ティーフェン・ラーブルク
いつの間にかスライム達の小屋に住み着いて、自身をティーフェン・ラーブルクと名乗った少女は、まさかの国のトップにしてドラゴンの頂点に立つという人物だった。
「えっと本当にそんなに偉い人なの?」
「なんじゃ、まだ疑っておるのか?なら・・・ほれこれを見てみろ」
と首にかけていたネックレスを見せてきた。
「この紋章の入ったネックレスは間違いなく龍王国の物です」
アリーはそれを見て答えた。
「それに、さっき妾の本当の姿を見たじゃろ。それが何よりの証拠ではないか?」
確かに、先程とてつもなく大きいドラゴンに変身したのは疑いようもなかった。
「じゃあ、そんなに偉いティーはなんでこんな場所にいるんだ?」
ふと疑問にしたことを口に出した。
「それは・・・なんじゃ」
肝心な部分が小声になって聞き取ることができなかった。
「え?なんだって?」
「だ・か・ら!妾は家出中なんじゃ!」
「は?」
予想外の言葉にその場の全員がポカンと口を開けていた。
「それはまたどうして?」
「あの国におっても何もする事がなくて、つまらんのじゃ」
「一国の主がそれでいいのか?」
「別に妾がする事なんて何もないからいいのじゃ」
どういうこと?と思いアリーに視線を向けた。
「ラーブルク龍王国では、普通の人間の王様も居てですね、その方が政を行っているんです」
「それじゃティーの役割って?」
「龍王様は主に国の象徴として扱われていて、ずっと宮殿内にいらっしゃるとお聞きした事があります」
「そうじゃ、そこの娘の言うとおりじゃ。妾は1日中ドラゴンの姿をして玉座の上におるだけなんじゃ」
「確かにそれはつまらないだろうけど、今までもずっとそうだったんじゃないのか?」
「1000年もそんな事しておったのじゃぞ、もう我慢の限界じゃったんじゃ」
「えっ?ティーって今何歳なの?」
「妾はかれこれ3000年は生きておるぞ」
まさかの3000歳だった。見た目が少女なので、完全に騙されていた。
「なんで、そんな少女の姿してるの?」
「この姿で街に出歩くとご飯とかお菓子を恵んでくれる人がおるのじゃ」
とんでもなくしょうもない理由だった。
「そんなことより、そこの娘は妾の国の事も知っておれば、立ち振る舞いなんかも気品が溢れとるではないか。どこかの貴族の娘ではないのか?」
とアリーを指差しながら言った。
「はい、私はマゼル王国にあるウッドフォード公爵家の娘のアリシア・ウッドフォードと申します」
と華麗に挨拶をした。
「ほぉ〜公爵家の娘か〜、じゃがなんでこんな所におるんじゃ・・・?はっ!まさか誘拐かの!」
と俺の方を見ながらとんでもない事を言い出した。
「いや違うから。俺が元々ここに住んでて、彼女達とたまたま出会ってそれ以来一緒に住んでるだけだよ」
「なんじゃ、そんな事か。まぁ誘拐犯と仲良く暮らしてるわけもないし分かっておったが」
分かってるなら言うのなよと思いつつ、
「そんな、ティーこそ家出してなんでこんな所にいるんだ」
「実はな、国から飛び出したのはいいものの、お金持ってくるの忘れちゃって野宿で転々として来たんじゃ。そんな中で、この森の中に小屋があるのを偶然見つけてな、そこで寝泊まりしておったんじゃ」
これで大体の経緯が分かった。
「ちなみに、この場所はいつくらいに見つけたの?」
「4日程前じゃの」
(俺たちが出た翌日か・・・ていうかちょっと待てよ・・・)
「なぁ、この森に入ってきた時ってどんな姿してた?」
「それは勿論、ドラゴンの状態で森の上からズドーンじゃ!」
まさかと思いエレオノーラさんに視線を向けてみた。
「コタケ殿の考えている事は、多分正解だ。龍王様がこの森に来たことで、魔物達がパニックを起こして、あの街の方にやって来たのだろう」
どうやら、俺が考えた事は当たっていたみたいだ。
「なんじゃ、なんかあったかの?」
俺は近くの街に大量のモンスターが押し寄せてきた事を話した。
「それは、すまんかったのじゃ。妾も飛び疲れてそこまでは考えておれんかったんじゃ」
「まぁ別にわざとじゃないならいいけど、というか今もここに居て魔物達に影響はないの?」
「この姿の時は、ほとんどの者にはただの人間にしか見えんから魔物も暴れる事はないのじゃ」
「それなら良いか・・・」
「それでの物は相談なんじゃが・・・」
「なに?」
「妾もここに住まわせてくれんかのう」
「国はどうするの?」
「しばらく放っておくのじゃ!」
(そんなので良いのかな?)
「俺は別にここに住んでも構わないけど、他のみんなは大丈夫?」
「私はワタルさんが大丈夫だと言うのであれば問題ありませんよ」
他の3人も特に異論はないみたいだ。
「じゃあ、しばらくここに住むっていう事でよろしく」
「よろしくなのじゃ!」
ということで、この拠点に新たな住人ができた。
この後、お互いにもう一度自己紹介をした。
その際に、エレオノーラさんに吹き飛ばして申しわけないと謝っていたので悪い人ではなさそうだった。
当の本人は現龍王と戦えたという事で喜んでいた・・・
この日はそのまま夕食を食べた。
先程あれだけ食べたはずのティーがさらに追加で食べていたので、食料が足りるのかと少し心配になってきた。
夕食を食べ終えた後、ティーを空いている個室へと案内して、疲れ果てた俺は自室に戻り眠りについた。
 




