戴冠式
「全員準備出来たかな?」
「大丈夫です」
シャロンさんの戴冠式の日がやって来た。
現在は9時で式自体は12時から始まるそうだが、その前にオレイユさんの話を聞く為にも早めに向かう。
街へと転移して城へと向かう。
「お待ちしておりました。オレイユ様がお待ちです」
すんなりとオレイユさんの部屋へと通される。
「来たか、待っていたよ」
部屋に入ると白いドレスで着飾り、金の王冠を付けたオレイユさんが待っていた。
「わぁ、先生とっても綺麗です!」
「おいおいアリシア、私はいつも綺麗だろ」
「こんなに着飾っている先生は新鮮ですね。それに普段見ない王冠まで」
「こんな日くらいは着飾るさ。まぁ、苦しいからさったさと脱ぎたいし、王冠も重いから邪魔なんだよねぇ」
「シャロンちゃんもお着替え中ですか?」
「そうだ。式が終わるまでは残念だが会えない。終わってから少し時間を取っているからその時に話すと良い」
「分かりました。ところで、シャロンちゃんが女王になる理由を聞きたいのですが?」
「まぁあれだ、なるべく早く引き継いだ方が後々楽になるんだよ」
「そうなんですか?てっきり私は疲れたとか飽きたとかだと思ってました」
「それもある」
「あるんですね」
「まっ、私も1年かそこらはサポートするつもりだ」
「その後はどうされるのですか?」
「うーん、そうだなぁ・・・・・・」
コンコンと部屋のドアがノックされメイドが待っていた。
「すまない、私も準備に掛からなければならん。式までこの部屋でゆっくりしていてくれ」
オレイユさんはそう言い残して去って行く。
「ある程度は聞けましたし良しとしますか」
「式までまだ2時間以上か、一旦帰る?」
「ここは肌がピリピリするから帰らせろ」
邪神には居心地が悪いのかグリートはそう言う。
「何名か残って一度戻りたい人は戻らせて」
どうするか決めようとしていると、再びドアをノックする音が聞こえ入札を促すと、シャロンさんに似た真っ白な人が現れる。
「やっほー、こんにちは」
「シャーユさん、お久しぶりです」
元は真っ白な聖獣のスライムであるシャーユだった。
「オレイユから君達の相手をしてくれと言われてね。お茶やお菓子も用意したから楽しんでくれ」
メイド達がテーブルをセットし、その上にお茶菓子を置いて去って行く。
「何か気に食わない気配はするが、まぁ今日は特別な日だから許してあげよう」
「私も貴様の気配は気に食わんが、菓子に免じて許してやろう」
聖獣と邪神、相反する者同士で火花が散っている。
ひとまず椅子に座り、お茶を飲みながら色々と話を聞く。
人間の姿を半日は維持できる様になった事、凄い回復魔法の使い手として城内で人気な事、それの人気がきっかけで次期聖女と言われている事など。
「性別は無いから聖女と言われても困るし、そもそもシャロンが女王兼聖女となるしね」
「でも、シャロンちゃんの次の聖女を探すのも必要ですよね」
「その内現れるよ。オレイユがシャロンを見つけたのも神の思し召しだから」
「ふん!何が神の思し召しだ!偶然だ偶然」
「ちょっとそこ、うるさいよ」
またまた火花が散り始めた所で、メイドさん達がやって来て時間だと言う。
いつの間にか式の30分前になっていた。
「もうこんな時間か、オレイユから君達を案内してと言われているんだ」
シャーユさんの案内で向かったのは、バルコニーの側だ。
ここで民衆に向けて戴冠式を行うそうで、関係者の集まる裏側で見れるそうだ。
「なんだか緊張してきました」
「お前が緊張しても意味無いだろ」
アリーに辛辣なグリート。
城の外からは多くの民衆の声が聞こえる。
式の時間は刻一刻と迫り、遂にその時がやって来る。
