最強決定戦①
「最強は誰だ?第1回武闘大会〜!わー!」
パチパチパチ
ベルの声と共に小さな拍手が、我が家の庭に鳴り響く。
「実況と解説のベルでーす」
「審判のシエル」
外にイスとテーブルを用意してそこに座り、目の前に立つ6人と1匹を見る。
事の発端は先日、レンダさんの何気ない一言だった。
「この家で1番強いのは誰なんだ?」
この言葉に即座に反応したのはティーだった。
「当然、妾じゃろ?」
実際、龍王で長生きをしているティーが1番強いとは思っているのだが、それに待ったをかける者が居た。
「え〜、本当に〜?」
オルフェさんだ。
「私達って実際に戦った事って無いし、実は私の方が強いかもしれないよ」
「ほう?ならばやるかの?」
「うーん・・・そうだね、良い機会だし1回戦ってみよっか」
「それなら私もやりたいな」
「私も・・・」
ティーとオルフェさんが話しているのを聞き、エレオノーラさんやリッヒさんなど他の面々も立候補し、武闘大会を開催する事になった。
参加者は、エレオノーラさん、ティー、オルフェさん、リッヒさん、メアリーさん、レンダさん、そしてクロだ。
「ルールを確認しまーす。武器はなんでもオッケーで魔法も使用可能。制限時間は30分で、決着が付かなかった場合は審判のシエルお姉ちゃんの判断で、その時点で優勢の人の勝ちとします」
この話を聞いたベルは面白そうと、実況兼解説役を買って出てノリノリだ。
「それじゃあ、選手の人達は集まってください」
くじ引きで対戦順を決めた結果、オルフェ対クロ、エレオノーラ対リッヒ、メアリー対レンダティーはシードとなった。
「それじゃあ、1回戦目の方はどうぞ!」
呼ばれたオルフェさんとクロが前に出て来る。
「よーし、サクッと倒して次に行こー」
余裕そうに挑発するオルフェさんに、クロは無反応だった。
「それじゃあ・・・開始」
とシエルさんの合図で戦いが始まる。
初めに動いたのはオルフェさんだ。
魔法で火と氷の槍を放つ。
クロはそれをピョンピョンと軽々しく避ける。
「まぁ、流石にこれじゃあ無理だよね〜。どんどん増やしていくよー」
そう言いながら数を増やしていくが、クロも負けじと重力魔法で魔法を叩き落としていく。
「ぐぬぬ・・・」
「オルフェ選手、苦戦しています。ここからどう展開していくのでしょうか?」
想像以上に耐えるクロに苦戦してするオルフェさんに、クロは急にプルプルと震える。
すると、赤・青・緑、茶色のスライムが4匹現れる。
「おぉーっと!クロ選手、ここで仲間を呼びました!」
「えっ?」
クロは何かを指示すると、4匹のスライムは一斉に魔法で攻撃を始める。
「えー!」
オルフェさんは逃げながら慌てふためく。
「ちょっと、ちょっと!審判、あれ反則でしょ!」
シエルさんに抗議をする。
「うーん・・・セーフ」
少し考えてから、そう告げる。
「どうしてー!」
「クロ選手はスライム達の始祖の生まれ変わりですからね、本人の能力で従えているのでセーフなのでしょう」
とベルは解説する。
「ほれほれ、どうしたんたんじゃー?妾より強いんじゃないのかー?」
ティーから野次が飛ぶ。
「ぬぅ〜、見てろよー!」
そう言って、オルフェさんは魔剣を取り出した。
「こうなったら、これでやってやるもんね」
使用者の魔力を吸い、絶大な力を発揮するオルフェさんの魔剣。
魔力を込めて、クロ目掛けて振り下ろす。
「覚悟ー!」
クロは何故か避けようとせずに、そのまま立ち向かう。
いくらクロでも、ダンジョンの壁を破壊した事の魔剣を受けきれないと思っていると・・・
ポヨン
「へっ?」
クロの体は魔剣を、いとも容易く弾くのだった。
「あれ?あれれ?ちょ、ちょっと待って待って」
予想外の出来事にオルフェさんは焦りまくるが、クロは重力魔法でオルフェさんを押さえつける。
これにはオルフェさんも地面に膝を付き立ち上がる事が出来ず、その間にクロが他のスライムに攻撃を指示する。
「ぎゃー!」
攻撃を受けたオルフェさんは、少し焦げてぷすぷすと煙を上げ、
「こうさん・・・」
