先輩
総合評価が遂に2000ポイントを超えました!
これからも引き続き応援お願いします!
「おはようございます」
階段を降りながら挨拶をするリッヒさん。
「リッヒちゃん、おはよ〜!」
彼女に元気よく挨拶を返したのは、師匠のロスさんである。
そんな師匠を一目見たリッヒさんは、何も言わずにテーブルに着く。
「ねぇねぇ、無視しないでよ〜」
ロスさんは隣に座り、頬をツンツンする。
「ウザいです」
「ガーン」
シクシクと泣く真似をする。
「せっかく朝早くから、リッヒちゃんに会いに来たのに酷いよ」
我が家で1番早起きのアンさんとリビアさんが起きた時には既にリビングに居たそうで少し怖い。
「早過ぎると迷惑になるんですよ?」
「どうせなら朝ご飯も頂いちゃおうかなぁ〜って」
「無断で侵入して朝ご飯まで貰うなんて厚かましい人ですね」
「いや〜それほどでも」
「褒めて無いんですけど・・・」
リッヒさんはハァとため息を吐いて、それ以上は何も言わなかった。
その後、全員が揃っていつもより騒がしい朝食の時間となった。
「はぁ〜、美味しかった〜」
「満足したなら帰ってください」
「それじゃあ、私が朝ご飯をたかりに来たみたいじゃん!」
「違うんですか?」
「違うよ!リッヒちゃんは、お師匠様を何だと思ってるの?」
「住所不定の無職かと」
「いやまぁ、旅をしてるからそうちゃっそうなんだけど、たまに仕事もしてるからね!」
「それで今日は何をしに来たんですか?」
「うんうん今日はね、リッヒちゃんに紹介したい子がいるんだよ!」
「はぁ・・・?それでその子は何処に?」
「宿に待機してるから、フィーアちゃんに頼んで・・・あっ!」
肝心のフィーアさんの姿が見当たらない。
「あちゃ〜!そう言えば今は買い物に行ってるんだった」
「貴女と言う人は・・・」
「いや待って、まだコタケ君がいる!ねぇ、この街に行った事ある?」
街の名前を聞き、幸いにも訪れた事があったので転移ゲートを開く。
しばらくして戻って来ると、ロスさんの傍らに犬耳の少女が居た。
「師匠・・・まさか人攫いを」
「いやいやいや!違うから!」
「では何処の子で?」
「さっき言ってた仕事だよ。3日前、悪徳貴族を成敗して来たんだけど、そこに奴隷として獣人族とかエルフが居たんだ」
奴隷売買が禁止されているこの世界で、そんな貴族の情報を得てフィーアさんと一緒に暴れ回ったらしい。
「その内の1人がこの子で、家族にも奴隷として売られて行く当てもないらしいし連れて来たの」
「奴隷として売られるなんて・・・同じ獣人族として怒りを覚えます」
メアさんが怒っている。
「名前はあるのでしょうか?」
「ラナちゃんだよ。ほら、挨拶して」
「ラナです・・・」
ロスさんの後ろに隠れながら言う。
「歳は10歳くらいでしょうか?昔を思い出します」
「そうそう、私もこーんなに小ちゃっかった頃のリッヒちゃんを思い出してね〜」
「そんなに小さくありません」
親指と人差し指でサイズを示すロスさんにツッコむ。
「だから弟子にする事にしました」
「はぁ!?」
「リッヒちゃんにとっては後輩、この子にとっては先輩だね」
「貴女、こんな小さな子に何を教えるつもりですか」
「それリッヒちゃんが言っちゃうの?私はただ生きる術を与えるだけだよ」
「その子は納得しているんですか?」
「もちろん、ねっ?」
ロスさんの言葉に少女はコクコクと頷く。
「怖い先輩だねー。師匠が取られて寂しいのかな〜?」
「それはどうでも良いですが、生半可な覚悟では後悔するだけです」
「ひどっ!」
リッヒさんは少女の前に行き、膝をついて目線を合わせる。
「いいですか?今から貴女がこの人の元で学ぶのは人を殺す術です。それをどう使うかは貴女次第ですが、下手に扱えば貴女の身を滅ぼす事になります。その覚悟があるならこの人の元で学ぶと良いでしょう。実力は確かなので」
「うん」
少女はコクンと頷く。
「分かりました。私はこれ以上何も言いません。ですが辛くなったらいつでも頼って下さいね?」
