報告
アリーにプロポーズをした翌朝、気持ちが昂り寝付けなかった事もあり、ハウザーさんの呼び掛けで目を覚ました。
「コタケ様、おはようございます。本日は珍しく起きてらっしゃらなかったですね」
「おはようございます。昨日、色々あって中々寝付けなかったんです」
「そうでしたか、もう少し遅めに起こしにきた方が良かったですか?」
「いえいえ、大丈夫ですよ。俺も起こす時間については何も伝えてなかったですから」
次からは何時に起こして欲しいと伝えた方が良いかもしれない。
とりあえず朝食を食べ終えたので、昨日の事を他の人に報告する為にも、アリー達の部屋へと行くことにした。
部屋をノックすると、メイド長のラシュデーテさんが出て来た。
「すいません、今入っても大丈夫そうですか?」
「少々お待ちください」
そう言って中にいるアリー達の確認を取った。
「入っても宜しいそうです」
と言われたので部屋へと入った。
ちょうど朝食も食べ終えて、寝巻きから着替えた後だったみたいだ。
「それでは、私は失礼致します」
ラシュデーテさんは、気を遣ってくれたのか部屋から出ていった。
「ワタルさん、おはようございます。何か御用でしたか?」
「おはようアリー、昨日の事を他の人にも伝えておこうと思って」
そう言うとアリーの顔は少し赤くなった。
「エレオノーラさん達も、もしかしたら気付いてるかもしれないけど、昨日アリーにプロポーズして結婚して欲しいと伝えたんだ」
「やはり、あの指輪はコタケ殿からだったんだな」
他の人も、アリーの左手の薬指の指輪に気付いていたみたいだ。
「昨日、我々が帰ってきたら、嬉しそうに指輪を眺めていたからな、遂にこの時が来たかと思ったよ。それで結婚式はいつ上げるんだ?」
「もう、エレオノーラったら気が早いですよ」
「私たちも、早くお嬢様の晴れ姿を見たいので」
「それについては、おいおい考えるよ。アリーの両親にも何とかして伝えたいしね」
「そうだな、公爵様にもお伝えしたいが、今は国に戻るのは危険だからな・・・」
アリー達は、元いた国で失踪した事になっている可能性が高いので、特に領地の方に戻るのは危険だった。
どうしようかなと皆んなで悩んでいると、アリーが手をパンパンと叩き、
「それを考えるのは、また戻ってからにしましょう」
と言った。
「そうだね、後でしっかり考えよっか。それと、後もう一個あるんだけど、明日にはこの国を出ようと思うんだけど大丈夫かな?」
「私は問題ないですよ」
「私達も問題は無い。今日中にお世話になった所に挨拶をしてこよう」
アリーは問題なく、エレオノーラさん達も問題ないようで騎士団や厨房の人達に挨拶を済ませておくようだ。
「じゃあ、ティーにも明日には帰る事伝えておくからまた後でね」
「でしたら、私もついて行きます」
アリーも報告に一緒についてくる事になった。
そして、部屋を出ようとした所で、
「あっ!お嬢様、コタケ殿!」
エレオノーラさんに呼び止められた。
「お嬢様、コタケ殿、改めて結婚おめでとうございます」
続けて、アンさんとリビアさんも、おめでとうございますと祝ってくれた。
俺とアリーは揃って、3人にありがとうとお礼を伝えて、部屋を後にした。
4階のティーの部屋の前へとやって来た。
部屋の扉をノックすると、メイド姿のヴァルナさんが出てきた。
「今お時間大丈夫そうですか?」
「えぇ、構いませんよ」
部屋へ入ると、ティーは書類仕事をしていた。
「おっ?なんじゃ2人揃ってこんな時間に珍しのう?」
「ティーに報告したい事あるんだ」
「私は席を外した方が宜しいですか?」
「いえ、ヴァルナさんにも聞いて欲しいのでこのままで大丈夫です」
「それで話とはなんじゃ?」
「うん、昨日俺の方からアリーにプロポーズして結婚する事になったんだ」
「おぉ!そうなのかそれはめでたいのじゃ!」
「おめでとうございます」
ティーとヴァルナさんもお祝いしてくれた。
「そういえば、昨日の花火の時に城の5階から2人の気配がしたが、もしやその時か!」
