最強決定戦②
庭の整地が終わり休憩も十分にとった所で、3回戦目を開始する。
「それじゃあ、3回戦目始めまーす。エレオノーラ選手とリッヒ選手は前に出て来てください!」
「エレオノーラさんとは何度か戦ってますが、まだ1度も勝てていませんね」
「元Sランク冒険者として、そう簡単には負けられないからな」
「今回も全力で行きます!」
「望む所だ!」
「2人とも位置に付いて・・・始め」
開始と共に両者は駆け出しお互いの長剣とダガーがぶつかり合う。
キンキン キンキン
リッヒさんは足に風魔法を纏い素早く動き、エレオノーラさんは目で追い一手一手を対応している。
「前よりもスピードが上がったんじゃないか?」
「私も特訓をしていますので!」
「それは上々だ。だが・・・1人でやっていては限度もあるっ!」
エレオノーラさんは畳掛け始め、その猛攻にリッヒさんは防御に徹する。
すると、エレオノーラさんはいきなり足払いを仕掛けた。
リッヒさんの体は宙に浮き倒れそうになるが、咄嗟に片手を付いて体勢を直し、エレオノーラさんから距離を取る。
「ふむ、よく対応出来た」
「予想外でした・・・確かにこれは1人では特訓のしようがありませんね」
「これで1本取れるかと思ったんだがな」
「そう簡単にはいきませんよ。次は、私の特訓の成果を更にお見せいたします」
リッヒさんはそう言うと、フッと姿を消した。
「む?」
エレオノーラさんはキョロキョロと辺りを見回すが、リッヒさんの姿や足跡までもが見えない。
姿が見えない状態のまま1分間が経過した所で、エレオノーラさんが焦った様子で右を向き剣を構えた瞬間、リッヒさんが目の前に急に現れて攻撃をしてきたのだ。
キンキン
何とか2本のダガーを防いだエレオノーラさんを急いで後ろに引く。
「これは・・・ロス殿が使っていた気配を隠す技だな?」
「その通りです。この前、師匠に教えて貰い練習をしていたんです」
「だが、攻撃を仕掛ける一瞬に僅かな戦意を感じた」
「攻撃をするという意思が出てしまうので、まだ完璧ではないのです。師匠は、殺意を一瞬も見せずにこの技を使っていたので、その域に達するにはまだまだなんです」
「そうと分かればこっちのものと言いたい所だが、連続して来られると難しい所だな」
「ふふ、やっぱりそうですよね」
エレオノーラさんの言葉にリッヒさんは少し微笑むと、再び姿を消した。
「そう来るよな」
エレオノーラさんが観念した様に呟き剣を構えると、
「左っ!」
キンッ
「後ろ!」
キンッ
様々な方向から現れて攻撃をしてくるリッヒさんに、エレオノーラさんは感覚を研ぎ澄まして攻防を繰り広げて行くのだった。
「残り1分でーす」
2人の戦いは中々決着が付かず、遂には制限時間の30分が近づいて来た。
どちらが優勢かと言われれば、気配を消して攻撃を続けるリッヒさんに思える。
このまま制限時間に到達するのかと思っていると、エレオノーラさんは剣身を前方に向け、ピカッと太陽の光を反射させた。
「ッ!」
すると、エレオノーラさんの目の前にリッヒさんが姿を現し、すかさず詰め寄り剣の柄頭をみぞおちに1発入れて、リッヒさんが膝を付いた所で首筋に剣を当てた。
「しゅ〜りょ〜」
「勝者、エレオノーラ」
制限時間となり、ベルが合図しシエルさんがジャッジする。
「すまない、少しやり過ぎたか?」
「ごほっ、ごほっ、いえ大丈夫です」
エレオノーラさんは、しゃがんでいたリッヒさんに手を差し出す。
「あの、どうして最後は正面から来ると分かったのでしょうか?」
「あぁ、それはな・・・ただの感だ」
