酔いどれ
醤油を作った、その日の夜。
夕食を食べた後に、アリーの両親に結婚する事をどうやって伝えるか話し合う事となった。
「何か良い案がある人いる?」
俺はそう問いかけたが、皆一様に悩んだ。
「変装して入るっていうのはできないのかな?」
と単純ながらも俺はそう提案した。
「街に入る際に門番からチェックを受けますので、その際にバレてしまう可能性がありますね」
アリーはそう答えた。
「やっぱりそうだよね・・・同じ様な案だけど魔法とかで見た目変えることはできないのかな?」
「ティーフェン様であればその様な魔法は使えると思いますが・・・」
「そうじゃな、妾なら見た目を変える魔法を使うことはできるんじゃが・・・」
と2人は少し歯切れが悪そうだった。
「ですが残念なことに、大きな街には魔法の使用を検知する魔道具が門に設置されていますので、それでバレてしまうでしょう」
「ティーでもその魔道具突破する事は無理なの?」
「うむ、それを設計したのは大賢者の奴じゃからな」
「そんなに凄い人なの?」
「魔法の腕に関しては奴の右に出る者はおらんのじゃ」
「なるほど・・・じゃあどうしようも無さそうだな」
中々良い案が出てこない。
「1番安全そうなのは手紙なんだけど・・・」
「私としては、無事である事と結婚の報告を会って伝えたいので・・・」
「まぁ、そうだよね。1番良いのはあっちの様子を知ってる人か知る事が出来る人が居れば良いんだけど」
「私達4人は危ないですし、ワタルさんは領地の場所は知らないでしょうし・・・」
「ティーが行くとしても、ドラゴンの姿で行くと目立つからね」
結局この日は解決案は出てこなかった。
翌日、特にする事も無かった俺達は家でのんびりとしていた。
すると、家の扉をノックする音が聞こえてきた。
俺が扉をあけると下にクロがいた。
「どうかしたか?」
クロはこっちについて来て欲しいといった雰囲気だった。
クロの後をついていくと拠点の入口に他のスライムも集まっていた。
そして、そのスライム達の上に女性が1人横たわって乗っていた。
「この人どうしたの?」
クロの説明では、森を探索していたら倒れている人を発見した様で、放置するのも可哀想なので連れて来たとのことだった。
「じゃあ、とりあえず家まで運んでくれるか?」
そう言いスライム達に女性を家まで運んでもらった。
「何かありましたか?」
とアリーが尋ねてきた。
「なんかクロ達が倒れた人を見つけたみたいでさ、ひとまずこっちまで運んで来たんだ」
「普通の女性・・・ではなさそうですね」
こんな森にいたのだから、普通の人では無い事は確定なのだ。見た目は肩まで伸びた紫色の髪に、頭上の左右にはツノが生えている。
「この人ティーの知り合いだったりする?」
「知らん奴じゃな。というかこやつ多分魔族じゃな」
「魔族?」
「なんじゃ知らんのか?お主も変わっておるの。魔族というのは人と変わらぬ見た目で頭にツノを生やしており、身体能力も高く魔法を得意とする者が多い種族じゃ」
「殆どの魔族の国は私達人間とは、敵対してますが友好的な関係を築いている魔族の国もあります」
「魔族の国があるんだ」
「はい、魔族の国は3つありますがそれぞれ魔王が統治してます」
「魔王・・・」
聞いただけでもヤバそうだ。
「魔王は現在6名いるみたいですが、国を統治してない3名はどの様な人物か分かっていません」
「魔王がいるって事は勇者みたいなのもいるの?」
「はい、人間の大国では魔王に対抗する為それぞれ勇者を選抜しています。私がいたマゼル王国でも、勇者はいましたよ」
「勇者も何人もいるんだ。魔王に対抗って言うことは人と魔族は戦争してるの?」
「今は表立って戦争はしておりませんが、時折魔族による被害があったりするそうです。それにいつ戦争が始まっても良い様に勇者を選抜しているそうです」
「なるほど、それじゃあこんな簡単に家に入れるのは不味かったな」
