お仕事
「依頼が欲しい?珍しいじゃないか」
そう言うのは、パラス・レイ・ゾーラである。
「当ててやろう。金が欲しいのだろう?」
「えぇ、少し入用が出来たので」
あの街での出来事を知っているのか、理由をすぐに当てる。
「金は腐る程あるし、丁度欲しい素材があったからそれを取りに行って貰おう」
「ちなみにどれくらいの難易度ですか?」
「そう難しくないさ。詳細はこの紙に記したから、よろしく頼むよ」
そう言われて、いつもの真っ暗な空間から校舎に戻されると、いつの間にか持たされていた封筒を確認し家へと戻る。
〜〜〜〜〜〜
「ゔぇ〜、なにこれぇ〜」
家に戻り、イルシーナさんが封筒の中を確認すると変な声を出す。
「そんなにやばい依頼?そんなに難しく無いって言われたんだけど」
内容はとある薬草を採取するという物だ。
「これが何処に生えてるか知ってる?」
俺は首を横に振る。
「魔物の体内だよ。でっかいクジラの魔物がいるんだけど、その中に生成されるの」
「なんかエレオノーラさんが似た様な魔物の話をしてた様な?」
ダンジョンに行った際に、大きなクジラのボスが居ると話していた。
「魔物は倒したら消えちゃうから、倒す前に取らないといけないよ」
「体内に入るのか・・・・・・」
「エレオノーラちゃんに聞いてみれば?」
「とりあえず攻略方法とか聞くしかないか」
エレオノーラさんに話を聞きに行くのだった。
〜〜〜〜〜〜
「よし、気合い入れていくぞ!」
早朝、ダンジョンの前にて喝を入れるエレオノーラさん。
その前に、俺とメアリーさんとイルシーナさんが居る。
「ねぇーー、ほんとに私も行かないといけないの?」
「薬草に詳しい貴女が必要なんです。潔く諦めて下さい」
「ふえぇぇーー」
「さっ、先を急ごう」
「他の冒険者に先に倒されるからですか?」
「一応それも考慮して早い時間に来たが、実はここのボスは5年は倒されていない」
「そんなに強いんですか?」
「そこまで強くは無いのだが、倒した後が問題でな。そこら辺は着いてからおいおい説明しよう」
ダンジョンは以前にも訪れた中が海になっている所だ。
4人乗りの小舟に乗って、手際良く階層を降りて行き、最下層のボス部屋前に辿り着く。
「さて、この扉を開いたらボスが居る海が広がる訳だが、まずはこれを鼻に詰めてくれ」
マシュマロの様な白い物を渡してくる。
「体内は強烈な臭いが溜まっているから、それを防ぐ為の物だ」
「そこまで強烈だと体に付いちゃわない?」
「そこは我慢だ」
「ほんとに行きたく無くなるんだけど」
「もう後戻りは出来ませんよ」
イルシーナさんは諦めた様に項垂れる。
そして、ボス部屋の扉を開くと相変わらずダンジョンと思えない程の広大な海が広がっている。
ポツンと置かれた小舟に乗り、しばらく進むとエレオノーラさんが舟を止める。
「ここでコレを海に撒く」
そう言って赤い粉を撒いた。
「これは魔物を誘き寄せる粉だ。地上だと燃やした煙に釣られて来るが、ここだとそのままで効果がある」
その言葉の通り少し待っていると、ザッパーンと大きな音と波を立てながら、体長100m超えの黒いクジラが現れた。
「デカっ!」
「イルシーナ、1発魔法を撃ち込んでくれ」
「えっ、うん良いけど・・・・・・」
言われるがままに魔法を当てると、敵と認識したのかこちらに真っ直ぐ向かって来る。
「よし、皆んなしっかり掴まっている様に」
「き、緊張しますね」
「怖いよぉー」
ゴクリと唾を飲み込みその時を待つと、クジラが大きく口を開き舟ごと俺達を丸呑みにした。
「ぎゃあーー!」
大量の海水と共に飲み込まれ、ジェットコースターの様にクジラの体内を進んで行く。
「そろそろだ、着地に備えろ」
ガシャーン
舟が何かにぶつかり壊れて、柔らかい地面に放り出される。
ランプに明かりを灯すと、一面赤いプヨプヨとした物に覆われていて、体内だと分かる。
「どうだ?スリル満点だっただろ?」
「怖すぎ」
前世の創作物でもクジラに飲み込まれるというのがあったが、まさか自分が体験する事になるとは思わなかった。
クジラの体内は広く、上まで10mはある。
