訪問者
ティーが来てから、5日程が経った。
彼女が来てから大きく変わったことがある。
それは、保存している肉の減るスピードが上がったことだ。元々ドラゴンなだけあって、食事量は人間とは全然違っていたのだ。
流石にこのままでは、食料が尽きてしまうのでティーには周辺にいる動物を狩ってきて貰うことにした。
このままではご飯が無くなってしまうと伝えた所、
「あの2人のメイドが作るご飯は美味いから嫌なのじゃ」
と食料を調達してくる事に二つ返事で引き受けてくれた。
ちなみに以前作った畑の野菜は小さな実がなってきているが、まだ収穫は出来ていないので、街で買ってきた物を使用している。
それとティーはいつも肉を取ってくるのだが、その中にはいつものウサギの肉の他に初めてみるイノシシの肉も入っていた。
どうやら、そのイノシシは拠点のある場所よりも奥に行った所に生息していたみたいで、
「肉がたくさんついてるのじゃ!」
と言って狩りの初日に5匹ほど持って帰ってきたのだ。
ちなみに、アンさんとリビアさんが言うにはイノシシの肉は血抜きをきちんと行わないと臭みが出てしまうそうで、かなり手間がかかるそうだ。
それでも、その日の夜に出されたイノシシの肉を食べてみると臭みは全くなく、ウサギの肉とは全く違った味がしてとても美味しかったので、やはり2人は凄かった。
そしてティーは今日も昼食を食べた後に狩りへと出かけていた。
そんな中、俺は特にやる事もないので、ゆったりとくつろいでいた。
しかし、そこに今日が拠点の巡回当番である緑スライムがやってきた。
なにやら、発見したみたいで俺に来て欲しいみたいだ。
「ちょっと外に行ってきますね」
とリビングにいたアリー達に声をかけてから、念の為クロにも一緒に付いてきてもらい、拠点の入り口へ向かった。
「ぱっと見、何も無さそうだけど?」
俺は緑スライムへ問いかけた。
それに対し緑スライムは、森の中に何かあると言っているみたいだった。
流石に、自分達だけで行くのは危ないと思いどうしようか悩んでいると、森の中からガサガサと音が聞こえてきた。
すると森の中から、1人の男が現れた。
「ふぅ〜、やっと森を抜けれたか。はぁ、なんだって俺がこんな事を・・・」
と男が1人で呟いているのを眺めていると、こちらと目が合った。
男は少し警戒した目つきになり、少しずつこちらに近づいてきた。
「すみません。旅の者なんですが、少し聞きたいことがあって大丈夫ですか?」
男はそう話しかけてきた。
「えぇ、なんでしょうか?」
「実は、探している人がいまして・・・」
魔の森と呼ばれているここに入って来る人物な上に、探し人がいると言うことは、アリーの捜索をしている者達ではと警戒すると、
「頭にツノの生えた、少女の姿をした子を探しているんですが、心辺り無いですか?」
どうやら男は、アリーではなくティーを探している見たいだった。
しかし、男が何者か分からない為、俺は、
「見たこと無いですね」
と嘘をつくことにした。
「そうですか・・・」
男は少し落胆した表情を浮かべた。
「もし、見かけましたらラーブルク龍王国まで一報ください」
男は続けてそういった。
ラーブルク龍王国と聞いて、俺がもしやと思ったそこに、
「今日も大量だったのじゃー!」
そこに当の本人であるティーが狩りから帰ってきたのだった。
「おぉ?コタケよ、そんな所で何をしておるのじゃ?」
そんなティーの声を聞いて、男は勢いよく振り返った。
すると、男は猛ダッシュでティーの方へと向かって行った。
「な!貴様は!」
まずいと思い俺も駆け寄ろうとすると、男は突然、
「やっと見つけましたよ〜!今までどこ行ってたんですか〜!」
と泣きながらティーの足元で崩れ落ちた。
「その人ティーの知り合い?」
「こんなやつ知らんのじゃ」
「ひどい!はぁ、こんな事してないで早く国に帰りますよ!」
「イ・ヤ・じゃ!妾は国に帰らん!」
「そんな我が儘言わないで下さいよ。それに貴方が帰らないと私も帰れないんですよ」
「なんと言われようとも妾は帰らんのじゃああー」
と言いティーが家の方にダッシュしていった。
「あ!ちょっとお待ちください!」
「あの〜とりあえず家に入りますか?」
ティーの知り合いみたいなので家に招き入れることにした。
「ワタルさん、今龍王様が凄い勢いで部屋へと戻られたのですが・・・あら?そちらの方は?」
「なんかティーを連れ戻しにきた人みたいで、話を聞くために来てもらったんだ」
「お邪魔します」
「立ち話もアレなので、座って話しましょう」
「では、失礼します」
リビングの椅子に腰掛け、アリー達も一緒に話を聞くことになった。
椅子に座るとアンさんがサッとお茶を出してくれた。
「ではまず、私の名前ですがラーブルク龍王国58代目国王テンメルス・ラーブルクと申します」
「まさかの国王様でしたか・・・」
これには流石にびっくりした。
かしこまった感じの方が良いのかなと考えていると、
「今は非公式の場ですし、こちらが突然押しかけている立場ですのでかしこまらなくても大丈夫ですよ」
「では、俺の名前はコタケワタルと言います。そしてこちらが・・・」
とアリー達の事も紹介していった。
「早速なんですが、テンメルスさんは何故この様な場所に」
「実は10日程前にティーフェン様が、このような置き手紙を残して消えてしまいまして」
そう言われ見せられたのが、
家出するから探すな!