「もしかして見えてた?」
「いや、見えてはおらんが近くを通った時に気配とそれっぽい人影が見えたんでな」
あの時は、アリーからキスされた直後だったので見られてないようで何よりだ。
「見えてなかったんだったら良かったよ。それと、明日には家に帰ろうと思うんだけどティーは大丈夫そう?」
「妾は問題ないが・・・」
そう言いチラッとヴァルナさんの方見た。
「問題ありませんよ。ティーフェン様の仕事は今日で概ね片付きますので」
「なら良かったです。あっちには夕方までに着ければ良いから、また移動お願いね」
「任せるのじゃ」
ティーとヴァルナさんにも報告は終えたので、次はテンメルスさんの所に行く事にしたのだが、アリーがヴァルナさんと話をしたいとの事で少し待った。
「すいませんお待たせしました」
「大丈夫だよ。次はテンメルスさんの所に行こっか」
続けてテンメルスさんの部屋へと行ったのだが、不在だった。
ティーの部屋に戻り、ヴァルナさんにどこに行ったか知らないか尋ねると、謁見の間に居るかもしれないとの事で、そちらに移動する事にした。
俺達は2階に降りてきて、謁見の間がある扉の前までやって来た。
扉の前には兵士が2名立っていた。
「すいません、テンメルスさんにお会いしたいんですが、今大丈夫か確認出来ますか?」
1人の兵士にそう尋ねると、
「はっ!少々お待ちください」
と言い中へと入って行った。
しばらくすると兵士が戻ってきて、
「少しの時間であれば大丈夫との事ですので中へとお入りください」
そう言い、扉を開けてくれた。
謁見の間は、パーティの会場にも使われるという事もあり、かなりの広さだった。
床には赤い絨毯が敷かれており、その先に玉座がありテンメルスさんが座っていたのだが、その玉座の上を見てみるとドラゴン状態のティーの姿があった。
どうやらアレが、ティーが作った魔道具の幻影の様だ。
偽物と分かっていても、威圧感があって、まるでそこに本物がいるかの様に感じた。
ティーの幻影に驚きつつも玉座の方へと足を進めた。
「コタケ殿、アリシア様、如何なされましたか?」
「忙しい所にすいません。実はお伝えしたい事がありまして、昨日俺の方からアリーにプロポーズして結婚する事になったんです」
「なんと!それはおめでとうございます!」
「ありがとうございます」
「結婚式には、ぜひ私達も呼んでください」
「一国の王を呼びつけるのは・・・」
「はは、バレない様にお忍びで行くので大丈夫ですよ」
「結婚式の時期が決まれば、また手紙を出します」
「えぇ、お待ちしております」
「それと、明日のお昼には家に戻ろうと思います」
「そうですか、それは寂しくなりそうですね・・・そうしましたら、今日の夕食はまた皆んなで食べましょう」
「分かりました。他の人にも伝えておきますね」
「また、そこで美味い酒を用意しておくので一杯やりましょう」
ここで、テンメルスさんの次の仕事が入ったので謁見の間を後にし、部屋へと戻って行った。
挨拶まわりをしているとお昼になっていたので、ご飯を食べてから午後はエレオノーラさんは騎士団の訓練に参加し、アンさんとリビアさんは午前中に調理場の方にあいさつを済ませていて、これから買い出しに行くとの事なので俺とアリーはそれについて行く事にした。
買い物のほとんどは、醤油の材料や魚などの食材だった。
マジックバックがあるので、腐敗を気にせずに買う事が出来るのでかなり便利だ。
俺はついでに、以前テンメルスさんと一緒に飲んだワインを5本と全員分のワイングラスも購入した。
買い物を終えて城へと戻った。
歩いて少し汗をかいたので、初日にも入った大浴場へと行った。
16時前という事もあり、他に人も居なかったのでゆったりとくつろぐ事が出来た。
風呂から上がりゆっくりした所で、夕食の時間になったので、初日の様に皆んなで集まった。
「では、コタケ様とアリシア様のご結婚を祝して乾杯!」
「乾杯!」
「しかし、めでたいですなぁ。プロポーズは城の5階で?」
「はい、あそこで」
「いやー、昔を思い出しますよ」