「ここから30分でタイムリミットだ」
「それを過ぎるとどうなるんですか?」
「消化される。ここは胃にあたる部分だからそれを過ぎると溶かされ始める」
「それは急いだ方が良いですね」
「行こ行こ!」
イルシーナさんが先頭に立って先を急ぐ。
しばらく歩いていると、剣や鎧が下や上に埋もれていた。
「あれは冒険者達の物ですよね」
「倒しきれなかった冒険者達の遺品だな」
「もしこのボスを倒すとしたら、どうやって倒すんですか?」
「通常はレイドを組んで倒すボスだ。20人〜30人の冒険者を集めて体内組と海上組に分かれる感じだな」
「海上組は何をしてるんですか?」
「ボスを海上付近に留めるように攻撃をするんだ。ボスを倒したらそのまま外に放り出されるのだが、それが深い所だと溺死してしまうだろ?」
「なるほど・・・・・・」
「ちなみにここまで体内に敵は居ませんでしたが、ボスはやられるがままですか?」
「いや大量の海水を飲み込んだり、あとは・・・・・・」
そう言い掛けた所で、急に壁に打ちつけられ、次は天井にまた壁にぶつかり、元の場所へと戻った。
「こんな感じで1回転を挟んでくる」
「そこまで痛くは無いですね」
「そうだな。ただ、ボスはかなりタフでそれだけの人数を集めても倒せない事の方が多い」
「脱出経路とか無いの?」
「基本的には無いが、普通のクジラが潮を吹く様にボスも同じ事をする。そのタイミングで穴を見つけて入れれば脱出は可能だ。我々は転移で脱出するから関係無いがな」
「何がそこまで冒険者を掻き立てるのやら」
「強力な装備が手に入ったりと報酬が美味いんだ」
「ふ〜ん」
イルシーナさんは興味が無さそうだ。
その後も歩き続けるが、目的の薬草が見つからない。
「なぁ、何処かで見落としていたりしないか?」
「そんな筈無いけどなぁ」
「もうこの先は行き止まりだ」
何やら人が1人入れるくらいの穴がある。
その先は腸にあたる部分で、入るものでは無いそうだ。
「あの、アレは違うんですか?」
メアリーさんが上を見上げながら言う。
そこには曼珠沙華の様な赤い薬草が咲いていた。
「おぉー!あれあれ、メアリーちゃんでかした!」
「しっかり見てて下さいよ」
「でも、あれどうやって取るの?」
10mはある天井に生えているので簡単には取れない。
「貴女が飛べば良いのでは?」
「箒、忘れちゃった」
「肝心な所で駄目ですね。仕方ありません」
メアリーさんは槍を突き刺し、階段状にして登り薬草を採取した。
「ねぇ、これって攻撃にカウントされない?」
「まぁ、そうだろうな」
その通り、クジラの咆哮が体内まで響いた瞬間、来た道から大量の水が押し寄せて来る。
「もぉー、メアリーちゃんのせいだよ」
「これが手っ取り早かったんです!」
「コタケ殿、ゲートを」
すぐにゲートを開き、海水が目の前まで迫って来た所で、なんとか家の庭に脱出する。
「うおっ!臭いのじゃ!」
たまたま居合わせたティーが鼻をつまみながら言う。
「危なかった〜」
「すみません、軽率でした」
「無事に仕事も達成したから大丈夫だ」
「そんな事より、お風呂入ろうよ」
「強力な臭い消しがあるから、それを使うと良い」
「さっすが、メアリーちゃん行くよー」
「はいはい」
臭いのが嫌なのか、珍しく大人しく一緒に入るメアリーさん。
「俺も体を洗ったら納品してきます」
「次は討伐目的で行こうじゃないか」
エレオノーラさんはノリノリでそう言った。
「それは・・・・・・考えておきます」
お茶を濁しつつも、風呂に入った後学園に向かう。
「これ違うぞ?」
「えっ?」
「依頼の物に似ているが、別の薬草だ」
「でもイルシーナさんがこれって・・・・・・」
「全く、いい加減な奴だ。まぁ、これもかなり貴重な物だからな、約束通りの金額を払おう」
大金貨5枚を貰う。
「本来の依頼の物は砂漠に生えている。イルシーナなら分かると思ったが、先に言っておくべきだったな」
「次からは詳細もお願いします」
「そうするか」
結局依頼とは違ったものの、報酬をしっかり貰えたので良しするのだった。




