旅の準備
ロスさん達がラナちゃんを紹介してから1週間。
毎日やって来てユリ達と遊ばせている。
「同年代の子達と遊ぶ機会なんて無かっただろうし、その分を取り戻して欲しいんだよね」
ロスさんはそう語り、リッヒさんは優しい目で見守っていた。
「と言うか、お主らに育児なんて出来るのか?」
「ティーにすら出来るんだから私達だって余裕」
「ロスはリッヒを育てた実績があるが、フィーアお主
が1番心配なんじゃが?」
「ティーフェン様、残念ながら師匠も私に暗殺術を教えただけで、普段の家事などは私がやっていました」
「嘘じゃろ・・・」
この2人に任せるのは怖いところだが、ラナちゃんは2人に懐いているので一緒に行くのは確定である。
なので、俺達で出来るフォローをする事にした。
「まずは服だね!このオルフェさんに任せなさい!」
「そんなの動きやすい服で良くない?」
「そうそう、戦うんだからね。リッヒちゃんもそんな格好ばっかりだったよ」
「「はぁ〜〜・・・」」
全員からため息が漏れる。
「10歳のラナちゃんは多感なお年頃なんだよ?可愛い服も着せてあげないと」
「でも私達そういうの詳しく無いしな〜」
「なので、私が作ります!ラナちゃんは栗毛だし〜あぁかなぁ?こうかなぁ?」
オルフェさんは最初から作る気満々だった様だ。
「流石にタダで作って貰うのは申し訳ないし、お金はきちんと払うよ」
「うーん・・そうだね!今回は特別に友達割引で安くしてあげましょう」
まずは服の問題が解決した。
「ラナちゃんの学力はどうなのでしょうか?」
続いてアリーがそう質問する。
「言葉は話せるけど、読み書きは出来ないね。計算とかも出来なかった」
「残念ながら獣人国は識字率が低いので、そう言った者が多いのです」
メアさんはそう言う。
「学校は・・・現実的では無いですね」
「私が転移ゲート使えば行けるけど、たまにいない時もあるからね」
各地を転々としている事もあり、1ヶ所に留まることは出来ない。
「それなら、ユリやベルちゃんに使っていた教本を差し上げます」
「いいの?ユウキ君とリンティアちゃんに使うんじゃないの?」
「2人を教えて全て頭に入っていますので大丈夫ですよ」
「なら、ありがたく使わせて貰うね」
「て言うか、アリシアちゃんレベルが使う教本とか私達で分かるのかな?」
「さ、流石に大丈夫かと・・・」
ロスさんの言葉に苦笑いするアリーであった。
勉学の問題が解決すると、次の問題として上がったのが食事だ。
「お2人の普段の食事は・・・」
「酒場とか宿の食堂だね」
アンさんの質問にフィーアさんがそう答える。
「それでは栄養が偏ってしまいます」
「食事は体作りの1つなのですから、しっかりとした物を作らないといけませんよ」
「でも私達・・・」
「「料理出来ないし」」
そうだろうなという目で皆んなが見る。
「仕方ありませんのでレシピを書いて渡します」
「えっ!そんな事して大丈夫なの?レシピって大事な物なんじゃ」
「レストランなどではそうでしょうが、私達の作る物は一般的な広まった物ですよ」
「でもこれなら、この2人の料理をいつでも食べれるって事だよね!」
「師匠、料理を甘く見ないで下さい。2人のレシピ通りに作っても何故か同じにならないのです」
「それは私達も少し工夫は加えていますので」
「なるほど工夫ね」
「初心者は基本に忠実に行う事をオススメしますよ」
フィーアさんの呟きに、釘を刺すリビアさんであった。
「なんだか色々と心配だな」
「本当に2人に任せて大丈夫でしょうか?」
エレオノーラさんやメアリーさんも心配する。
ラナちゃんは利発そうな子ではあるので、その内2人よりも家事が出来る様になりそうだ。
その後も、必要な物は無いかと色々と話し合った。
「ラナー、そろそろ帰るよー」
話し合いが終わり、フィーアさんが呼び掛ける。
戻って来たラナちゃんは頭に花冠を乗せていた。
「あら可愛い」
「ベルちゃんとユリちゃんに作って貰った・・・」
「2人ともありがとね〜」
「「どういたしまして!」」
この1週間でかなりの仲良しになった様だ。
「それでね、暫くはここに来れなくなるけど、ラナは大丈夫?」
「う、うんいっぱい遊んだから・・・」
本当はもう少し遊びたいのだろうが、我慢している様子だ。
「2人もまたラナと遊んでくれる?」
「うん!いつでも来てね!」
「今度はもっと楽しいこと考えとくね!」
「うん、ありがとう!」
「こうして見ると、師匠も母親っぽく見えますね」
「リッヒちゃんは、お母さんが取られて寂しいのかなぁ〜?」
「その流れ前にもやりましたが?」
「ちょっとくらいは寂しがってくれても良いじゃん」
「はいはい、寂しいですよー」
「テキトー」
2人がお決まりのやり取りをしていると、フィーアさんが真剣な顔をして、
「ねぇ、リッヒちゃんの言葉で思ったんだけど、どっちが父親でどっちが母親?」
そんな事を言った。
「私が母親で、フィーアちゃんが父親で良いんじゃない?」
「でも私も母親やりたい!」
「なら2人でやれば良いじゃろ」
「それはそれで面白くないじゃん」
「そんな所に面白さを求めるんじゃないのじゃ」
「分かったよ・・・どっちが母親か勝負だね!」
「ふっ、そうこなくっちゃね」
2人の間をオロオロするラナちゃんを他所に、庭へと出て戦い始めた。
そんな2人を見て、全員が前途多難だなと考えるのであった。
ちなみに勝敗は着かず、暫定的に母親2人となり今後も定期的に母親の座を賭け戦うそうだ。