移住
「あの時のヴァンパイアの子じゃない!」
学園長パラス・レイ・ゾーラの言われた魔女に会いに来たら、メアリーさんを見て急にそんな事を言ってきた。
「えっと、あの・・・」
メアリーさんも誰か分からないのか困惑している。
「メアリーちゃんの知り合い?」
「貴方、メアリーって名前だったのね!」
魔女の方もメアリーさんの名前を知らなかった様だ。
「ごめんなさい。全く思い出せないのですが、何処かでお会いしましたか?」
「やっぱり分かんないかー。まぁ、あの日は夜だったし、それに・・・2000年も前の話だもんね」
魔女は不老不死なので、それだけ昔に生きていても不思議では無いが、2000年前に会ったとなるとメアリーさんがヴァンパイアの国に居た時になる。
「あっ・・・!」
メアリーさんは何かを思い出した様だ。
「もしかしてあの時、私を封印した・・・」
「おっ?思い出した?そうそう、あの時のお姉さんでーす!」
「お姉さん?」
「はい、そこ疑問に思わなーい」
オルフェさんの言葉に魔女は反応する。
「確かにあの時、助けてくれたのは女性でしたが、魔女ではなく賢者と名乗っていた様な・・・」
「あの時は暮らしていた国でそう呼ばれてたからね。今は、ここで隠居生活をしてるから魔女って名乗ってるんだ」
「メアリーさん、本当にその時の知り合いであってる?」
念の為そう聞いてみる。
「会ったのは夜で真っ暗だったので、顔などはよく見えていないんです。なので、確実にそうかと言われると・・・」
「何か証明する物が無いとねー?」
と言うオルフェさんが続けて言う。
「うーん、そうだよね〜。それなら・・・あの時、泣いてた貴方のモノマネでも・・・」
「しなくていいですっ!」
メアリーさんが凄い勢いで止めに掛かる。
「メアリーちゃん、泣いてたの〜?」
「仕方ないじゃないですか、あの時は周りに頼る事も出来なかったんですから」
「ごめんごめん、からかい過ぎたね」
オルフェさんは素直に謝る。
「さてと、立ち話も何だし、中に入ってよ」
招かれて家の中に入ると、そこには赤色や緑色など液体が入った瓶や大釜があり、いかにも魔女の家といった雰囲気だった。
「どうぞ、どうぞ適当に座って」
言いながら、椅子の上に山の様に積み重なった本をドサドサと床に放り投げる。
どうやら片付けは得意でないらしい。
「さてさて、今日来た理由を・・・って、そう言えばまだ名乗って無かったね!私は、イルシーナって言うの」
「俺はコタケです」
「私はオルフェだよ〜」
「一応もう一度、メアリーと言います」
「うんうん、よろしく。ところで、3人はこんな所に何しに来たの?」
「パラス・レイ・ゾーラさんって知ってますか?」
「おー、ゾーラちゃんね知ってるよ。私が昔に魔女の集まる村に居た時に仲も良かったから」
「イルシーナさんもあそこに居たんですか?」
「君達も魔女の村を知ってるの?」
「ゾーラさんの依頼でそこにお使いに行った事があって」
「へぇ〜、あの子がそんな事をね〜」
「イルシーナさんが居たのってどれくらいの前なんですか?」
「1000年位かな?ゾーラちゃんともそれ以来は会ってないかな」
「そのゾーラさんに、ここの森に住む魔女に会いに行った方が良いと言われたんです」
「そうなんだ。何でだろうね?」
「私が関係すると言っていたそうなので、貴方と私を会わせる為に言ったのではないでしょうか?」
「うーん、ゾーラちゃんにあの時の事話した事あったかなぁ?昔過ぎて覚えてないや!」
「あははー、イルシーナちゃんいいかげーん」
とオルフェさんは言いイルシーナさんと一緒に笑っている。
2人ともどこか波長が似ている気がする。
「でも、貴方が幸せそうで良かったよ」
「それはどう言った目線で言ってるのですか・・・」
「封印した者の目線?」
「何ですかその目線は・・・ですが、確かに貴方には感謝しないといけませんね。封印のお陰でこの時代で、この方達に会えたのですから」
「うんうん、感動的。ちなみに貴方達って3人で暮らしてるの?」
「いえ、他にも沢山居ますよ」
「へぇー、そっかー・・・」
イルシーナさんは考える素振りを見せて、
「じゃあ、今から貴方達の家について行っても良いかしら?」
「まぁ、構いませんけど・・・」
「よーし、決まり!貴方達の家ってここからどれくらい?」
〜〜〜〜〜〜
「おー!すごーい!本当に一瞬で着くんだね」
我が家を目の前にしたイルシーナさんはそう言う。
普通に移動すると時間が掛かるので、転移の事を話して帰ってきた。
「他の人に紹介するので、中にどうぞ」
「はーい、お邪魔しまーす!」
リビングに向かうと、アリーとベルが居た。
「お帰りなさいませ・・・っと、おや?そちらの方は?」
「わー!魔女さんだー!」
イルシーナさんを不思議に見つめるアリーと、見た目から判断したのかベルがそう言った。
「こんにちはー。メアリーちゃんの恩人のイルシーナでーす!」
「お、恩人ですか?」
「確かにそうではありますが、自分で言うのは・・・」
更に困惑するアリーと、呆れるメアリーさん。
ひとまず、他の人達も呼んで紹介と事情を説明する。
「それは確かに恩人さんですね」
「それで、イルシーナ殿はこちらにはどういった用件で?」
「メアリーちゃんがお世話になっている皆さんに挨拶をって思ってね」
「お母さんみたいですね」
イルシーナさんの発言にルインがそう返す。
「ある意味でお母さんですから!」
「勝手に母を名乗らないでください」
「なかなか愉快なお方ですね」
リッヒさんが言い、確かにと皆んな笑う。
「あともう一個用件があってね・・・」
それは聞いていないなと思っていると、
「私もここに住みたいんだよね」
とそんな事を言い出したのだ。
「「はい?」」
「あの森にはかれこれ、数百年は住んでるだけどそろそろ飽きて来たし移り住もうかなぁって思ってたんだよね。あっ!勿論、寝床は自分で確保するよ」
「貴方、もしかして初めからそのつもりだったのですか?」
「せいかーい!」
メアリーさんが言う様に、実は帰る前にイルシーナさんが森にあった自信の家を亜空間に片付けていたのだ。
何でもイルシーナさんが得意とする珍しい魔法で、マジックバックの様に色んな物を収納出来る空間を作れるそうだ。
容量は決まっているそうだが、2階建ての家と他にも色々な物が入っていても、それでも全体の容量の半分程度らしい。
メアリーさんを封印していた石も、その魔法の応用で作ったそうだ。
「勿論、駄目なら良いんだよ」
「特に問題は無いですが・・・」
「本当!?やった、じゃあこれからよろしく!」
すぐに反応を返してくる。
「あっ!庭の何処か借りても良かったりする?」
「会いてる所なら何処でも」
「早速、家置いてくるー!」
と言いながら外に出て行き、何を言ってるんだと思った人達が後に続いて見に行く。
「私のせいですかね?」
「メアリーさんは何も悪くないよ」
申し訳なさそうに言うメアリーさんに笑って返す。
こうして、イルシーナさんが加わった事で、一層騒がしくなるのだった。
ちなみに我が家の庭には、イルシーナさんの暮らしていた家が新たなに追加された。
 




