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「見つけました!」
音信不通の精霊を探しに、聖剣の封印されていた洞窟までやって来ると隠された階段を見つけ、その先にあった家から目的の精霊が出て来たのだ。
「人間と精霊?」
「貴方が土の精霊ダールでよろしいですか?」
「何故、僕の名前を?そして君は誰なんだい?」
「私の名はヒルズです。精霊王より貴方の捜索を依頼されました」
「捜索・・・そう言えば最近は精霊の国に戻っていなかったね。でも、それにしても予想よりも早いね。僕がここに召喚されてから10年しか経っていないのに」
「えっ?10年?」
精霊ダールの言葉に驚く。
「精霊には基本的に寿命なども無いので、時間感覚も人間とは違っているのです」
「10年間音信不通だったのに、それでも早いんだね」
「コタケ様がこの森に住んだ事で精霊王の気に留まり、この森で精霊が召喚された事を思い出して念の為依頼を出したのだと思います」
「驚いた。この森に住んでいる人間が他にも居るとは」
ダールは気になる事を言った。
「貴方はその人間に召喚されたのですか?」
「そうだよ。僕の召喚主を紹介してあげるよ」
そう言うダールに連れられて家の中に入ると、中はイルシーナさんの家の様に薬瓶や大釜と独特な薬っぽい匂いが充満し、傍らに置かれていたベッドの上で1人の痩せ細った白髪の老人が仰向けで横たわっていた。
「ダール、何かあったのか?」
「あぁ、珍しい事にこんな所に客人がやって来たよ」
老人の言葉に精霊はそう返す。
「なんと!」
老人は驚いて、顔を横に向けて俺達の方を見てくる。
「おぉ!本当に人間ではないか!しかも精霊まで連れているとは驚きだ」
「彼の名はメール・セントルム。僕を召喚した150歳の魔法使いさ」
精霊はサラッととんでもない事を言って老人の事を紹介する。
「150歳?」
「私は魔法が少し出来てね。老化を遅らせる薬を作ったのだが、それの効き目も無くなってきて、2年前には手足も動かなくなり寝たきりになってしまったんだよ」
「そう。だから、今の僕は彼の介護をしているんだ」
それでも、そんな薬を作れるという事はかなりの実力者だったのだろう。
「ところでダール、彼らは何をしに来たんだ?」
「彼らは精霊王の依頼で僕の事を探しに来たんだって」
「そうなのか。なら、ダールは帰るのか?」
「いや、僕の存在を確認出来れば十分だと思うよ。それに、まだ君の願いを叶えていないからね」
「私が精霊王にダールの生存を報告するので問題ありません」
「そうか、それは良かったよ」
ヒルズの言葉に老人は安堵する。
「あの、ところで貴方はどうしてこんな所に暮らしているのですか?」
俺は老人に聞いてみる。
「私の願いを叶える為だよ。その為にも10年前にダールを召喚したんだ」
「その願いと言うのは?」
「バカらしい話だと思うだろうが、私は本物の大賢者に会いたいのだ」
「「大賢者?」」
「勇者と共に魔王を討伐した人物で、まだ生きているのだ。伝説だと思うだろうが、私はそうは思っていなくてね」
老人の言葉にヒルズと顔を合わせる。
「あの、知り合いに大賢者の名を持つ人がいるんですけど・・・」
「なんだと!?」
老人は大きな声をあげる。
「いや、しかし別の者の可能性も。だが、この世で大賢者と呼ばれる者は1人だけ・・・う〜む」
と悩んでいた。
「彼らは精霊王からの信頼もあるだろうから、嘘は吐いて無いと思うよ」
「会ってみますか?」
俺がそう聞いてみると、
「しかし、私はここから動けないからね・・・嬉しい申し出だが諦めるよ」
「うーん、それなら今から連れて来ましょうか?」
「い、今から?」
「えぇ、本人の都合がつけばすぐに来て貰えると思いますよ」
「それなら、お願いしても良いのかな?」
「分かりました。少し待ってて下さい」
俺は転移で、ラーブルクへと向かった。
「大賢者さん!」
「おや、コタケ殿。どうかなさいましたか?」
「えっと、実は大賢者さんに会いたいと言う魔法使いの方が居まして」
「私にですか?私に1度会った事のある方でしょうか?」
「いえ、会った事は無いそうなんです。名前はメール・セントルムと言う方で」
「セントルム?」
と名前を聞いて反応を示す。
「確かにそう名乗ったのですか?」
「そうですよ。知り合いでしたか?」
「・・・今すぐ、その方の元に向かいましょう」
