会議
ラーブルク龍王国に来て2日目の午前中、ハウザーさんに城内を案内して貰ったあと、午後からの会議に備えて休憩していた。
そこへ、コンコンと誰かがドアをノックする音が聞こえた。
「ワタルさん入っても宜しいでしょうか?」
声の主はアリーだった。
「どうぞ」
と声をかけるとドアが開き、
「お邪魔します」
アリーが入室してきた。
そしてアリーに続いて、
「邪魔するのじゃ〜」
なぜかティーも一緒に入ってきた。
「2人してどうしたの?」
「まだ、エレオノーラ達が戻ってきていなくて少々暇になっていたのと、ワタルさんが午後からティーフェン様についての会議に参加されるとお聞きしたので、何か力になれる事があればと思いまして」
「そうだったんだ、わざわざありがとう。それにしてもまだ3人とも帰ってきてなかったんだ」
「えぇ、熱中してるんだと思います」
「それでティーは何しにきたの?」
「妾は仕事が終わって暇になったから遊びに来たんじゃ」
「仕事が終わってるんだったら良いか」
「そうじゃ、ちゃんとヴァルナの奴にも許可は取っておるから問題ないのじゃ。それよりもコタケよ、お主はこれから会議に出るが、きちんとやれるのか?」
「う〜ん、正直緊張してうまく話せなさそう・・・」
いきなり国のトップに混じって議論し合う事ができる人はいないだろう。
「もし許されるのであれば、私も一緒に参加しても宜しいでしょうか?元々国でもそういった経験はありましたので」
とアリーが提案した。
「俺も一緒に居てくれた方が安心するし確認してみるよ」
そう言って、外で待機していたハウザーさんに確認してみた。
ハウザーさんはテンメルスさんに確認すると言って、すぐさま聞きに行ってくれた。
結果、アリーも一緒に参加できることになった。
「よかった、アリーが居てくれるなら心強いよ」
「うむ、妾も安心じゃ」
「ふふ、精一杯頑張りますね」
「ところでコタケよ、会議の時に何を言うのかは決めておるのか?」
「とりあえず、ティーは今の仕事量を減らしたいんだよね?」
「うむそうじゃな」
「その中でも特に嫌なのが玉座の上でジッとしてる事だったよな?」
「そうじゃ、暇すぎて退屈なんじゃ」
「うーん、でもティーがそこにいないと国としても問題があるんだよね?そこをどうにかしないとなぁ」
俺とティーが悩んでいると、
「ティーフェン様は魔法がお得意ですよね?」
とアリーが言った。
「まぁ、ほとんどの魔法は使えることができるの」
「それでしたら、幻影魔法は使う事はできますでしょうか?」
「なるほど!その手があったのじゃ!」
「幻影魔法?どういうこと?」
何も分からない俺にはさっぱりだった。
「幻影魔法のアプレイションは自身の姿の幻を作り出す事ができるのです」
「なるほど、それでティーがいるように見せるのか!でも、その幻って出したらずっとそのままなの?」
「いえ大抵の場合は1時間程で消えてしまいます。ですが、ティーフェン様程の方でしたら、かなりの時間保つと思います」
「そうじゃな、妾なら1週間は維持できる」
「1時間を1週間も保たせる事ができるのか!すごいな!」
「じゃろう、ふっふっふ、もっと褒めよ!」
「でも、効果切れたら毎回魔法を使いに来ないとダメだよな?」
「そこは心配無用じゃ!妾がその魔法を組み込んだ魔道具を作るのじゃ。妾以外の者にも魔力の補充ができて、いつでも幻を出すことができるようにしておくのじゃ」
(なんか、ティーって子供っぽい所あるけど、何でも出来てチートすぎないか?)
