実験
「誰か、被験体になってくれる人ー?」
我が家で、そんな物騒な言葉が響く。
言い出したのはイルシーナさんだった。
「あれ?なんで誰も手上げてくれないの?ほらほら、お礼におやつも付いてくるよ?」
おやつで釣ろうとするが、当然ながら誰も反応しない。
「どうせ危ない実験なんじゃろ?」
「そんな危なくないよ。ちょっと封印されるだけだから一瞬だよ一瞬」
「「危ないのじゃ・です」」
ティーとメアリーさんが反応する。
「ちぇー。じゃあ魔物でも捕まえて来よっかな」
そう言い家を出て行き、しばらくすると庭の方から
「ガルゥ、ガウガウ!」
と鳴き声が聞こえて来たので外に出てみると、1匹のオオカミ型の魔物が首から鎖を掛けられて、イルシーナさんに無理やり引っ張られていた。
「ふぅ、快く応じてくれた子が居て良かったよ」
「凄い嫌がってる気がするんですけど・・・」
当然魔物は敵意剥き出しだ。
「まぁ、でもあっちからちょっかい掛けてきたし良いよね」
「魔女の人達って魔物に容赦ないですよね」
以前訪れた村でもアルフィーユさんが、ドラゴンに対してブチギレていたのを思い出した。
「まぁ、ぶっちゃけ良い実験材料になるからね〜。それはさておいて早速実験といこー」
そう言って、5cm程の黒い玉を取り出す。
「それは何ですか?」
「私は封印石って名前を付けたんだけど、これを使って対象をこの中に閉じ込めるの」
「封印の期間とかは決まってるんですか?」
「封印する前に魔法で調整するんだ。実際にやってみるね」
すると、玉の周りに小さな魔法陣が浮き、それで調整をしているようだ。
「よし!こんなものかな?」
「これでどれくらいの封印になったんですか?」
「分かりやすい様に1分くらいにしておいたよ」
早速、封印を見せて貰う。
「それじゃあ行くよー・・・ふうーーーいーーーーん!」
と声を上げながら玉を魔物に向けると、白い光と共に魔物がスーッ吸い込まれて目の前から消えた。
「これで1分経ったら出てくるんですか?」
「そうだよ」
魔物の入った玉を離れた場所に置いて暫く待っていると、玉が白く光出してポンッと吸い込まれた魔物がその場に現れたのだった。
「おー、凄いですね」
「でもね1個問題点があって、封印石が出て来た対象の下にあるからどかさないと取れないんだよね」
再び使用するには自力で回収しなければならない様だ。
「とりあえず今回は私が魔物を引っ張っておくから、取ってきて貰っていい?」
そう言われて、イルシーナさんが魔物の鎖を引っ張ってどかして、俺が封印石を回収した。
「もう一回実験と行こうか。次は・・・5分くらいかな」
再度魔法陣で設定し直す。
「よーし!それじゃあ、ふういーーーーん!」
先程と同じ様に魔物が吸われていく。
「私の時も、その様な掛け声で封印したのですか?」
いつの間にか後ろに来ていたメアリーさんがそう聞いて、
「そうだよー」
とイルシーナさんは答える。
「そうですか・・・ちなみに掛け声を変えたりとかは?」
「しないよー?」
そう言われて微妙な顔をするメアリーさん。
恐らく、掛け声が少々ダサいと思ったのだろう。
「もう少し格好いい方が」
小声でそう言っているのが聞こえて来る。
そんな話をしつつ待っていると、5分が経過した。
しかし、先程とは違って封印石から魔物が出て来る気配は無い。
「あれー?また失敗かなぁ?」
「「失敗?」」
「設定した時間がズレちゃった、出てこない事が良くあるんだよね」
「良くあるんだ・・・」
「原因は分かっているのですか?」
「分かんないだよね。私のミスも疑った事あるけど、それも違うっぽいし」
「しばらく待ってたら出て来たりするんですか?」
「すぐ出ることもあるし、何年も出ない事があるんだよね」
「そんな危険な実験に付き合わせようとしていたのですか」
メアリーさんがドン引きする。
「一応、応急処置が無い事もないんだよ!あの封印石を壊したら出て来る事があって・・・でも、あれを作るのも大変だから壊したくは無いし」
と言っていると、メアリーさんが血の槍を出して封印石を目掛けて撃ち放った。
封印石がパリンと割れると同時に、吸われた魔物が姿を現す。
「あぁ!」
「なるほど、どうやら本当のようですね」
出て来た魔物は敵意剥き出しでこちらに向かって来たが、メアリーさんに倒されてしまった。
「これなら多少は手伝っても良いかもしれませんね」
「本当に!」
メアリーさんの言葉に、落ち込んでいたイルシーナさんは喜ぶ。
「あっ、でもたまーに壊しても出てこないって言うか何と言うか・・・」
「待ってください。あれを壊したら絶対に封印が解かれる訳では無いのですか?」
「何でか出てこない時もあるんだよね。それもちょっと研究中で」
「前言撤回です。やはり手伝いません」
「えぇー、そんなー!」
「手伝って欲しいなら安全を確保してからにして下さい!」
「ねぇ、良いじゃん!封印された経験者でしょー。手伝ってよー」
「封印なんて一回だけで懲り懲りです!」
「ねえぇーー、手伝ってよー」
こうして実験は終わり、家の中に戻ろうとするメアリーさんの腰に、イルシーナさんがしがみつきながら引っ張られて行くのだった。




