盗まれた宝物
ヴォグルさんの家で1日お世話になった翌日。
俺達は先にお暇しようとしていたのだが、町全体が何やら騒がしくなっていた。
「祭りでもあるのかの?」
「いや、そんなもんねぇはずだが・・・ちょっと待ってろ」
そう言ってヴォグルさんは家から出て行く。
しばらく経って戻って来ると、深刻そうな顔をしていた。
「何かあったんですか?」
「あぁ、どうやらこの町に古くから継承されて来た宝物が盗まれた様なんだ」
「もしや余所者の私達が疑われているとか?」
エレオノーラさんはそう言ったが、
「いや、それはねぇから安心しろ」
すぐに否定する。
「宝物が納められていた場所に足跡があってな、ホブゴブリンの仕業とは分かってるそうだ」
「ホブゴブリンか・・・」
「ゴブリンの上位互換みたいな感じですか?」
俺はエレオノーラさんに聞いてみる。
「その通りだ。ゴブリンは1m程の魔物だが、ホブゴフリンとなると2mに近い体長になるんだ。しかも、ゴブリン同様群れを成していて、半端な冒険者では殺されてしまう事もある」
「今回はその群れの部分で問題が発生してな、どうやら100匹程の群れが近くの洞窟に住み着いたそうなんだ」
聞くだけでもかなり厄介そうだ。
「討伐隊を組むのか?」
「いや、冒険者が派遣されるまで様子見と言った所だ。俺らドワーフは力は強いが、ホブゴブリンともなるとあまり変わらない上に、身長差があって不利なんだ」
「確かにその通りだな・・・」
「だから冒険者を待つしかねぇな。それに盗まれた宝物はアイツらにどうこう出来る代物でもねぇから大丈夫な筈だ」
そうは言うものの少し不安な顔をしている。
「私達で取り返しに行くのはどうだろう?」
「ふむ、それもアリだな。宝物と言うのも気になるしな」
レンダさんの言葉にエレオノーラさんが反応する。
「お前さん達の強さは重々承知しているが・・・」
「構わない。パッと行ってパッと取り返して来るさ」
「そうか、なら町の奴らにその事を伝えてくる」
「私はお役に立てなさそうですね」
「アンは先に帰った方が良いだろうな」
そういう訳で、アンさんは転移で家に帰して残りの4人でヴォグルさんに教えて貰った洞窟の前までやって来た。
「妾がこのまま入口からブレスを吐いた方が早くないかの?」
「宝物が何処にあるか分からない状態で、それは危険じゃない?」
「コタケ殿の言う通りですので、外から一掃は控えて貰いたいです」
「まぁ、そう言う事なら仕方ないの」
「先頭は私が行っても良いか?」
レンダさんが言い、後に続いてエレオノーラさん、俺、ティーの順で洞窟に入る。
中は道がいくつもあり、入り組んでいる。
そして、入口から10m進んだくらいで早速ホブゴブリンと見られる緑色の肌をしたデカいゴブリンが2匹現れた。
俺達を見つけたホブゴブリンは仲間を呼ぼうと声を出そうとしたが、レンダさんが頭を吹き飛ばし、エレオノーラさんが首を切り落として素早く仕留める。
「こうも早く接敵するとはな。本当に100匹近くいそうだ」
「やっぱり面倒じゃし、吹き飛ばした方が早くないかの?」
「もし、宝物を先に見つける事が出来たらその手段を取りましょう」
「そう言えば、宝物ってどんな見た目をしてるんですか?」
「親父さんから聞いた話だと、サビサビになった長物の武器だそうだ」
「なんでそんな錆びた物を宝物にしてるんだ?」
「かなり大切な武器だそうだが、熟練の鍛治士でも何故か錆を落とす事が出来ないらしい」
そうこう話していると、目の前にホブゴブリンが4体再び現れ、俺は携えていた聖剣を横に一振りして斬撃を飛ばし、ホブゴブリンの体は真っ二つになるのだが、斬撃の勢いが止まらず後ろの壁に当たりガラガラと崩れ落ちる。
「あっ、ごめん」
「強く振りすぎだ。音でバレたかもしれないから移動するぞ」
動こうとすると、
「崩れた向こう側に部屋が見えるんじゃが?」
とティーが言い近づいてみる。
崩れた壁を乗り越えると、そこには他から盗んできたであろう金色のネックレスや硬貨、食料などが乱雑に置かれていた。
「汚いのー」
盗まれた物を見て回っていると、
「ん?こっちに来てくれ」
とレンダさんが言うので側に寄ると、部屋の壁に錆びついた1本の槍が立てかけられていた。
「これって、目的の物じゃないですか?」
「確かにそうだな。親父さんが言っていた物の特徴と一致している」
エレオノーラさんがそう言って手に取ろうとした瞬間、右手に握っていた聖剣がピカピカ白く発光しだしたのだ。
「うわっ!なんだろう?」
「急にどうしたんじゃ」
「勝手に光出して・・・」
「この槍も光ってないか?」
レンダさんの言葉にジーッと見てみると、錆の隙間から光が少し漏れ出ていた。
「うーん、コタケ殿。この槍を握ってみてくれ」
「えっ・・・何も起こらないですよね?」
「危険は無いじゃろ」
促されて握ってみることにした。
