お祭り
午前中に街へ散策に出て暇をつぶし、城に帰って来てゆっくりしていたら、アリーとの約束の時間が近づいてきたので準備をして待ち合わせの場所へと行った。
「すいませんお待たせしました」
アリーが小走りでやって来た。
「大丈夫だよ、時間もピッタリだし」
アリーは白のブラウスに黒の長めのスカートを着ていた。
「似合っててかわいいよ」
「ありがとうございます。今日は楽しみだったのですごい気合いいれちゃいました」
「俺も楽しみだったから、嬉しいよ。じゃあ早速行こうか」
前回のデートはエレオノーラさんが護衛として後ろから付いて来ていたが、今日はティーから貰ったお守りがあるので護衛も要らず2人だけのデートとなった。
ちなみにエレオノーラさんは、騎士団の訓練に付き合ってくれたお礼としてクロ達を連れて祭りに行き、アンさんとリビアさんも料理のレパートリーを増やす為に祭りの屋台を駆け巡るそうだ。
「どちらに向かえばいいんですかね?」
「あっちに広場があって、そこで屋台の準備してたし、この道をまっすぐに進めばいいと思うよ」
午前中に散策した際に、噴水のある広場がメインの会場になると考えていたので、まずはそちらに向かうことにした。
少し道を歩いて広場の方に到着した。
「わぁ〜、すごい賑やかですね」
広場は人でごった返していた。
「はぐれて、迷子になると困るから手繋ごっか」
と少し照れながら言って、アリーに手を差し出した。
アリーも少し恥ずかしがりながら手を握ってくれた。
広場は午前中と打って変わって、屋台が立ち並び、上にはランタンが吊るされて綺麗だった。
「少しお腹すいたし最初に何か食べようか」
そう言って、何かないか歩きながら探し回った。
前世でよく見た事のあった、たこ焼きや焼きそば等はなかったが、パスタやソーセージ、ステーキなどが売られていた。
ひとまず小さめのステーキを買って食べてみた。
味付けは塩とコショウのみの簡単な物だった。
「普通の味付けだけど、こういう特別な時だと凄く美味しく感じるよね」
「ふふ、そうですね。あっ!次はあのソーセージを食べてみませんか?」
お昼は軽めに食べただけなので、この後も様々な物を食べて行った。
「ふぅ、そろそろお腹いっぱいだよ」
「そうですね。私もお腹いっぱいです。この後はどうしましょうか?」
「とりあえず、見て回ろっか」
食べ物以外の屋台には、アクセサリーが売られていたりくじ引きがあった。
しばらく見て回っていると、
「そこの若いカップルさん射的やってかないかい?」
と射的屋の店主に声をかけられた。
「射的かぁ、しばらくやってないな・・・アリーはやったことある?」
「いえ、私は1回もやったことないですね」
「じゃあ、せっかくだしやってみようか、店主さん2人分お願い」
「はい毎度!1人5発までで景品は倒さないといけないよ!」
「アリーはどれ狙うの?」
「あのクマの人形を狙ってみます」
「これはまた難しそうな・・・」
「そ、そうなんですか!でも可愛いので人形を狙ってみます」
そう言って一発目を放った。弾は全く違うところに飛んでいき当たらなかった。
二発目は、人形のすぐそばを通ったが当たることはなかった。
「うぅ、難しいです・・・」
そして三発目。ついに弾が人形に当たった。
耳の部分に軽く当たっただけだったので倒れることはなかったが、
「やった!少し当たりました!」
とアリーは喜んでいた。
「その調子で頑張って!」
四発目。人形の胴体にヒット。
しかし、重さの関係もありまだ倒れなかった。
最後の五発目。弾は人形のそばを通り外れていった。
「ダメでした・・・」
「初めてだから仕方がないよ。次は俺がチャレンジしてみるね」
一発目。弾は人形のそばを通ったが外れた。
二発目。人形の手にヒット。
少しだけ人形が後ろに動いた。
「ワタルさん凄いです!少し動きました!」
三発目。人形の胴体にヒット。
しかし、次は人形は動かなかった。
四発目。弾は外れてしまった。
(ふぅ、次でラストか・・・神様頼む!)
