おてんば娘
ウッドフォード家に遊びに来ていた日のこと。
「アリシア、1つ頼み事があるのだが良いだろうか?」
「なんでしょうか、お父様?」
「私の友人の娘なんだが、その子をなんというか教育をというか・・・」
「教育?」
歯切れが悪そうなオーウェンさんは、その娘は子爵家の子だと言い会って見て貰った方が良いとの事だった。
後日、俺とアリーとエレオノーラさんの3人でその貴族の家へと向かう。
「皆様、ようこそいらっしゃいました」
玄関で執事に迎えられ当主の元へと案内させられる。
「皆様、お越し頂きありがとうございます。当主のグラン・レイージュと申します」
40代位の茶髪の男性は優しそうな顔をしている。
「父からは、ご令嬢の教育と聞いたのですがどういう事なのでしょうか?」
「今すぐ娘を連れて参ります」
そう言って執事が部屋を出て行き、しばらくすると金髪で褐色肌の女の子と一緒に戻って来た。
「なに?あーし、用事があるんだけどー」
開口一番、なるほどと理解する。
「お客様の前だ、礼儀を弁えなさい」
「さーせん」
これはあれだ、ギャルだと思った。
この世界にギャルと言う言葉が存在するのかは知らないが、見た目や言動がソックリだ。
「1年程前まででしょうか。娘は私と同じ茶髪で肌の色も白かったのですが、だんだんと今の様な姿へとなっていったのです。初めは魔法や呪いの類かと思いましたが、本人が自ら望んで髪を染め肌を焼いたと言い・・・」
深い溜息をつきながら言う。
「あーしの勝手じゃん。チョーウザイんですけどー」
「言葉遣いもこの様に変わってしまい、うぅ」
子爵は今にも泣き出しそうな程だ。
「何度も注意はしてきましたが聞く耳を持たず今日に至り、ウッドフォード公爵に依頼したのです」
「なるほど・・・グラン様、ご令嬢をお借りしても?」
「えぇ、よろしくお願いします」
「ちょっ、あしーは用事がっ」
「まぁまぁ、折角なので親交を深めましょう」
アリーはグイグイと令嬢を押して、庭にある屋根付きのお茶会用の建物へと4人だけで向かった。
「あんたら、なんだし!」
「そう言えば自己紹介がまだでしたね。私はウッドフォード公爵家の娘アリシアと申します。そしてこちらが私の旦那様のコタケさんと騎士であるエレオノーラです」
「ウッドフォード公爵・・・」
ポカーンと口を開けて驚いている。
「も、申し訳ございません。私は、ベラ・ルイージュと申します」
「ふふっ、今日は身分など気にせず話しましょう」
「は、はい」
「やはりそちらが素なんですね」
「そうなんです」
元々は真面目な娘だとアリーは見抜いていた。
「よければその格好を始めた経緯を聞いても?」
「その、私の好きな人が街の酒場でこの様な姿の女性に惹かれたと言う話をたまたま聞いて真似をしてみたのです」
「あらあら、それはまぁ」
アリーは恋バナに楽しそうな反応を見せる。
彼女の通っている学園はアリーが通っていた所と同じで、歳は18で今年で卒業するそうだ。
「学園内では浮かないのか?私も何度か学園に行った事はあるが似た姿の者は見た事が無い」
「むしろ周りで真似する人も増えてきています」
「貴族の令嬢は新しいモノに敏感ですからね。気に入ればすぐに広まりますよね」
「アリシア様の時はいなかったのですか?」
「えぇ、私の代ではいなかったですね」
思わずギャルっぽいアリーを想像してみるが、全くイメージが湧かない。
そんな俺がしかめっ面をしていたのか、
「ふっ、コタケ殿はまだまだだな。私にはこの姿のお嬢様が簡単に思い浮かぶ」
エレオノーラさんが勝ち誇った様に言ってくる。
でも、そんな姿のアリーにウザイとか言われたら確実に泣ける。
「ところで、その男性とベラさんは恋人なのでしょうか?」
「いえいえ!私の片想いで・・・でも、告白はしてみようと思うのです!」
片想いの相手にここまで出来るとは凄いと素直に感嘆する。
「でも、もし婚約者が居たらと考えると怖くて」
「それでしたら、今のうちに相手の好みにもっと近づける様に頑張りましょう!」
「アリシア様は止めないのですか?」
「恋する乙女を止めたりしませんよ」
オーウェンさんからの依頼をすっかり投げ出してしまった。
「貴族的にコレは良いんですかね?」
「この家は長男も居るそうだし、少しくらい羽目を外しても良いだろう。真似する女子も増えているのなら品格も気にされないだろうと思うしな」
エレオノーラさんと小声で話す。
「さっ、グラン様にも宣言して来ましょう」
「せ、宣言ですか?」
「これからもこの私を貫きますという宣言です。それが出来ないと告白なんてもっての外です」
「なるほど、分かりました!」
「それでは参りましょう」
ベラさんの手を引いて駆けて行き、再び子爵の部屋へと戻る。
「おぉ、アリシア様!もしや、うまく説得を・・・」
「あーし、これからもこのままでいくから!」
「べ、ベラ?」
「前のあーしよりも、今のあーしが1番楽しいから」
ガーンと口を大きく開ける子爵。
「あ、あと最近のパパ、クサイから良い匂いの香水付けてから話しかけてよね」
「クサイ・・・」
ベラさんはそう言い残して去って行く。
子爵はと言うと、
「クサイ、クサイ・・・」
繰り返し呟きながら意識が遠のいていた。
ギャルというか反抗期のセリフだが、香水を付ければ話しかけても良いという彼女の優しさが垣間見えている。
「これは俺も子供達に言われたら、ショックで立ち直れないかも」
「ワタルさんは心配性ですね」
「アリー、子供の反抗期を舐めたら駄目だよ」
俺の言葉にアリーも想像してみたのか、
「うっ、確かに想像しただけでもこれなのに実際に言われたら・・・」
ショックを受け、子爵だけでば無く何故か俺達もダメージを受けていた。
「そう考えると申し訳無い事をした様な」
「多感な年頃だし認めてくれる大人も居て良いんじゃないかな」
「そうですね。あとは彼女次第ですね」
その後、ショックから立ち直れない子爵の介抱を執事に任せて、俺達は帰るのだった。
ちなみに彼女が想い人と結ばれ、この世界の第一次ギャルブームの火付け役になるのは少し先のお話である。