迷い猫
「ユリ、ベル、危ないから気を付けて走ってねー」
「「はーい」」
「パパ、だっこ」
「ぼくも」
「はいはい、よいっしょっと」
「アンタらねぇ、ここは遊び場じゃないんですけど」
今日はホープのダンジョンに、子供達を連れてやって来ている。
ここは周りの木々を気にする必要もなく、他の人達の訓練や子供達の遊び場として使用している。
「でも、誰も来ないから良いでしょ?」
「アンタの仲間がそこら中、破壊していくから直すの大変なんですけど!」
「それはごめん」
「だいたい、走り回るなら外に行きなさいよ」
「今日は雨が降ってるしさ、それでも子供達が走りたいって言うから」
「しょうがないわねー」
「ありがとう」
「でも、壁とか壊すんじゃないわよ」
「大丈夫、大丈夫。そんな破壊出来るほどの力はまだ・・・」
「じんらゃい」
リンがボソッと言うと、地面から紫の雷が走り壁に当たり破壊する。
「・・・」
「ちょっと、どう言う事よ」
「いや〜、最近ちょっと精霊王と契約してね」
「そいつら2歳よね?何よその力、馬鹿なの?」
「今のは迅雷と言って、雷を地面に走らせて下から相手を攻撃するんだよ」
「技の内容なんか聞いてないわよ!」
誤魔化そうとしたが駄目だった。
「じんにゃい」
ホープと話していると、今度はユウキが同じ魔法を放った。
「ぎゃー!なんて事してくれてんのよ!」
ホープは慌てるが、魔法が壁に当たっても壊れる事は無かった。
「ユウキはまだ威力が弱くて、破壊までには至らないんだよ」
「驚かせるんじゃないわよ」
精霊王によると、今はリンの方が魔法適性が高い様だが、今後のユウキの頑張り次第で超える事も可能だと言う。
「ともかく、遊ばせるなら魔法は禁止!分かったわね!」
「分かったよ」
ホープが壁の修復に向かおうとすると、
「パパ、見て見て!猫ちゃんいた!」
ユリが黒猫を抱きながら駆け寄って来る。
「何この猫?ダンジョン産の魔物?」
「違うわよ。いつの間にかどっかから迷い込んでたのよ。だから、私の下僕にしてやったわ」
こんな所に来る猫が普通とは思えないのだが、見た目に怪しい点は無い。
ユウキとリンが近付き撫でても大人しくしている。
ニャーー
しばらくすると、ユリの腕からスポンと抜けて離れて行ってしまう。
それを子供達が追いかけようとした時、黒猫の側から1匹のスライムが現れる。
「クロの仲間?」
「違うわよ。たまに上の階の魔物がここで湧く事があるのよ。いつもはしばらくしたら勝手にいなくなってるんだけど」
今回はそれまで待つ事は出来なさそうだ。
ユリ達が心配そうにするので、助けてあげようと近付いたその時、
ニャーー ニ゛ャ゛ーー!
猫は威嚇する様に声を上げてプルプルと震えると、だんだんと体が大きくなり15mまで成長した。
そして、大きくなった自身の手でスライムを叩き潰すと、また元のサイズへと戻ったのだ。
「えっと、何あの猫?」
改めてホープに問うが、本人もポカーンと口を開けて状況が飲み込めていない。
それに対して子供達は特に気にした様子も無く、元に戻った猫を撫でている。
そんな中、俺は何か引っかかると思考を巡らせていると、
「あっ!」
ある事を思い出した。
以前、エレオノーラさんが所属していたパーティー白薔薇の人達の依頼を手伝った時にも同じ光景を目にしていた。
あの時よりも大きい気がするが、姿形は同じな筈だ。
「俺に心当たりがあるんだけど」
後日、エレオノーラさんを通して白薔薇のリーダーであるアナスタシアさんを呼んで貰い、ダンジョンへとやって来る。
「この猫なんですけど」
「ふむ・・・確かにこの猫は以前捕獲した猫だな」
やはりそうだった。
「まぁ、と言うのも実は1年前に国から再度依頼があり、また脱走したから捕まえて欲しいと言われていたのだ。だが、どれだけ探しても見つからなくて結局は何処かで死亡したと結論付けられた」
「ホープがこの猫を見たのはいつ頃?」
「4、5ヶ月前くらいね」
「それまで転々としながら、ここに辿り着いたのだろうな。まさか、こんな所に居たとは」
「まさか、連れて行くんじゃないでしょうね?」
「この場合はどうすれば良いんですか?」
「国も死んだと判定して、依頼自体も無くなったからな。このままここに居て良いと思う」
アナスタシアさんはそう言ってくれる。
「そう・・・」
ホープは何処か安心した様子だ。
「なら、これで正式に階層ボスに決定ね!」
「そんな事考えてたの?」
「当然よ、こんな戦力見逃せないわ。そもそもここに住まわせてやってるんだから、少しくらい働いて貰うわよ」
「まぁ、ほどほどにね?」
ニャー
猫は分かったと返事したのか短く鳴く。
そんなこんなで、迷い猫はホープの元に住み着く事になり、子供達によってナイトと名付けられたのだった。