ったら植える場所を考えないとなと思う。
「成長すれば貴方達の役に立つ事でしょう」
「はい?」
どう役立つかは教えてくれなかった。
「今日はありがとうございました。後ろの裂け目を潜れば家に戻れます」
いつの間にか背後に、浮いた裂け目が出来ていた。
「大切に育てます」
「えぇ、次代の世界樹をよろしくお願いします」
別れを告げて裂け目に入ると、我が家の前に到着した。
「ただいま〜」
「おかえりなさいませ。大丈夫でしたか?」
アリーと子供達が迎えてくれる。
「大丈夫だったよ。リビングで話そうか」
世界樹と会った事を話す。
「まさか本当に存在していたとは」
「精霊国にあるなら気付かん訳じゃ」
我が家でも世界樹を見た事のある人いない。
「一度はこの目で見てみたいものですね」
「それが出来るとしたら?」
皆が首を傾げ、俺は世界樹の種を取り出す。
「今回呼ばれたのは、この世界樹の種をここに植えて欲しいって事だったんだ」
「世界樹が家の側に出来るんですか!?」
「目立たそうだな」
「成長したら目立たない様に、異空間に隠れるらしいから大丈夫ですよ」
「へぇ〜自ら異空間を作るんだ。いいね世界樹、研究したい」
「イルシーナさんは、あんまり近付かないで下さいね?」
「えー、いいじゃん!先っちょだけだから」
「先っちょも何も無いじゃろ」
「目立たなくなるにしても、何処まで大きくなるか分かりませんし、場所は考えないとですね」
「何処か良い場所ないか、ドラちゃんにでも聞いてみるか」
土中に詳しいドラちゃんに聞いてみると、オススメの場所があるそうで、そこを使わせて貰う。
何やら栄養豊富な場所らしいが、見た目は一緒なので分からない。
そこに早速、種を植えて水をやり、分かりやすい様に世界樹と書いた看板を設置する。
「成長が楽しみですね」
「明日は私が水やりやる!」
イルシーナさんがそう言い出す。
「変な薬混ぜないで下さいね?」
「しない、しない」
メアリーさんに言われ目が泳ぐ。
「じゃあ明後日は私がしたい」
子供達も手を上げ、当番制で水やりをする事に決める。
無事に成長してくれるかと不安を残しつつも、しっかり見守ろうと皆んなで協力していくのだった。
今回で遂に500話目です!!
まさかここまでの話数になるとは思っていませんでしたが、ここまで来たら1000話まで目指したいところですね。
これからもまだまだ頑張りますので、応援よろしくお願いします!




