家出
「しばらくの間、よろしくお願いします!」
我が家の居間で元気よくそう言ったのは、獣人の国の王女メアさんだ。
そして、
「皆様にはご迷惑をお掛け致しますが、どうかよろしくお願いします」
とメアさんの姉のシルアさんが丁寧に挨拶をする。
「メアさんが来るのは分かりますが、シルアさんまで一緒に来るとは思いませんでした」
数日前、エレオノーラさん宛てに助けて下さいとメアさんから手紙が届き、何があったのか確認しに行くと父親である国王と喧嘩をして家出したいという事だったのだ。
とりあえず本人の意向を汲んで、一緒に家に行こうとした時にシルアさんが一緒に行きたいと言い出したのだった。
「とても面白そうだったので思わずついて来ちゃいました。きちんと、母にも許可を貰って来ましたので安心して下さい」
しっかりしてそうなシルアさんだが、意外にも大胆な所があった。
「とりあえず2人の部屋を案内しますね」
「あっ、私はエレオノーラさんの部屋で寝ますので大丈夫です!」
「いや、初耳なんだが」
「こ〜ら、これ以上迷惑掛けないの」
「あうっ」
案の定エレオノーラさんと一緒に寝たいと言い出したメアさんだが、今回はシルアさんがいる事であまり好き勝手は出来なさそうだ。
「「それでは改めまして、しばらくの間お世話になります」」
2人との生活が始まる。
〜〜〜〜〜〜
1日目。
「「おはようございまーす」」
朝7時に2人が起床してくる。
「早いですね」
「そうですか?普段は公務あったりともう少し早いんですよ」
流石、王女なだけあってしっかりしている。
「しかし、公務も無くゆっくりと出来るのは良いですね。良ければこの辺りの散策をしてみたいのですが?」
「なら、私が一緒に回ろう」
とエレオノーラさんが言うと、
「じゃあ、私も一緒に行きます!」
とメアさんが元気よく言い、3人で外へと出て行く。
8時頃になり、皆んなが起きて来るタイミングで3人も帰って来たので、朝食となる。
「どれも素晴らしい味付けです。城のコックと同等かそれ以上です」
「そうでしょう、そうでしょう!アンさんとリビアさんは凄いんです!」
何故かメアさんが自慢気に言う。
「私は料理をした事が無いので、少し興味があるんですよ」
確かに、王女であるシルアさんが料理をする経験など、まずもって無いだろう。
「それでは2人に教わってみては如何でしょうか!」
とアリーが提案した。
「宜しければ是非!」
朝食を終えると、提案通りアンさん達がシルアさんに料理を教えていた。
「野菜を切る時は猫の手が基本です」
「猫の手ですか?」
「手を丸める事で・・・」
一から説明を受けて、興味深そうに慣れない料理をやっていた。
そして、メアさんはと言うと、
「はあぁぁー!はぁっ!せいっ!おりゃー!」
庭の方で、レンダさんと模擬戦をしていた。
模擬戦と言いつつも真剣を使っており、2人ともそれなりに本気で戦っている。
「くっ!」
レンダさんのパンチを剣で受けて、怯むメアさん。
「腕が凄い痺れますね」
「流石は獣人とだけあって身体能力が高いな!まだまだいけるな?」
「はい!」
その後も激しい戦闘を繰り広げていた。
夜になり、お風呂に入ってからご飯を食べる。
「とても気持ち良かったです。何だか、肌もスベスベになった様な気がします」
シルアさんにも、我が家の天然温泉も気に入って貰えたようで、夜ご飯も堪能してもらい1日目が終了する。
2日目は、シルアさんにベルの面倒を見て貰う。
「なんだかメアが小さかった頃を思い出しますね。やんちゃで動き回るので大変でしたよ。今も変わりませんけど」
「そんな昔の事を、それに今は多少落ち着いてるじゃないですか」
「ベルちゃんは良い子ですね。このまま元気とお淑やかさの両方を身に付けて貰いたいです」
シルアさんがベルの事を褒めている横でメアさんが、
「私もお淑やかさくらいなら本気を出せば・・・」
小声で言い、エレオノーラさんが笑っていた。
3日目。
「言葉は喋れないものの、どちらも意思疎通は出来ている様子・・・とても興味深いです!」
シルアさんが庭で、クロとドラちゃんを観察しながら手帳に色々と書き込んでいた。
「魔物であるクロさんはまだ少し理解出来ますが、自我を持つ植物は聞いた事がありません」
シルアさんの前で、ピンと立っているクロとドラちゃん。
「他にも貴方と同じ様な存在がいるのでしょうか?」
シルアさんの問いに、ドラちゃんはさぁ?と言った感じで頭を少し傾げる。
「お姉様!今夜は大量ですよ!」
とそこに大きなイノシシを担いだメアさんが、狩りの手伝いから帰って来た。
「はぁ・・・メア。公の場ではありませんが、もう少し王女としての自覚を持ちなさい」
帰って来たメアさんの姿を見てシルアさんがそう言った。
それもその筈で、メアさんの服は土で汚れていたり返り血が付いていたりしたのだ。
「早くお風呂に入って来なさい」
「はーい」
「本当にお転婆娘だこと」
シルアさんは、微笑みながらそう言った。
そして、その日の晩。
メアさんの狩って来たイノシシを食べていると、玄関をノックする音が聞こえた。
「こんな時間に珍しいね?ちょっと見てくるよ」
俺は玄関に向かい、
「どなたでしょうか?」
「夜分遅くに申し訳ない。ここに、シルア・ストラウドとメア・ストラウドはいるだろうか?」
訪問者はそう言い、俺は驚いた。
ここに2人が居る事を知っているのは多くない筈だ。
「えっと、名乗って貰っても良いでしょうか?」
「そうだな申し訳ない。余はラウター・ストラウド。2人の父親だ」
訪問者の言葉を聞き慌てて玄関を開くと、そこには以前王城で会ったライオンの耳と尻尾を生やした茶髪の男性と、ヒョウの耳を生やした銀髪の男性の2人が立っていたのだった。
 




