洗体
「お主ら、明日は全員暇かの?」
ある晩、ティーがそんな事を言った。
特に予定がある人は居なさそうだ。
「なら、ちょっとある事を手伝ってくれんかの?」
続けてそう言うのだった。
〜〜〜〜〜〜
翌日。
お昼ご飯を食べ終えてから、庭の方に呼び出される。
「それで、手伝いって何をすれば良いの〜?」
「ちょっと待っておれ」
そう言うと、ティーはドラゴンの姿の状態へと変化した。
「お主達で妾の鱗を洗ってくれんかの?」
ティーによると、空を飛んでいる時に鱗の隙間などに砂や埃などが溜まるらしく、ブラシで洗って欲しいとの事だった。
「今までは大きい滝まで行って洗い流しておったのじゃが、それでは細部までしっかり出来んくての。折角じゃし、お主達に手伝って貰おうと思っての」
「そういう事ならまっかせて〜」
「オルフェよ、変な事するんじゃないぞ?」
「しない、しない。多分ね・・・」
「これは洗い甲斐がありそうですね」
アンさん達が袖をまくり、他の人達もやる気満々だ。
「よし、ばっちこいじゃ!」
ティーが合図すると、上空からバシャンと大量の水が降り注ぐ。
どうやら青スライムが魔法で、水を発生させた様だ。
「それじゃあ、そのブラシで洗うんじゃ」
それぞれ散開して、ブラシでゴシゴシと洗う。
アンさん達は流石プロなだけあって、細かい所まで素早く丁寧に洗っている。
「ワァーー・・・ワァーー・・・」
ベルがティーの背中に登り、行ったり来たりしながらブラシをかけている。
「はしゃぎ過ぎて、落ちんようにのー」
ティーの言っていた通り、汚れが結構溜まっており濁った水が流れていき、洗車をしている様な気分になる。
「おぉ〜〜そこじゃ、そこ。メアリーよ、その左脇腹辺りを入念にやって欲しいのじゃ」
「ここでしょうか?」
「うむうむ、そこじゃ。はぁ〜気持ちいいの〜」
ちょうど痒い所だったのか、気持ち良さそうな声を漏らす。
その後、何事も無く順調に洗い進んでいると、
「あ゛っ!」
と体を挟んだ反対側からオルフェさんの変な声が聞こえた。
何かやらかしたのかと回り込んで見に行くと、オルフェさんのそばにティーの黒い鱗が1つ転がっていたのだった。
「あはっ!オルフェちゃん、だいたーん!」
イルシーナさんが煽り、
「いやいやいやいや!私は普通に洗ってただけだから!何もしてないから!」
必死に弁明をする。
「何じゃ?どうしたんじゃ?」
ティーはまだ気付いていない様子だ。
「ママ、正直にごめんなさいしないとだよ?」
「うぅ、勝手に落っこちてきただけなのに〜」
と言いつつも観念した様子で、素直に謝る。
「ごめん、ティーフェンちゃんの鱗を剥がしちゃいました・・・」
「なんじゃ、そんな事か」
意外にもティーは気にしていない様子でそう言った。
「そもそも、ブラシで洗っただけで簡単に鱗が剥がれる訳無いじゃろ。それは古くなったから、落っこちただけじゃ」
どうやらそういう事だったらしい。
「な〜んだ!心配して損しちゃったー。それなら、もっとゴシゴシやってもいいね!」
「いや、普通に優しくやって欲しいんじゃが・・・」
自分が悪く無いと分かり、再び張り切りだしたオルフェさんに改めて注意するティーだった。
そして夕暮れ時となり、ティーの体を一通り洗い終わった。
「最後にもう1発頼んだのじゃ」
そう言うと、青スライムが再び魔法で大量の水を上から流す。
「ふぅ〜、気持ちいいの。ちょっと、待っておれ。お礼に良いものを見せるのじゃ」
ティーはそう言って飛び上がると、家から離れた上空でブルブルと体を震わせて水を払った。
すると、上空に虹がかかる。
「綺麗ですね」
最後は全員で虹が消えるまで、眺めているのだった。
 