リッヒさんは優しい顔で言い、少女も安心した顔になる。
「うんうん感動的だね・・・まぁ、暗殺術は教える気無いけど」
「はい?」
「いやだって、教えても使い所無いし。この子には普通の戦い方を私とフィーアちゃんで教えるだけ」
「・・・」
「あれ?もしかして暗殺術を教えると思ってた?もぉ〜、リッヒちゃんってばせっかちなんだから」
確かに生きる術としか言ってなかったが、さっきのリッヒさんの優しさを無に帰す事を言わないであげて欲しい。
「師匠なんて嫌いです」
「えぇ〜、そんなぁ〜!」
誰もが自業自得だと思いながら、何とかリッヒさんの機嫌をとったロスさんが話を続ける。
「今日はこの子の紹介と力を見て貰おうと思ってね」
「フィーアとお主が一目置く獣人の娘か、面白そうじゃ」
皆んな興味津々だった。
「それじゃあ、庭に行こっか」
木剣を用意して、相手を務めるのはロスさんだった。
「いくら獣人だからと言って、いきなり師匠が相手をするのはラナちゃんが可哀想です」
「ふっ、この子の実力を甘く見ちゃいけないよ」
そこまでなのかと皆がゴクリと固唾を飲んで見守る。
「さっ、いつでも掛かっておいで」
ラナちゃんは木剣をギュッと握りしめて駆け出す。
「やぁぁーー!」
流石、獣人なだけあってスピードはかなりのものだったが・・・
「あうっ!」
落ちていた小石につまずいてしまった。
そして勢いそのままに転び、手に持っていた木剣がスポーンと抜けてロスさんの腹に直撃する。
「こふっ」
予想外の一撃に悶える両者。
「なんですこれ?」
何を見せられているんだと呆れるリッヒさん。
「これがこの子の力、何故か攻撃する度につまずいたり何だりして、予想外の攻撃が飛んでくるんだよ」
「「えぇ〜・・・」」
「そんな訳が無いでしょう。不甲斐ない師匠に代わって私がやります」
今度はリッヒさんが相手をする。
「先手必勝です」
そう言って魔法を使って見えない速度で接近し、ラナちゃんの木剣を後ろに吹き飛ばす。
「貰いました」
「うわぁー、大人げなぁ」
木剣が当たる直前、ビューっと強風が吹く。
すると後ろに飛んだ木剣が戻って来て、そのままリッヒさんの顔面に直撃する。
「くぅ」
「はい、リッヒちゃんアウトー」
「意味が分かりません」
「分かる分かる。フィーアちゃんも同じ感じで1本取られてたから」
最早、運が良いのか悪いのか分からないが、この謎に働く力を甘く見てはいけないと言っていたのだろう。
次にエレオノーラさんも戦ってみたが、つばぜり合いの最中にエレオノーラさんの木剣が折れて、ラナちゃんの木剣が当たると言ったミラクルで誰も勝てなかったのだった。
「この子に戦い方を教える必要性あります?」
「この偶然も毎回起こる訳じゃ無くて、10回に1回位は起きないの」
「充分過ぎでは?」
「その1回を引き当てたら大変だから、ちゃんと戦える様にしてあげないとね」
そんなラナちゃんは、ユリ達とすぐに仲良くなった様で一緒に遊んでいる。
「まぁ、2人が見るなら大丈夫ですか」
「なんたって、大勇者と伝説の暗殺者だからね!」
「そんな2人に勝ったあの子は世界最強ですか?」
「確かに・・・」
「冗談ですよ、真面目に考えないで下さい」
リッヒさんはロスさんにツッコミを入れる。
「ふぅー、疲れた疲れたー」
そんな話をしている時、転移ゲートが開いてフィーアさんがやって来る。
「買い物終わったよー」
「おつかれー!」
「ラナちゃんに必要な物あれで全部か確認・・・なんか楽しそうな事してる!」
フィーアさんの目線の先には、いつの間にかドラゴン化したティーに乗って飛び立とうとしている子供達の姿があった。
「ティー!私ものーせーてー!」
「なんじゃ、お主!いつの間に来ておったのじゃ!」
子供達に混ざりに行くフィーアさん。
ロスさんは止める事も無く自身も混ざりに行く。
「本当に2人に任せて大丈夫でしょうか?」
そんな2人を見て、不安を漏らすリッヒさんなのであった・・・