「ティーに出来ない事ってあるの?」
「なんじゃ急に?」
「なんか言った事ほとんどできてるから」
「別に妾も何でも出来るわけじゃないぞ。今だってお主達が居なければ、この案は出てこなかったわけじゃし、お主達に会えて本当に良かったぞ」
「そうか、そう言われると少し照れるな」
この後も、何を言うか話し合っていた所で、会議の時間が近づきハウザーさんが呼びに来た。
そして会議室がある2階に降りていった。
「こちらが会議室となります」
出番が近づきかなり緊張してきた。
「では、本日最後の議題に移ります。ティーフェン様の今後についてです。話し合う前にまずはご紹介したい方がおりますので、その方に入室して頂きます」
中からテンメルスさんがそう言うのが聞こえてきた。
ガチャと扉が開かれ、俺は中に入った。
室内には、テンメルスさんとヴァルナさんの他に大臣と思われる男女が10名程いた。
「こちらはティーフェン様が家出した際に保護して下さった方達です」
「初めまして、コタケ ワタルと申します」
「アリシアと申します」
俺達は、自己紹介をして一礼した。
ちなみにアリーは家名を言って、自国の者に見つかるとまずいのであえて名乗らない様にしたみたいだ。
「では早速、今回ティーフェン様が家出した件だが、原因は我々にある。今までティーフェン様は我が国の象徴であると同時に、他の国への抑止力となっていた。その中で我々はティーフェン様の自由を奪っていた事になる。それに嫌気が差して今回の家出に繋がったのだ。だから、ティーフェン様の仕事量を減らしたいと思っている」
ティーは、それを聞いてうんうんと頷いている。
「それは、分かりましたが謁見の際にティーフェン様のお姿が無いと、それを好機と見た国が攻めてくるやもしれません。ラーブルク龍王国の軍は他の国と比べると規模も小さく攻め込まれると勝ち目はほぼ無いでしょう」
大臣の1人がそう言い、他の人達もその通りだと言うように頷いている。
「私も正直な所、そのように考えている。だが、ここは我々の国でもある。ティーフェン様1人に頼るのはもう辞めにしないか?」
テンメルスさんは皆を説得するようにそう言った。
「私もティーフェン様に頼らない国防について異論はありません。ですので、今後は増員と訓練の強化を行って力を上げていきましょう。しかし、謁見に関してはいかがなさるのですか?」
軍服のような服を着ていた大臣の人が声を上げた。
「それに関して何か良い意見のある者は居ないだろうか?」
全員悩んだ様子で考えていたので、俺は先程出した案を言う為に手を上げた。
「おぉ、コタケ殿何か良い案があるのですか?」
「はい、さっきみんなで話していて出てきた案なんですが、ティーがアプレイションという幻影魔法を使えるみたいで、その魔法の機能を持たせた魔道具を作り、いつでも居るように見せるという事が出来るみたいです」
「ティーフェン様、それは本当ですか?」
「もちろんじゃ、それくらい妾には朝飯前じゃ」
「なるほど、それであれば問題なさそうですね・・・何か異論のある者はいるか?」
誰も何も言わないので異論は無さそうだ。
「では、ティーフェン様には魔道具を作って貰い、我々は今後自分達の力で国を守っていけるようにする事とする」
「うむ、任せるのじゃ。妾もお主達の事が嫌いになったわけじゃない、皆大切な民じゃからな、国に万が一の事があれば、すぐに駆けつけるから安心せい」
普段は子供っぽいティーが、その時はとても大人びて見えた。
その後も、会議は続き今後の対応をどうしていくかを話し合っていた。
俺には、少し難しく余り提案は出来なかったが、アリーは慣れているのかいくつかの案を出していったので、アリーが居てくれて本当に助かった。
「それでは、本日の会議はここまでとする」
こうして、無事会議は終わり、テンメルスさんと少し話をした。
「コタケ殿、今回は助かりました」
「いえ、俺は何も・・・この案を出したのはアリーですし、魔道具を作るのはティー本人ですから」
「それでも、コタケ殿が居なければ、皆が会うことも無かったわけですから自信を持って下さい」
「ありがとうございます」
「テンメルス様、1つご提案なのですが、うちのエレオノーラをこちらに滞在している間、軍の訓練に参加させましょうか?」
とアリーが言った。
「それはありがたい限りですが、それではアリシア様の護衛をする者が居なくなってしまいます」
「大丈夫ですよ、ティーフェン様にはお守りも頂いてますので」
「俺とクロ達もいるので大丈夫ですよ」
「そうおっしゃるのであれば、ありがたく提案を受け入れさせて頂きます」
一方でティーとヴァルナさんは、
「ティーフェン様、1ヶ月に1回はお手紙出して下さい。それと半年に1回は国に顔を出して下さい」
「わかったわかった、きちんと顔も出すから、頭を撫でるのをやめんか」
田舎から上京する子供を心配する母親のような状態になっていた。
テンメルスさんと話し終えた俺とアリーは、また部屋へと戻った。
戻る途中、見学を終えたエレオノーラさん達とも合流した。
アリーが、エレオノーラさんに護衛は問題ないから滞在中に騎士団の訓練を見て欲しいと言うと、快く引き受けてくれた。
こうして、無事2日目も終えたのだった。