「?」
「実は私も、建国祭の花火の時にあの場所で妻にプロポーズをしたんですよ」
「そうだったんですか!」
偶然にも、テンメルスさんと俺がプロポーズをした日と場所が全く一緒だった様だ。
「あの時のあなたったら、花火が始まる前からソワソワしていて何かあるなとは思いましたが、見ているこちらも心配になりましたよ」
とヴァルナさんが笑いながらに言った。
「しょうがないじゃないか俺にとっては、一世一代の出来事なんだから緊張もするよ。コタケさんはどうでした?」
「俺もすごい緊張しましたよ」
「やっぱりそうですよね!」
「でも、ワタルさんからは今からプロポーズをするみたいな雰囲気は全く感じられませんでしたね」
「あら?うちの夫とは大違いですね」
クスクスと笑いながらヴァルナさんは言った。
「そうかな?まぁ1回アリーから告白して来てくれてたしね。その分気が楽だったのかな?」
とその後も、テンメルスさん達の昔の話などで盛り上がり、大いに楽しむことができた。
そして、翌日。
今日は家に帰る為、朝から荷造りをしたり、昨日挨拶出来ていなかった、メルシュさんやハウザーさん達にも、結婚の報告と感謝を伝えた。
挨拶まわりを終えると、お昼になっていたので、帰る前に昼食を頂いた。
昼食を食べ終え、家へと出発する為に中庭の方へと出てきた。
そこでは既に、ティーやテンメルスさんの他にもメルシュさんや騎士団の人達も見送りに来てくれていた。
「皆様、この度は我が国にお越しくださりありがとうございました」
「こちらこそ、6日間も滞在させて頂いてありがとうございます。とても楽しかったです」
「楽しんで頂けて何よりです。またいつでもお越しください」
俺とテンメルスさんで握手をした。
その隣では、
「ティーフェン様、あちらでも迷惑をかけない様にしっかりとお願いしますよ」
「わかった、わかったのじゃ」
とヴァルナさんがティーの事を抱きしめていた。
「野菜も残さず食べて、お仕事も手伝って、手紙もきちんと送って下さいね」
「えぇい分かっておるから、いい加減離さんか!お主は妾の母親か?」
「同じ様なものです!」
「こやつ言い切りおったわい・・・はぁ、野菜も食べるし、仕事もするし、手紙も出すから、そろそろ離すんじゃ」
「コタケ様聞きましたか?ティーフェン様の事お願い致しますね」
「は、はい任されました・・・」
ティーはやっとヴァルナさんから解放され、こちらにやって来た。
「はぁ、すまん、待たせたのじゃ・・・」
「うん大丈夫だよ」
ティーはもう既に疲れた様な感じだった。
「それじゃ早速出発するかのう」
ティーはそう言ってドラゴン状態になり、俺達を背中に乗せた。
バサバサと翼を羽ばたかせ上空へと上がっていった。
「皆さんお元気で〜!」
「また来てくださいね!」
と見送ってくれた。
俺達はそれに手を振って応えた。
すると騎士団の人達から、
「姉御〜またご指導お願いします!」
と聞こえて来た。
「姉御・・・?」
全員でエレオノーラさんの方に顔を向けた。
確実にエレオノーラさんの事なのだろうが、当の本人は手で顔を隠し恥ずかしがっていた。
何があったのか聞きたいが今はそっとしておいた方が良さそうだ。
ラーブルク龍王国を出発し、行きの時と同じく5時間程経った所で我が家へと到着した。
「到着したのじゃ〜」
背中から降りて、ティーは人間の姿に戻った。
「出発前のヴァルナのせいで無駄に疲れたわい」
「お疲れ様。今日はゆっくり休むと良いよ」
「そうするのじゃ」
6日ぶりの我が家だ。
一見何も変わったところは無さそうだが、
「休む前に皆んなで異常がないか調べてみよう」
以前のティーの様に、何者かがいつの間にか住み着いている可能性があるので一通り調べる事にした。
まずは俺達の家の中を調べ、倉庫や風呂場を調べて、最後にスライム達の小屋を調べた。
結果、今回は誰も居なかったので安心して休める事となった。
その後は、夕食を食べてお風呂に入り、皆んな疲れている事もあったので早めに眠りについた。