まず初めに、オレイユさんがバルコニーへ出る。
「民よ、今日を以て私は王を辞める」
大事な式なのに何ともいい加減な挨拶だが、民衆からは落胆の声が聞こえ慕われていたのが分かる。
「そう気を落とさずとも安心するが良い。私の後を継ぐ者を紹介しよう。聖女シャロン・ラ・マズロルだ」
その言葉に民衆は湧き上がる。
そして、オレイユさんと同じ白いドレスで着飾ったシャロンさんが、俺達の目の前を通りバルコニーに出る。
民衆の声は更に大きくなる。
「シャロン・ラ・マズロル。汝を聖国の女王とする」
自身の金の王冠を外し、シャロンさんの頭に載せる。
「シャロン・ラ・マズロル。聖国モントロレの女王、そして聖女として、より良い国を目指します」
「あぁ、期待している」
ここで、街にある教会全てが一斉に鐘を鳴らして祝福する。
これで戴冠式は終わった様で、2人は民衆に手を振りながら中に戻り、俺達の方に向かって来る。
「つ、疲れましたー」
「シャロンちゃん、お疲れ様でした」
「根を上げている暇は無いぞ?今から街中をパレード、その後は各国からお偉いさん達が毎日の様に訪れて来て、会食をしなければならん」
「まぁ、聖女として各地で似た様な事をしましたので今更感はありますが」
「聖地巡礼はこれを見越しての予行練習なんだ」
「そうだったんですか?」
「いや、冗談だが実際良い経験になっているだろ」
「それにしてもシャロンちゃんも素敵な衣装ですね。まるで、ウエディングドレスみたいです」
「やはりそう見えますか?聖女を表す純白のドレスらしいのですが」
「聖女になったら結婚出来ないから良いんじゃないか」
どうやらアリーも初耳だったそうで、少し驚いている。
「聖女は純潔さが求められるからな」
「では次代の聖女に代わった場合は出来るのですか?」
「出来るさ。ただ、次の聖女に交代するのに時間が掛かると、婚期を逃して結局結婚出来ないな」
「まぁ、そもそも私にその様な相手が居ないので話はそこからですけどね」
「それは違いない」
「ところで先生、先程の続きですがシャロンちゃんを1年程サポートしたらどうするんですか?」
「そう言えば私も気になっていました。どうするか決めたんですか?」
シャロンさんにも何も言ってなかった様だ。
「あぁ、それなんだが・・・・・・久々に旅にでも出ようと思う」
「旅ですか?」
「旧友に連絡して昔みたいに各地を回ろうと思ってな」
「旧友と言いますと、もしかして聖女時代に参加していた勇者パーティーの方ですか?」
「おう、そうだ」
「どんな方か気になりますね」
「私も会った事無いです」
「シャロンは小さい時に1回会った事があるが、覚えて無いか」
「もう1度お会いしたいですね」
「なら会うか?」
「そんな簡単に会えるのですか?」
「戴冠式に呼んでいたからこの国に居るんだ。城の方で見ろと言ったんだが、堅苦しいから嫌と街の方で見ていた」
「会えるのなら会いたいです」
「では遣いを出しておこう。今日は無理だが、明日はシャロンも休みだ。なんなら最初の仕事として王命でもだすか?」
「流石にそんな事は出来ませんよ」
「はは、そうか。アリシア達はどうする?」
「私達も同席して大丈夫なんですか?」
「アイツはそんな事気にしないさ」
「ならお邪魔します」
「よし、決まりだな!明日は夜7時に来る様に」
「まさかの夜ですか」
「酒で釣らんと来ないんだよ」
それだけで性格が何となく分かってしまう。
「食事の準備はこっちでするから、楽な格好で来てくれ」
こうして2人は戴冠式後のパレードへと向かって俺達は家に帰る。
そして翌日、オレイユさんの旧友で元勇者に会う事となる。