リッヒ:過去
「リッヒ、これで最後の暗殺だ」
「はい、師匠」
「これがターゲットの家の間取りと護衛の人数だ」
「ありがとうございます」
家族と仲間を殺され、復讐をしてきた私だが今日遂に最後の1人である奴隷商ゲーベルの元へと向かう。
「最後まで気を抜かずな」
「分かりました」
〜〜〜〜〜〜
午前0時。
深夜で皆が寝静まった頃、私はターゲットの屋敷へと現れる。
3階建ての立派な屋敷だ。
禁止されている奴隷売買で建てられた家だと考えると虫唾が走る。
「さっさと終わらせよう」
師匠が何処から手に入れて来たかは分からないが、屋敷の間取りと護衛の配置は完璧に覚えて来た。
護衛は外に10人、中に10人だ。
まずは、4つの見張り台の上にいる4人の護衛を始末する為に弓矢を取り出す。
「ふー・・・ふっ」
よく狙い、風魔法で速度を上げた矢を放つ。
速度が上がった事で威力も上がる。
矢は見事、護衛の頭に突き刺さり声も出せずに絶命する。
そのまま残りの3つの見張り台も制圧し、庭を徘徊する護衛の始末に移る。
外の残りの護衛は6人で、2人1組となって動いている。
「ちと、ションベン行ってくるわ」
と1人の護衛が離れる。
「ふんふ〜ん♪」
陽気な鼻歌を交えながら離れた護衛の背後に忍び寄り、ダガーで喉元を掻っ切る。
ドサッ
声を上げる事なくその場に崩れ落ちる。
「ちっ、おせーな。おっきい方でもしてんのか?」
残された1人は待たされて気が立っている。
そんな人間の背後を取るのは簡単だ。
それに私はダークエルフで、褐色の肌は夜闇に紛れやすい。
「まったく・・・んっ!」
隙を突いて護衛の息の根を止める。
そして残りの4人の護衛も仕留めて行く。
屋敷の庭を片付け終わり、中へと入る為に窓をピッキングして開ける。
入った先は食糧庫で誰もいない。
部屋のドアを少し開けると、その先は広い玄関になっており護衛が4人集まっている。
「ここは、この4人で全員でしたね・・・」
そう考えた私は、ドアを勢いよく開き1番近い護衛の胸にダガーを突き立てる。
「っ!しんにゅ・・・」
続いて声を上げ仲間を呼ぼうとした護衛を狙う。
あとの2人は逃げようとする者と武器を抜こうとする者、先に狙ったのは武器を抜こうとした方だ。
武器に掛けた手を斬り落とし、ダガーを喉に突き刺す。
そして、上階に続く階段を駆け上がる残りの1人に向けてダガーを投げる。
「うっ!」
背中から突き刺さったダガーに、護衛は倒れて階段を転げ落ちて行く。
そして、2階にいる2人を仕留めて残るは3階の護衛3人とターゲットのみとなった。
残る3人はターゲットの眠る寝室の前の廊下に固まっている。
ここまで来れば逃げる事は出来ないので、強引に突破するのみだ。
〜〜〜〜〜〜
「し、侵入者だー!うわぁー!」
「そいつを止めろー!」
「っ・・・、全く何だ?ワシは眠っとると言うのに!」
カチカチカチ
「やっと静まりおったか。全く何時だと思っておるんだか・・・」
カタッ
「っ!誰だ!誰かいるのか?」
コツコツ
「誰だ姿を現せ!・・・女?」
「奴隷商ゲーベル」
「何故ワシの名を!誰だ貴様は」
「お前を殺す者だ」
「殺すだと?はっ、何を馬鹿な。おい!護衛共、侵入者だぞ!・・・何故、誰も来ない?」
「護衛は全員始末した。残るはお前だけだ」
「ひっ!ま、待て金を渡す!この家にある者なら何でも渡すから命だけは助けてくれっ!」
「そうやって助けを求めた仲間達をお前達はどうした?」
「な、何を言って・・・」
「お前達は私の家族を、ダークエルフを殺したんだっ!」
「だ、ダークエルフ・・・?」
スパッ
「ひっ、ぎゃあぁぁ!ワシの手がー!」
「家族と仲間の怨みだ!楽に死ねると思うなよ」
「ひぃ〜!金はやるから命だけは・・・ぎゃ、ぎゃあぁぁー!」
そうしてその晩、屋敷全体に悲鳴が響き渡るのだった。
〜〜〜〜〜〜
「終わった・・・」
里を襲撃した者、全てに復讐を果たし終えた今、喪失感に襲われる。
「これからどうしようか・・・」
師匠の元に帰って、暗殺家業を続けるのも悪く無いだろう。
だが・・・
「疲れちゃった・・・」
あの襲撃以来、平和な日常は終わりを告げ、殺伐とした忙しない日々を送っていた。
「とりあえず、何処か遠くに行こう」
師匠の元には帰らず、フラフラと道を彷徨う。
そうして数日が過ぎたある日、
「森?」
私は1つの森を見つける。
エルフにとって森は家も同然だ。
この森が、どう言った場所かは分からないが果てるなら森が良いと思ってしまい中へと入って行く。
「ハァ、ハァ」
もう何日もご飯を食べずに歩き続けており、体力も限界に達している。
「ここまでかな・・・皆んな、今そっちに行くから」
私は1本の大きな木の前で倒れ込む。
すると、その木が発光した様に感じる。
(もう、駄目かな?)
幻覚が見えたと思った私の瞼はだんだんと閉じていき、最後にその木から人影の様なものが見えた所で意識が途絶えるのだった。
〜〜〜〜〜〜
「えっと、まぁ、こんな感じです・・・」
パチパチ
「つまらない話ですよね」
「そんな事無いですよ。皆んな、詳しく知りたがってたので」
「でも、ベルちゃんは寝てしまいましたね」
「ベルにはちょっと刺激が強かったから、オーケー」
とオルフェさんがそう言う。
「私もリッヒちゃんが、どんな感じでここに来たか知りたかったんだよね〜」
「って、何で師匠がいるんですか?」
「ティーフェンさんに呼ばれてね〜」
それなら仕方は無いが・・・
「もぉね、リッヒちゃんったら私に別れの挨拶も無しに勝手にどっか行っちゃうし、薄情だと思わな〜い?」
「私もベルにそんな事されたら泣いちゃう〜」
「「ねー?」」
オルフェさんと師匠が結託してそんな事を言ってくる。
「あの時の私は、そんな正常な判断が出来なかったんですよ」
「でも〜、私はとーっても悲しかったんだよー」
「それについては、もう謝ったじゃないですか」
「まだ許してませーん。だから、今日は私と一緒に寝てもらいまーす!」
「師匠、ただそれが言いたかっただけなのでは?」
「何のことでしょー?」
師匠は1度言い出したら中々諦めないので、結局その日は同じベッドで眠る事になるのだが、師匠の寝相が悪すぎて途中ベッドから落ちて、朝までそのまま状態で放置するのでした。