とだけ書かれた紙だった。
「我々もすぐに帰って来るだろうと思っていましたが、3日経っても全く帰ってくる気配もなく、これは流石にまずいとなったので捜索隊を派遣することになり、私もそれに参加することになったのです」
「国王がそんな簡単に国を離れて大丈夫なんですか?」
「まぁ、私がいなくても国は回りますので、それに妻から見つけるまで帰ってくるなと言われまして・・・」
と少し遠い目をしていた。
「それで旅立ったのちにこの辺りで大きなドラゴンを見かけたという話を聞き、この森に入ってきたという感じです」
「そうでしたか、大変でしたね・・・」
「えぇ、本当に大変でした」
「ところで一つお聞きしたいのですが、ティーを絶対に連れて帰らないとダメですか?こうして無事である事が分かるだけでも大丈夫では・・・」
「お恥ずかしい話、我が国は海に面した小国で軍事力もあまり高くは無いのです。しかし、龍王であるティーフェン様がいる事で、他国に対して抑止力となるんです。そこで、ティーフェン様がいない事が他国に知れ渡ってしまうと、攻め入られる可能性が出て来るんです」
「なるほど、そういう事情があるんですね・・・でも、ティー本人が嫌だと言っているので、俺としては行かせたく無いんですが」
「コタケさんはお優しいですね。しかし、我が国の民も危険に晒されるかもしれませんし、連れて帰らない訳に行かないのです。なので虫のいい話ではありますが、できれば皆様に説得して頂きたいのです」
「とりあえず、俺の方から少し話してみます」
そう言って、俺はティーの部屋へと向かった。
コンコンとドアをノックすると中から、
「妾は絶対に戻らんからな」
と言う声が聞こえてきた。
「なぁティー、少し話をしよう」
「なんじゃコタケじゃったのか、あやつに説得してくれとでも頼まれたのか?」
「まぁ、その通りだな」
「誰がなんと言おうと妾はここに住み続ける」
「俺もティーが居てくれたら、楽しいし頼りにもなるから嬉しいよ。でも、ティーが居た国の人達はどうなるんだ?ティーがいないのを良い事に戦争を吹っかけて来るところもあるんじゃないか?今までティーの影響力に頼ってきた国の方も悪いが、ティーだって自分のいた国に滅んで欲しくないだろうし良い思い出もあっただろう?」
「それでも、あんな座ってばかりの退屈な日々は嫌じゃぞ」
「そうだよな。だからその状況を変える為にも一度国に帰ってみないか?もちろん俺達も一緒に付いて行く。1人じゃ嫌だろうからな、みんなで行けば多少は楽になるだろ?」
しばらく返答が返って来なかった。
すると、部屋のドアがキィと開き。
「はぁ、妾の負けじゃ。お主達も一緒に付いてきてくれるのであれば、一度戻ることにしよう」
「あぁ絶対に付いて行くよ」
そうして、出てきたティーを連れてリビングへと戻ってきた。
「おぉティーフェン様、戻ってくださるのですか?」
「一時的に戻るだけじゃ。それとここにおる者達も一緒に来るから最高の待遇をする様に」
「皆様が来るのは構いませんが、一時的ですか・・・」
「そうじゃ、妾はあんな退屈な日々よりもこっちにおる方が気楽で楽しいのじゃ、じゃから妾が居らんでも大丈夫なようにして来るのじゃ」
「はぁ、分かりました。一度戻って貰えるだけでもこちらもありがたいので、これ以上は何も言いません」
「よし、分かったかの、ならほれさっさと国へ帰るのじゃ」
とシッシッと手で追い払う仕草をしたが、外を見ると暗くなってきていたので、
「外も暗くなってきてるし、今日はこのまま泊めてあげようよ」
「お主もお人好しじゃの、分かったわい一日だけ泊めてやるのじゃ」
「ありがとうございます」
こうして、ティーの一時帰国が決まり、国王を1日我が家に泊めることになったのだった。
1日遅れではありますが、1話目の投稿から早くも2ヶ月経ちました!
この期間で6000PVは多いのか少ないのかよく分かりませんが、当初はこれだけ見て下さるとは思っていなかったので、とても嬉しいです。
今はなんとか2日に1回のペースで投稿は出来ていますが、投稿が多少遅れてしまうこともあるかもしれません。なるべく今のペースを維持しつつ、もっと多くの人に面白いと感じて貰えるように頑張りますので、これからもよろしくお願いいたします!