「えっ?」
「冒険者の感は意外と馬鹿に出来なかったりするんだ。まぁ、今回は当たったがハズレていれば私の負けだったな」
「感に負けたのですか・・・」
「そう落ち込むな。解決しなければならない所も見つかっただろう?」
「そうですね。次こそは負けません!」
「期待している」
リッヒさんは満足そうな顔をするのだった。
〜〜〜〜〜〜
「次は準決勝でーす。ティーフェン選手とクロ選手は出て来てください」
次はシードだったティーと1回戦目を勝ち抜いたクロだった。
「ほう、最初から仲間を連れておるんじゃな」
前に出て来たクロは他の4匹のスライムを既に連れていた。
「どうやらオルフェよりも警戒されておる様じゃな。正しい判断じゃ」
「な〜にを〜クロくーん、遠慮はいらないよ。コテンパンにやっちゃえ!」
オルフェさんは、1回戦目の仕返しと言わんばかりにティーを煽り返す。
「それじゃあ、準備は良い?」
ティーが頷き、クロがピョンと跳ねる。
「よーい・・・スタート」
開始と同時な動いたのはクロだ。
早速、重力魔法でティーを押さえつける。
「ぬおっ!これは確かにきついのじゃ。オルフェが動けんかった理由がよく分かる」
ティーはそう言いつつも、オルフェさんとは違い立つ事は出来ている。
そこに、クロは他のスライムに指示し攻撃をする。
攻撃が当たったティーは、少し汚れが付いただけでピンピンしている。
「この状態じゃ、ちょっと面倒じゃの」
すると、ティーの体が光だし人間の姿からドラゴンの姿へと変化した。
「さてさて、この状態でも押さえれるかの?」
クロは必死に魔法を掛けているが、ティーは右の前足をブンブンと振り回しており、効果が無いように見える。
このままでは、どうしようもないと考えたクロがプルプルと震えると・・・
周りの森から大量のスライム達が現れた。
その数は100匹を超えている。
「おぉ?凄い光景なのじゃ」
そして、そのスライム達はクロの指示で一斉に魔法を放つ。
全弾がティーにヒットして、灰色の煙が立ち込める。
「ぐぅ、流石に痛かったのじゃ」
煙が消えてティーの姿が露わになり、傷は付いて無さそうだがダメージはあったらしい。
「これを連発されれば、流石に堪えるの」
そう言ったティーは、右の前足を振り上げてクロ達目掛けて勢い良く薙ぎ払った。
直接当てる事はしなかったが、巻き起こって風にクロ達は巻き込まれ、後ろに大きく吹き飛ばされて森の中に消えて行った。
5分後、クロはスライム達を引き連れて帰って来たと同時に白旗を上げた。
「勝者、ティーフェン」
「懸命な判断じゃ」
吹き飛ばされたスライム達に被害は無く誰も欠けてはいないらしい。
「最後に吹き飛ばされる前に、自分に重力魔法を掛けて飛ばされない様にするのも手じゃな」
クロは早速、ティーにアドバイスを求めに行き、次の訓練に活かそうとしている。
「じゃが、オルフェよりも強いのじゃ。誇って良いぞ」
褒められて嬉しそうにしている所、
「私だって余裕だしー」
負けた筈のオルフェさんがそんな事を言う。
「お主のう・・・はぁ、やってやるのじゃ」
ティーの言葉にクロが反応して、スライム達が一斉に襲いかかる。
「あっ、えっ?ちょっ!ストップ、降参、降参!」
スライムの山に埋もれたオルフェさんは、すぐに音を上げる。
「ママだけ、ずるーい」
スライムに埋もれるオルフェさんを見たベルは、楽しそうと思ったのかそう言い、スライムの山にダイブするのだった。
「ぷにぷに〜」
と楽しそうにするベルが満足するまで、一時休憩となるのだった。