「全ての魔族が敵対しているわけでは無いので、こちらの女性も友好的な方だとありがたいのですが・・・」
「まぁ、その時は妾に任せよ!一瞬で無力化してやろう!」
「うん、頼りにしてるよ」
と話している内に女性が目を覚ました。
「んん、あれ?ここどこ?」
「えっと、こんにちは」
「あなた達誰?」
「森であなたが倒れてるのを見つけて、安全な場所まで運んで来たんです」
「森・・・あぁ!思い出した!ごめんなさいね、迷惑をかけたみたいで」
「大丈夫ですけど、なんで森で倒れてたんですか?」
「いや〜、昨日の朝から晩までお酒飲んでて、フラフラしてたら森の中でそのまま寝ちゃったんだよね〜」
と女性は笑いながら言った。
確かに微かに酒の匂いが漂ってくる。
「酒の飲み過ぎ・・・」
「あはは〜、そうだ!この家にお酒ない?思い出したら喉渇いちゃった」
「まだ飲むんですか」
「お酒ないと1日が始まらないからね〜」
(この人大丈夫かな・・・)
「一応お酒はありますけど、量は全然無いですよ」
「あら〜?それは申し訳ないわね・・・あっ!そうだった、私持ってるんだった」
そう言って、女性が手を伸ばすとその先に謎の空間が表れそこから一升瓶ほどの大きさはあるワインのボトルを取り出し豪快に飲み始めた。
「ぷはぁ!やっぱ美味しいね〜!」
(やっぱりヤバい人なのかな)
「あーコタケよ」
と急にティーが耳打ちしてきた。
「さっき一瞬で無力化すると言ったが、ちょっと苦戦するやもしれん・・・」
「どういうこと?」
「あやつは空間魔法を使って酒を取り出しておったんじゃ。空間魔法は使える者はそんなに多くない上に魔族ともなると、それなりに強い可能性がある」
相手が敵対すると本格的にまずい事になりそうだ。
「ところでさ〜あなた達なんて名前なの〜?」
酒を飲んでほろ酔いになった女性が聞いてきた。
「俺はコタケ ワタルで・・・」
と続けて他の人も紹介していった。
「ふ〜んコタケ ワタル・・・聞き馴染みの無い名前だね〜。それにそっちのツノの生えた子の名前どっかで聞いたことあるんだけど、う〜ん・・・忘れた!あははは!」
(無駄にテンションが高い・・・)
「それでそちらのお名前は?」
「あっ!そうだね名乗って無かったね〜。私はね、オルフェって言うんだ〜」
「オルフェさんは魔族だよね?」
「そうだよ〜、でも安心して〜私、人間とは仲良くしてるから襲ったりしたないよ。それにそこの少女には勝てなさそうだし〜」
ティーに勝てないと察するあたり、彼女もやはり実力があるのだろうか。
「それでさ〜、物は試しで言うんだけど、私もここに住まわせてくれない?君達ここに住んでるでしょ?」
急にとんでもない事を言い出した。
「でも、国に家とかあるんじゃないですか?」
「ないない、私っていっつも適当に旅してるから家とかないんだよね。でも、そろそろ疲れたからひと休みしたいなーって、ダメだったかな?」
「んーちょっと考えさせて」
一旦全員集合した。
「どうする?」
「今の所は、害は無さそうですけどね」
こうして話している内にも、ワインの2本目をあけて飲み始めていた。
「私達はワタルさんの判断に従いますよ」
アリーがそう言い、他の人達も一様に頷いた。
「そっかわかったよ」
話し合いを終えて、オルフェさんの前に戻ってきた。
「この家に住んでも良いですよ」
「ほんと!ありがと〜!」
「ただ、お酒はほどほどでお願いするのと仕事も手伝って貰いますよ」
「まぁ住まわせてもらう訳だしね、それで良いよ〜」
「それじゃあ早速、お風呂があるんで入ってきてもらって良いですか?」
流石にお酒の匂いがきつかったので、先にお風呂に入ってもらう事にした。
「じゃあ、ティー案内してあげてもらっても良い?」
「うむ、任された。こっちじゃぞー」
「は〜い」
(なんかフラフラしてるけど、大丈夫だよな?)
こうして、拠点にまた新たな住人が住む事となった。