ラスト五発目。
弾は人形の頭の部分にヒットした。
人形はグラグラと揺れてからパタッと倒れた。
「やった!」
「おう兄ちゃんやるじゃねぇか。ほれ景品だ。彼女さんにくれてやんな」
そう言われ、店主からクマの人形を受け取った。
「はいアリーにあげる」
「ありがとうございます。とっても嬉しいです」
満面の笑みを返してくれた。
するとここで、
「まもなく花火が打ち上がります」
と会場にアナウンスが流れた。
「もうそんな時間か・・・」
「花火はどちらで見ましょうか?」
「任せて!テンメルスさんから良い場所を教えてもらったんだ」
そう言って、アリーの手を引き道を進んだ。
「到着!」
「あの、城に戻って来てますが・・・」
「うん。ここがオススメの場所だよ。この城の最上階に行くんだ」
城に入り、テンメルスさん達の部屋がある4階までやってきた。
「こちらですか?」
「実はこの城、5階もあるみたいで普通は入れないみたいなんだけど、今日だけ特別に入れてもらえることになったんだ」
「そうだったんですね。どんなところなんでしょう・・・」
早速、5階に繋がる扉を開けて階段を上っていった。
5階に到着すると、そこはこじんまりとした部屋で、3,4人ほど座れそうな椅子があるだけで他には何も物は置いてなかった、
ただ、海側に大きな窓が付いていて花火がしっかり見えそうだった。
「ここなら静かに花火を楽しめそうだね」
「そうですね。海にいる花火師さんまで見えますね」
そして、花火が打ち上げ始められた。
始まったばかりで数は多くないが、青、赤、黄色と様々な色の花火が上がった。
「綺麗ですね」
「そうだね。久々に花火を見たよ」
花火も中盤から終盤にかけてくると、打ち上げられる数も増えて更に色鮮やかになった。
ふと、アリーの方を見ると、目を輝かせすっかり夢中になっていた。
(頑張って言わないと・・・)
俺は自分にそう言い聞かせた。
「ねぇアリー・・・?」
「はい、なんでしょうか?」
アリーは笑顔で振り向いた。
「アリーと出会ってから、しばらく経ったわけだけどさ、まだまだお互いの事で知らない事も沢山あると思うんだ。今日なんかもアリーが可愛い人形が好きだった事も初めて知ったしね」
一呼吸おいて俺は続けて、
「俺はこの前、アリーが告白してくれて凄く嬉しかったんだ。その時にお互いの事を知ってから次に進もうって話したと思うんだけど、今回テンメルスさんが奥さんや子供達と楽しく過ごしてる所を見て、俺も早くそういう関係を築けたらなって思ったんだ。それでお互いの事は、どんな状態でも知っていけるからさ・・・」
そして、ポケットに手を入れて、
「俺と結婚してくれないかな?」
そう言って指輪を取り出した。
アリーは目を見開いたまま固まって動かない。
「アリー?」
「今まで誰かを本気で好きになった事はありませんでした。公爵家の娘という立場もあり、自由な恋愛は出来ませんでしたから。でも、国であのような事があり偶然にもワタルさんと出会う事が出来ました。いつも優しくしてくれるワタルさんに、あの時にお伝えした気持ちに今も変わりはありません。むしろあの時よりも更に好きになってます」
アリーは涙ぐみながら、ここでふぅと一息ついて、
「こんな私でよければ、よろしくお願いします」
と言ってくれた。
俺も嬉しくて泣きそうになったが、なんとか堪えた。
「ありがとう。これからもよろしくね」
「はい」
そう言い、俺は指輪をアリーの左手の薬指にはめた。
ちなみのこの指輪は、今日の午前中に街に出た際に見かけた指輪だ。アリーに似合いそうと思い、市場の帰り道に買ったのだ。
プロポーズを終えた所で、花火も終わりかけていた。
「いつの間にか、終わっちゃいそうだね」
「また、来年も見に来たいですね」
「もちろんまた来ようね」
すると、アリーが顔を近づけて来て、そっと唇が触れた。
アリーは顔を真っ赤にして、
「すみません、嬉しくてつい・・・」
「びっくりしちゃった」
俺もカァーッと顔が熱くなった。
「あの初めてだったんですが、うまく出来ましたでしょうか・・・」
「う、うん」
アリーが可愛すぎる。
不意のキスをされて、お互い恥ずかしがっている所で、突如窓の外を大きな黒い影が横切った。
何事かと思い、外に目を向けると、外にはドラゴン状態のティーが飛んでいた。
すると、ティーは口からいくつものブレスを吐いた。
ブレスはそのまま空中で先程の花火のように爆発した。
街の方から歓声が響いた。
「ティーの言ってた仕事ってこれのことか・・・」
「びっくりしましたね」
「他じゃあ真似出来ないフィナーレだね」
「以上で花火の打ち上げを終了します。引き続き祭りをお楽しみください」
街中にそのようなアナウンスが流れた。
「これから、どうしよっか?また街の方に行く?」
「いえ、今日はここまでにしましょう。気持ちが昂って落ち着かないので」
「そうだね。じゃあ部屋に戻ろっか」
そうして、3階の部屋まで戻ってきた。
「また明日ね、お休み」
「はい、お休みなさい」
部屋に戻った俺は風呂に入り早々にベッドに潜ったが、先程までの出来事を思い出して、その日は全く寝付けなかった。
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一応、次回でラーブルク龍王国編はラストになるかと思います。
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