宝物庫
「この前のさぁ〜、夜宴に行って思ったんだけど、ララちゃんの城にも宝物庫ってありそうじゃない?」
ある昼下がり、ソファに寝転びながら話すオルフェさん。
「魔王の城だし何かしらはあるんじゃ無いですか?」
「よし、行こう!」
〜〜〜〜〜〜
「で?それでいきなりやって来たと?」
「ごめんなさ〜い」
ララさんの自室のデスクの前で、正座をさせられるオルフェさん。
「今日はたまたま仕事が少なくて時間は空いてるが、オルフェも働いているのだから約束が大事なのは分かっているだろ?」
お説教モードのララさんは簡単には止まらない。
「ララお姉ちゃん、ママをあんまり虐めないで」
「ベル、これはな大人に必要な事で・・・」
「「おねがーい」」
一緒に付いて来ていたベルとユリが声を合わせて言う。
「ぐっ、子供を使うのは卑怯だぞ」
「別に私が指示してる訳じゃないよ」
「仕方ない。今回は子供達に免じて、これくらいにしておこう」
「ララお姉ちゃんありがとう」
ララさんも子供達にはデレデレだった。
「それで、宝物庫だったか?」
「そうそう、見せて〜」
「そんな期待するほど面白い物は無いぞ?」
「いいから、いいから」
ララさんの案内で、魔王城の宝物庫へと向かう。
5mの大きな扉の前に到着したが、見る限りでは警備やロックなどは無い。
「こうして、登録した者の魔力を扉に通すと開く仕様だ」
扉に手を当てながら言うララさん。
つい最近、空中都市でも見た光景だ。
しばらくすると、ガチャっと鍵の開く音がして扉が開いていく。
扉が完全に開いてまず目に飛び込んだのは、地面を埋める程に撒かれた金貨の数々だった。
そして、壁際には金で作られた鎧の像が並んでいた。
「うわっ、なにこれ?」
「国の有事の際に使用する金貨だな」
「何というか宝物庫よりも金庫に近い様な」
「確かにそうだな」
「あの像は何なの?」
「歴代の魔王の趣味だ。余程、金が好きだったんだろうな」
「へぇ〜、趣味わるー」
幸いにも歩くスペースは少しだけあったので、オルフェさんが先に進もうとすると、
「あっ、オルフェ!待て!」
ララさんの声に振り向いた瞬間、横から炎を纏った剣が振り下ろされ間一髪の所で躱す。
「ひっ!し、死ぬかと思った・・・」
剣の出所は、壁際に並ぶ金の鎧像だった。
「使い道が無かった像を先々代が、警備用の自動化させたんだ」
「そういうのは先に言ってよ」
「オルフェが勝手に進むからだろう。子供達はしっかり私の後に付いて来るんだぞ」
「「はーい」」
ララさんの後を追えば、警備が反応する事も無いそうで安全に進めた。
「しっかし、金貨ばっかりで他は何も無いね。もっと武器とか美術品とかあるんじゃないの?」
「元々少なかったんだよ。私は美術品に関して詳しく無いから、城の中に飾っておいた。武器はそこの像達に持たせた」
「やたらと強そうな剣を持ってたのはそう言う事。じゃあ、この宝物庫ってこれ以上何も無いの?」
「いや、1つだけ保管している物があるんだ」
そう言って1番奥へと進むと、壁に50cm位の装飾された金の杖が飾られていた。
「これも歴代の趣味?」
「違うぞ。この国の建国からあった王笏だ」
「貴重そうだけど、もっと厳重に警備した方が良くない?」
「どうせ私以外に持てる者はいないから問題無い」
ララさんは王笏を手に取り、
「オルフェ、手を出してくれ」
「うん?」
言われた通りに手を出したオルフェさんに王笏を持たせると、
「あばばばばば!」
電気が走った様にビリビリと音を立てながら震え、王笏を床に落とす。
「とまぁ、資格のない者が持つとこんな感じになる」
「先に言ってよ」
本日2度目である。
「て言うか、資格って何?私も同じ魔王なんだけど」
「私の様にこの王笏に選ばれた魔王のみだ。選ばれた者は魔王としてこの国を治める事が出来る」
「私みたいな、なんちゃって魔王ダメって事ね」
「自分で言うのか・・・」
「だから、この王笏を持てる者は私の後継に・・・」
「はい、どうぞ」
「あぁ、ありがとうベル・・・」
「「はっ?」」
王笏を拾おうとしたララさんに、ベルが涼しい顔をして手渡し全員が驚く。
「まてまて、何ともないのか?」
「うん、大丈夫だよ」
「嘘、ベルが魔王・・・」
「ベルお姉ちゃん、すごーい!」
「まさか、後継者がこんなに近くに居るとはな。確かにベヒーモスのベルならピッタリか」
「ダメダメ!ベルには他に足ついた職業になって貰うんだから」
「でも、ママと一緒だよ?」
「うぐっ、そうだけど・・・魔王って危ない仕事なんだよ?人間に狙われたり同族に狙われたり」
「勿論やり甲斐もあるぞ。それに、そうならない為にも優秀な臣下を揃える事も重要だ」
「四天王的な方達が居るんですか?」
「他の魔王の国は四天王だな。私の国は人間の様に宰相や各大臣が居るんだ。日中は各地に飛び回っているから滅多に会えないが、全員優秀な者達だ」
「ベルはママのお仕事の後継になろ?」
「子の好きな様にさせるのも良いじゃないか」
「それで危険な目にあったら良くないでしょ」
どちらの言い分も分かるが最終的に決めるのはベルなので、
「今はまだ決められなくても良いから、こんな事も出来るんだって覚えておくのが良いよ。もうちょっと大人になってから決めれば良いんだからさ」
俺はそう言う。
「ララお姉ちゃんの仕事も気になるけど、ママが言う事も分かるからそうする」
「そうだな。ベルがもう少し成長してまだ興味があるなら、私の後継として育てていこうじゃないか。それまでこの王笏は預かっておくよ」
「何としても魔王は諦めさせるしか・・・」
オルフェさんはこれからも奮闘するつもりの様だ。
「ベルお姉ちゃんが魔王なら、私は勇者になれば良いのかな!」
「あはは、面白そう」
不意に放つユリの言葉にベルは面白がるが、実際になれる実力になってそうなので否定出来ない。
「パパも危ない事は、あんまりして欲しくないかな?」
俺の言葉に仲間を見つけたかの様に、オルフェさんが肩をポンポンと叩くのだった。