画家
「ふぅ〜、たくさん買いましたね」
「アリーは体の方、大丈夫?」
「大丈夫です!少しは動かないと逆に体に悪いですからね」
「なら良かった」
ガヤガヤ ガヤガヤ
「今日は街中も何だか騒がしいね」
「休日で出店もありますからね。広場も人で溢れているのではないでしょうか」
「これ以上混む前に帰ろっか」
と広場から出ようとすると、ふと1人の男性が目に付いた。
その男性は30代くらいだろうか、キャンバスの前にポツンと座り身動き1つしていない。
広場は沢山の人が居るというのに、男性の周りには誰も居ない。
「あの方は、何でしょうね?」
「キャンバスがあるって言う事は絵描きなのかな?」
「少々近寄り難い雰囲気ですね」
と言うのも、短めの金色の髪にベレー帽の様な物を被っており、ここまではオシャレな雰囲気を醸し出しているのだが、赤、青、黄、緑など様々な色の模様が入ったカラフルな独特なシャツとズボンを着ており、黒っぽいレンズの眼鏡を掛けていて異常に目立つのだ。
これが周りに人がいない理由の1つだろう。
「折角なので、私達の絵でも描いてもらいますか?」
「まぁ、アリーが良いなら」
興味をそそられたのかアリーが行こうと言うので、その男性の元に向かう。
「あの、すみません」
「・・・」
声を掛けてみたが返事が無い。
「すみません!」
「ワオッ!」
少し大きめの声で話しかけると、ビクッと体を震わせて反応した。
「オー!お客さんですね!あんまり日当たりが良くて寝てしまってました〜」
笑いながらその人は言う。
「こちらでは絵を描いて貰えるのですか?」
「えぇー、そうですよ!お2人は〜、見た感じ夫婦ですね!うんうん、仲睦まじそうで良いですね。はいはい、では奥さんはこっちに座って、旦那さんは横に立って、はいオッケー!」
言われるがままにポーズを取らされて、絵描きが始まる。
「えっと、貴方は今日はずっとここに居たんですか?」
と俺は質問してみる。
「そうなんですよー。でも、何故か人が全く来なくて、貴方達が最初のお客さんでーす!」
「いつもはここで絵を描いているんですか?」
「今日はたまたまでーす!」
「普段から絵を?」
「そうです!気分転換にここに来たんです!」
絵を描くのが好きなのだと良く伝わってくる。
「そうです!良かったら、お2人の出会いを聞かせてくださーい!」
背景を知った方が描くのが捗ると言われたので要約して話す。
「なんとっ!その様なストーリーがっ!う〜ん、素晴らしい!ますます筆が進みます!」
その言葉の通り素早く筆を動かし、絵を描き始めてから10分が経過したところで、
「出来ましたっ!」
とキャンバスをこちらに向けた。
そこには、椅子に座って微笑むアリーと横に立つ俺の肖像画がリアルに描かれていた。
「とても、お上手です!」
「ありがとうございますっ!」
「こんなに良い絵を描いてもらえて嬉しいです。お代はいくらになりますか」
「いえいえ、お代は結構ですよ!」
「しかしそれでは・・・」
「ただの息抜きだったので構いませんっ!しいて言うなら、お2人の子供が産まれたらまた描かせて欲しいですね!」
「それでは、こちらが貰ってばかりなるのですが」
「気にしないで下さい!お2人の事が気に入ったのです!」
何かが彼の琴線にふれたのか、そう言ってくれる。
「それではまた、お会いした時に!」
絵を貰い家に帰る。
「とても賑やかな方でしたね」
「服装通りの明るい人だった」
「改めて見ても、やはりお上手ですね」
「名の知れた人だったのかな?」
「私も絵には詳しく無くて」
「うーん、あれ?この左下の文字って名前かな?」
「ルッソ・ランドルフォさんでしょうか?存じ上げないですね」
「まっ、折角の貰い物だし、何処かに飾っておく?」
「リビングは・・・少々目立つので恥ずかしいですね」
「それじゃあ寝室にしよっか」
「それが良さそうです」
額縁を作り、絵を入れて飾るのだった。
〜〜〜〜〜〜
数日後のとある昼下がり。
「ワタルさん!これを見て下さい!」
アリーが新聞を渡してくる。
その新聞は今朝刷られた物で、買い物帰りのアンさん達が持って来たそうだが、
「謎の天才画家の絵が大金貨3枚で売れる?これは確かに凄いね!?」
この世界で大金貨3枚も得れば大金持ちだろう。
「ワタルさん、その下も読んで下さい」
と言われて目を通してみる。
「えーっと、謎の天才画家ルッソ・ランドルフォの作品は・・・」
と文が続いている。
「最近聞いた名前だね?」
「ワタルさん、先日描いて貰った絵ですよ!」
「あー!あれか!って、ちょっと待って?この記事と広場に居た人が同一人物なの?」
「同じ名前の方と言う事もあるかもしれませんが、独特な雰囲気をお持ちでしたし」
「確かに凄い画家って独特の感性を持ってるイメージだよね・・・」
「もしかすると、あの方が・・・」
「本人に聞いてはないし分からないけど、もしそうだったら凄い事だね」
「新聞にも書かれていましたが、どうやらこの画家の素性は全く分かっていないそうなんです」
「ますます謎に包まれてるね」
「やっぱり代金はしっかりお渡しした方が良かったのでは」
「そこは本人が良いって言ってたから大丈夫じゃない?」
「もし、次に会う事が出来たらまたお礼を伝えましょう!」
「うん、それが良いと思う」
そんなこんなで、真偽は不明だが思い掛け無い出会いをしたのだった。