大賢者さんは少し考えた顔をしてそう言ったので、老人の元へと戻る。
「ここは、あの聖剣を封印していた所ですか」
到着するなり、大賢者さんはすぐに場所を特定する。
「こ、こりゃ驚いた。転移を使える人間が居たとは」
初めて転移を見たのかメールさんは驚いていた。
「貴方が、メール・セントルムですか?」
「そ、そうですが、貴方がかの大賢者様ですか?」
大賢者さんは、20代くらいの若々しい見た目なので少し疑念を感じている様だ。
「貴方に1つお聞きしたい。ヴァール・セントルムをご存知ですか?」
大賢者さんの質問に、急にメールさんは涙を流し始めた。
「その名をご存知という事は、本当に大賢者ウルファ・アークホルム様なのですね!」
「私の名を知っているという事は、やはり彼の・・・」
「えぇ!私は貴方様と共に魔王を倒した、勇者ヴァール・セントルムの子孫でございます」
と意外な事実が発覚したのだった。
「コタケ殿から名前を聞いた時は驚きました。彼の死後、子孫に会う事は無かったので。しかし、何故彼の子孫の貴方がこんな場所に?」
「我が家には代々、勇者の冒険譚が継がれているのですが、他の家の者は勇者に憧れる中、私だけは貴方様の魔法を使った戦闘に憧れたのです。そして、冒険譚の他にも勇者が使っていた聖剣の封印場所も代々伝わっており、ここに来ればいつか貴方様に会えると思い暮らしていたのです」
「そうでしたか。彼の子孫に憧れられるのも嬉しいですね」
「しかし、恥ずかしながらあの聖剣を抜く事は叶いませんでした」
「あの聖剣は勇者の血に限らず、聖剣が認めた者にしか抜けませんからね。ちなみに、それを抜いた方がこちらです」
大賢者さんはそう言いながら、俺を紹介する。
「まさか、あの聖剣が抜かれていたのですか!」
「その、なんかすみません」
流石に勇者の子孫の前となると申し訳ない気持ちが出てくる。
「いえ、それは貴方が聖剣に選ばれたという事ですから、気にしないでください。ところで、聖剣を見せて貰う事って出来たりしますか?封印されていた時は、錆の様な物で覆われていましたので」
そうだったなと思い、聖剣を取り出す。
「おぉ!それが、聖剣アルタドゥインですか!」
しっかりと聖剣の名前も知っている様だ。
「本物を見れた嬉しさ反面、正直に言うと自分で抜けなかった悔しさもありますね」
「そう言えば君、大賢者に会ったらやりたい事があるって言ってなかったっけ?」
とダールがそう言う。
「あぁ、あの願いはもう難しいから大丈夫だよ」
「差し支えなければ教えて頂いても?」
諦めた表情をしながら言い、気になった大賢者さんが聞くと、その内容は大賢者さんと魔法で戦う事だった。
「四肢は動きませんし、魔法も殆ど使えませんから」
「なるほど・・・でしたら、私の魔法を見ますか?」
「しかし、私はベッドの上から1歩も動けませんし」
「それなら大丈夫ですよ」
と大賢者さんが言うと魔法陣が現れ次の瞬間、メールさんの体がフワリと浮いたのだった。
「これなら移動も問題無いでしょう」
「す、凄い!こんな方法があったんですね!」
「風魔法の応用ですよ」
「私の適正は土魔法なので残念です」
「それでは、派手に魔法を放てる所に向かいましょうか」
そう言って、大賢者さんが普段から実験をしている無人島へと転移して、迫力満点な大爆発する魔法など放ち、メールさんはとても満足した顔をしていた。
〜〜〜〜〜〜
それから1週間後。
無人島から帰った後、メールさんに大賢者さんを連れて来てくれた事に深く感謝をされた。
そして、ダールが居たからこそ俺達がやって来た事にも感謝していた。
そして、今日。
「精霊王より、ダールが戻って来たとの言伝がありました」
とヒルズから聞かされた。
「それって・・・」
「メール様は昨日、亡くなられたそうです」
「そっか」
元々限界が近かったのだろうか、それに加えて・・・
「とても幸せそうな顔で眠りについたと、ダールが言っていたと」
憧れの人物に会う事が出来て、思い残す事も無くなったのだろう。
遺体はあの場所の土に埋めて欲しいと、本人がダールにお願いしていたそうでその通りにし、あの隠された場所も完全に埋められたそうだ。
「それなら良かったよ。この事、大賢者さんにも伝えに行って来るよ」
俺は大賢者さんの元へと向かい、メールさんの訃報を伝えた。
その後、折角ならと聖剣の封印されていた場所に彼の墓石を建てたのだった。