すると・・・ポトッ、ポトッと槍についていた鯖が地面に落ち始める。
「ねぇ、これ本当に大丈夫?」
「何かあっても守ってやるから、安心するのじゃ」
話している間にも錆は落ちていき、遂には槍全体を覆っていた錆の全てが落ち、白色の絵に金色の模様が入った5m程の綺麗な槍へと変化したのだ。
「あれ?光も収まった?」
「なかなかの業物に見えるの」
マジマジと見ようとした時、洞窟の奥からギャアギャアとホブゴブリン達の声がした。
「まずいな、壁が壊れた音で寄って来たみたいだ!物は確保出来たから洞窟から脱出するぞ!」
来た道を戻って洞窟の外に出ると、ティーがいきなりドラゴンの姿に変化した。
何をするのかと思いきや、洞窟内に向けて口を開けて火のブレスを吐いたのだった。
「ギャアァァー」
中からホブゴブリン達の断末魔が聞こえる。
「なかなかえげつないね・・・」
「だが、これが手っ取り早いからな」
ティーはしばらくブレスを吐き続けて、断末魔は聞こえなくなった。
「これで依頼完了じゃの」
「早速、親父さんに報告に行こう」
と町に戻ってヴォグルさんの家に到着する。
「おぉ!無事だったか!」
「あぁ、問題なく事を終えたよ」
「怪我も無さそうで良かった」
「安心してくれ、ホブゴブリン達も恐らく全滅しただろう。後々やって来る冒険者達に一応洞窟内を調べて貰うと良い」
「あぁ、長老にも伝えておこう。それで・・・宝物はどうなった?」
「そっちもしっかりと持ち帰ったのだが・・・」
「だが?」
エレオノーラさんが俺に目配せし、後ろに隠していた槍をヴォグルさんに見せる。
「コタケ殿が触った瞬間、錆が落ち始めてこんな姿に」
「お、お、おぉ!これは!」
ヴォグルさんは何やら慌てた様子で興奮している。
「ちょっと待ってろ!すぐに長老を連れて来る!」
大慌てで家から飛び出して行く。
「やっぱり、マズい感じ?」
全員で首を傾げて大人しく待っていると、ヴォグルさんが白いヒゲを生やし杖をついたドワーフを連れて帰って来た。
「長老!これだ!」
家に入るなり、槍を指しながら大きな声を上げる。
すると長老は、
「おぉ!なんと!言い伝え通りの姿ではないか!」
目を見開いて興奮した様子になる。
「あの、ヴォグルさん?この槍は・・・」
「おっと、すまねぇ。これについて説明していなかったな。実は、この槍はドワーフの町に受け継がれている聖槍なんだ」
「聖槍?」
俺はよく分かってない顔をしているが、あとの3人は驚いた表情をしている。
「お主の持っている聖剣と同等の物じゃ」
「えっ!」
「なんと!そちらの方は聖剣まで保有しておられるのですか!もしや、今代の勇者様でしょうか?まさか、この目で聖槍グランドゥーザを見られるとは!」
話を聞いた長老がそんな事を言い出す。
「兄ちゃん、そうだったのか?」
「いやいや、違いますよ!」
俺は否定し、後ろの3人は少し笑っている。
「しかし、聖槍も反応したとなるとやはり勇者様としか思えませぬ。この、聖槍は選ばれた者が現れるまで錆び付いた姿を取り、その手に握られると錆が取れるという言い伝えがあるのです」
「聖剣が反応して光っていたので、それの影響では?」
「いえ、これは勇者様のお力です」
すっかり勇者呼びが定着してしまった。
「しかし、これは我が町の宝・・・」
「えぇ、もちろんお返ししますよ」
と長老の言葉にそう返す。
聖剣すら俺にとっては有り余る力なのに、そこに聖槍まで増えれば過剰になる。
「えぇ、助かります。代わりのお礼はいくらでも致しますので」
そう言う長老に、聖槍が保管されていた場所に案内される。
そこには、聖槍がピッタリ収まる台座が置かれており、そこにはめ込む。
「これで、大丈夫ですね」
そう言いながら戻ろうとすると、全員の視線が俺の右手に集まる。
何かと思い見てみると、台座に置いた筈の聖槍が戻って来ていたのだ。
「あれ?今置いてたよね?」
「槍が浮き上がって戻って来ておったのじゃ」
「おぉ!これも言い伝え通りですな。どの様な状況下でも使用者の手元に戻ってくるのです」
それは確かに凄いのだが・・・
「つまり、俺が何処に置いたとしても戻って来ちゃうと」
「えぇ、その通りです。ですので、どうやらこの聖槍は勇者様に使って頂く他無い様ですね」
やはりそうなるのだった。
「しかし、兄ちゃんのお陰でいい物が見れたな」
「こうして、勇者様が聖槍を手に取る場面を見られて感激です」
長老は何故か涙を流しているが、勇者では無いので騙している様で申し訳ない。
「さて、そろそろ帰ろうじゃないか勇者様?」
エレオノーラさんがふざけてそう言って来る。
「全く、お主は聖なる武器を集めてどうするつもりなんじゃ」
「それは俺も知りたいくらいだよ」
「それじゃあ、親父さんも気を付けて帰って来てくれ」
「おぉ、ありがとうな。お前さん達も気ぃつけてな」
町にしばらく残るヴォグルさんと別れて、俺達は聖槍を手にし帰るのであった。