と言うのだった。
「勝者クロ」
シエルさんの言葉で試合は終了する。
「なんと、オルフェ選手がまさかの1回戦目で敗退となってしまいました!」
「うわーん、負けたよー」
オルフェさんはベルに抱きついて行き、ヨシヨシとされている。
「えー、今入った情報によりますと、オルフェ選手の魔剣は魔物であるクロ選手と相性が悪いそうで、ダメージが入りにくいそうです」
エレオノーラさんの入れ知恵だろうが、ベルがそう解説し、先に言っといてよとオルフェさんが嘆いていた。
オルフェさんは魔王ではあるが、戦いを好んでいる訳でもなく必要な時しか戦わないのと相性もあったのだろうが、クロは普段から隠れて訓練をして確実に実力を上げていっているので、その成果もあるのだろう。
俺はそう思い、クロに頑張ったねと伝えると喜んでくれるのだった。
「続いて2回戦目に入ります。メアリー選手とレンダ選手は位置についてください」
2人が前に出て来る。
「メアリーさんと戦うのは初めてだな。手加減無しで頼む」
「えぇ、勿論です」
お互いが位置につき・・・
「よーい・・・スタート」
合図と共に駆け出したのはレンダさんだ。
メアリーさん目掛けて一直線に向かい、拳を振り下ろす。
メアリーさんはスッと避けて拳は地面に当たり、土が舞い大きな穴を開けた。
レンダさんはすかさず、メアリーさんの後を追い再び拳を連続して振り下ろす。
ドォン ドォン
と地面を叩きつける音が立て続けに鳴る。
覚悟はしていたが、庭の地面の至る所がえぐれている。
「レンダ選手の攻撃が止まず、メアリー選手は避けるだけですが、ここからどうなるのか?」
ベルがそう実況した時、レンダさんが拳を地面に付く前に止めて身を引いた。
不思議に思い地面をよく見ると、メアリーさんによる血の槍が地面に5本埋まっていた。
「流石に引っ掛かりませんでしたか」
「危ないところだった」
「では、次はこちらから行きますよ」
地面に埋まっていた血の槍を抜いて浮かせ、レンダさん目掛けて発射する。
キンキン
レンダさんは槍を叩き落として砕くが、元は血という事もあり、メアリーさんは瞬時に液体に戻して槍の形状に固め直し何事も無かったかの様に攻撃を続ける。
「くっ、厄介な・・・」
レンダさんはメアリーさんに再び近づく事が出来ず、燻っていると急に動きを止めた。
好機とみたメアリーさんは、5本全ての槍を一斉に放つ。
すると、レンダさんが力を込めた拳を放ち、その衝撃波で槍を全て砕いた。
「よし!」
守りから一転、攻めの姿勢に移してメアリーさん目掛けて拳を突き出した。
メアリーさんは避けるかと思いきや、液状にした血をすぐに自分の元に戻して、ドーム型のシールドを作り出した。
ピシッ
シールドにヒビは入ったものの、完全に破壊するまでには至らない。
「硬い・・・」
一瞬の隙を突いて、メアリーさんはシールドを解除して再び槍の形に戻し攻撃をする。
そんな攻防が20分程続き、もう少しで制限時間になるという所で、レンダさんは動きを止めて自身の手を見つめ、
「すまない、降参する」
そう言った。
「?、勝者メアリー」
シエルさんの言葉で戦いは終了するが、見た限りレンダさんはまだまだ動けそうな感じはする。
戻って来た本人に聞いてみると、
「籠手にヒビが入ってしまった」
との事だった。
「買って貰った物だからな、壊したくは無かったんだ」
オリハルコンで出来た籠手なので耐久性は高い筈なのだが、それにヒビが入る程という事はメアリーさんも本気で戦っていたのだろう。
「今度、あの店に持って行って直して貰おう」
ヴォグルさんは何をしたらこんな事になるんだと言いそうだが、すぐに直してくれるだろう。
2回戦目はメアリーさんの勝利で決定し、続いて3回戦目を行おうとしたが、ボコボコになった庭に目をやる。
「え〜、ママに庭の修復をして貰うので、一旦休憩とりまーす」
「娘の人使いが荒い・・・」
すでに敗退しているオルフェさんに魔法で庭の穴を埋めて貰い、休憩をとるのだった。
あと、2話程続きます。




