ペガサスの溜まり場
「この先にですよ!」
現在、ペガサスの姿になっているシェリーに跨りながら空を飛んでいる。
「この先にシェリーが暮らしてた場所があるの?」
「はい!」
下を見下ろせば、平らな大地に花や草が大量に生えている。
先日、シェリーが以前住んでいた場所に招待すると言ってきたので、試しにと付いて来たのだ。
周辺には家屋は無く人の気配もしない、のほほんとした平和な空間で、ペガサスが住んでいる場所のイメージ通りだった。
「あっ、あそこにいましたよ!」
翼の生えた真っ白な毛並みの馬達が、群れを成して草を頬張っていた。
「降りますね」
ペガサス達の側に降り立つと、不思議な顔をしてこちらをジッと見つめてくる。
なにしろ、ペガサスが人間を上に乗せてやって来たのだから警戒もするだろう。
「大丈夫?攻撃とかされない?」
「ペガサスは攻撃手段を持たないので大丈夫ですよ。それよりも、ここメスばっかりですね」
ペガサスは翼が生えている所以外は、普通の馬と変わりは無いので生殖器を見て判断した様だ。
「ねぇ?ここに来た理由を聞いて無かったけど、もしかして・・・」
「はい!私の旦那さん探しです!」
その言葉を聞いてやはりと思う。
「でも、ペガサスのオスは一通り当たったんじゃないの?」
「その言い方ちょっと酷くないです?事実ですけど・・・まぁ、ペガサスはこの場所以外にも生息しているので、そこから新しいオスが来てないかなって確認しに来たんですよ」
そんな話をしていると、1匹のメスのペガサスが向かって来た。
「ヒヒーン!」
何かを喋っているのか鳴き声を発する。
「ペガサスって人間の言葉は喋れないんだっけ?」
「所詮は翼の生えた馬ですし、そうですよ?」
「じゃあ、なんでシェリーは喋れるの?」
「リスニングで覚えました!馬は耳が良いですからね!」
意外と高スペックなシェリーだが、モテないものはモテないらしい。
「それで、目の前のペガサスは何て言ってたの?」
「久しぶりね、シェリー!です」
「知り合い?」
「えぇ、まぁ・・・」
微妙な反応をしている。
「ヒヒーン!ヒヒーン!」
「今度はなんて?」
「貴女、もしかして人間なんかと結婚してのかしらって言われました。そうですって言って良いです?」
「いや、ダメだからね?」
「えぇ〜、ちょっとくらい良いじゃないですか」
「ちょっとも何も無いんだけどね。と言うか、もしかしてその為に俺を連れて来たの?」
「そ、そんな訳ないじゃないですか〜。コタケさんにペガサス達がどんな所に居るかを見せたかっただけですよ〜」
そうは言うが、恐らく旦那として紹介するつもりが少しあったのだろう。
シェリーは鳴き声を上げて、相手に何かを伝える。
すると、
「ヒ、ヒヒーン!」
と相手の馬が少し笑った様な感じがした。
「当然よね!アンタなんかと結婚してくれる人なんて居るわけ無いわよねと・・・」
どうやら馬鹿にされてしまったらしい。
「ごめん、俺のせいで・・・」
「いえコタケさんのせいじゃないですよ!それに、言われ慣れてますんで!」
少し悲しい事を言いつつフォローしてくれる。
「ヒヒーン!ヒヒーン!」
「まぁ、行き遅れのアンタなんかと結婚してくれる分無いわよね!愛人が良いところよ!と」
「口の悪いペガサスだね」
「ペガサスも人間も結局はこんな感じなんです。なんなら、1発かましちゃいます?」
「流石に暴力は止めておくよ」
「そうですかー」
その間にも目の前のペガサスは何かを言っていた。
すると、その後ろに居た他のメスのペガサス達が何やらボソボソと鳴いていた。
「ん?」
その鳴き声が聞こえたのかシェリーは首を傾げ、目の前のペガサスに何かを聞いた。
すると、そのペガサスは激昂し大きな鳴き声を上げて来た。
「うわっ!どうしたの?」
「後ろのペガサス達の話が聞こえたんですけど、どうやら目の前のペガサスも旦那に逃げられて独り身だそうですよ」
「それはちょっと可哀想だね」
「でも、我儘な性格で旦那に愛想を尽かされて逃げられたとか」
「それは自業自得だわ」
そんな状態で、良くシェリーをバカに出来たものだと思う。
すると、目の前のペガサスは怒り狂って後ろに居たメスの方へと突撃して行った。
「ペガサスって、もっと神聖的なイメージだったんだけど、結構俗物的だよね」
「どんな生き物も結局はこうなんですよ」
「あんまり知りたくなかった事実だよ」
俺達はその場から離れて色々な群れを見て回ったが、シェリーのお眼鏡に叶うオスは居なかった。
「もうそろそろ帰らないと暗くなっちゃうよ」
この場所は家からもそれなりに離れているので、陽が沈む前に出発しなければならない。
「あとちょっと、もーちょっとだけ」
と言うが、辺りにペガサスは見当たらない。
「流石にもう・・・」
言い掛けた時、視界の右端に黒い物体が映った。
何だろうとそっちの方を見てみると、そこには頭の左右から角が生えた真っ黒な馬が1匹佇んでいた。
「ねぇねぇ、シェリー?あの馬は何なの?」
「はい〜?・・・って、あれバイコーンじゃないですか!」
と大きな声を上げた。
「そんなに珍しい生き物なの?」
「珍しい言えば珍しいのですが、バイコーンはユニコーンの対となる生き物なんです。ユニコーンと言えば純潔を司る生物とされていて、私の様な者を好むんです」
その割には・・・
「あっ、今その割にはモテてないとか思いましたね?」
思った事を当てられドキンとする。
「私がユニコーンを振ってやってるんですから!」
「そ、そうなんだ・・・」
「コホン、話を戻しますと対となるバイコーンは不純を司ると言われてます。どう言う事かと言うと、1番最初に会ったようなペガサスのメスの様な者がタイプと言う事です」
「お、おぉ・・・」
思い出して、そんな反応する。
「つまりは、シェリーからすれば」
「論外です!」
キッパリと言った。
「と言うか、アッチも私なんかお断りでしょうしね。はぁ〜、結局今回も良い感じのオスが居ませんでしたね〜」
「気長に待っておこうよ」
「気長に待ち過ぎて、今の状況になってるんですけどね」
「確かに」
結局、今回は諦めて家へと帰ったのだった。




