【番外編】2人のバレンタイン
「お二人とも、何を作りたいか考えてきましたか?」
リビアさんの言葉に私リッヒは、メアリーさんと顔を合わせる。
「リッヒさんと考えましたが、何を作れば良いのか分からなくて」
「材料は色々と揃ってますのである程度は作れますが、それぞれの好みはどうなのでしょうか?」
「特に甘い物が苦手では無い筈です」
「こちらも同じです」
「では、感謝の気持ちを形にするのはどうでしょうか?例えば、メア様はハート型のチョコを作っておられましたよ」
「「それはちょっと・・・」」
私達は声を合わせて言った。
「それでは、無難にケーキなどではいかがでしょう?少し甘さを控えめにしたガトーショコラが良いでしょう。クリームも別で作ると甘さを調節出来ますよ」
「私達に出来るのでしょうか?」
「少しはサポートしますが、お二人がメインで作らないと意味がありませんよ」
私達のお菓子作りが始まるが、初めはリビアさんの指示通り材料をボウルに入れてかき混ぜるだけだった。
「さて、お菓子作りで失敗しやすい工程は様々ありますが、多くの方が経験するのが焼き加減かと」
そう言いながらオーブンを開ける。
「予め温めておきましたので、型に入れた生地を入れてください。ここから40分〜50分ここに張り付いて貰います」
焼き加減の確認の為に定期的に串を刺して調べるのだと言う。
「意外と早く出来そうですね」
メアリーさんの言葉に頷く私だったが、焼き上がりを見て判断が甘かったと痛感する。
どちらのガトーショコラも膨らみが悪く表面が陥没していた。
「あの、これは・・・」
「はい、失敗ですね」
リビアさんは遠慮なく言った。
「これは生地の混ぜ不足かと思います。お菓子作りは繊細で材料の分量が少し違ったり、混ぜ方が多かったり少なかったりするだけでも失敗する可能性かありますから」
「ここまで難敵とは思いませんでした」
「どんな暗殺よりも難しいですね」
「暗殺と比較されるとアレですが、そこまで大きな失敗でも無いので、次のチャレンジで完成すると思いますよ。お嬢様は以前真っ黒に焦がした事もありますから」
そんな可愛いエピソードと共に、リビングからくしゃみの音が聞こえる。
「さっ、もうワントライですよ」
もう一度作り直すと、今度は上手く焼き上げる事が出来たのだった。
当日。
「リッヒちゃんから呼び出しだなんて、一体何があるのかな〜?」
「メアリーちゃんと一緒に何かしてたみたいだよ」
師匠とイルシーナさんが私達の前に座る。
「予想はついていると思うので、さっさと渡しますね」
「え〜、もっと気持ち込めて頂戴よー」
素っ気なく話すメアリーさんに文句を言うイルシーナさん。
「リッヒちゃんは分かってるもんねー?」
「はい、どうぞ」
「あっさり!」
冷やして保管しておいたガトーショコラとクリームをテーブルに置く。
「リビアさんに教えて貰いましたが、味の保証は出来ません」
「不味くても気持ちだけで嬉しいよ〜」
「いや、まだ不味いと決まった訳じゃありませんから」
そんなやり取りをしつつ、師匠が一口食べる。
「うんうん・・・美味い!」
「そうですか」
それを聞いて少しホッとする。
「美味しい!美味しいよ、メアリーちゃん!」
「分かりましたから、静かに食べて下さい」
メアリーさんは少し恥ずかしそうだ。
「でも、リッヒちゃんたら急にどうしちゃったの?こんなの作ってくれてさ」
「メアリーさんと一緒に、今までの感謝の礼にと作ろうと思っただけです」
「そっか、そっか。あのリッヒちゃんが私にお菓子をね・・・グスン」
「何泣いてるんですか・・・」
こちらまで恥ずかしくなってしまう。
「美味しいけど、そんな話聞いたら食べるの勿体なくなっちゃう」
「日持ちしないので早く食べて欲しいんですけど」
「そうだ!魔法で凍らせて永久保存しよう!」
そんな言葉が隣から聞こえると、
「それ良いね!」
目の前の師匠も賛同する。
「「はぁ・・・今日中に全部食べて下さい!!」」
お互い苦労しますねと顔をしながら声を合わせて言い、しっかり完食するのを見届けるのだった。