ミイラ
砂漠で見つけたトラップだらけの遺跡の最奥で、突如現れた謎のミイラに俺達は声にならない声を上げる。
驚いたレンダさんは拳を繰り出す。
拳はミイラに当たらなかったが、横をすり抜けて風圧だけで後ろの壁を破壊した。
「ひょえぇぇーー!」
ミイラは破壊された壁を見て驚く。
「ストップ、ストップ!家を壊さないでくれー!」
と何故かミイラの方が俺達よりも慌てふためき、落ち着きを取り戻すまで待つのだった。
〜〜〜〜〜〜
「いや〜焦った、焦った。久々に来た奴らがこんなに強いとは思わなかったぜ」
「ごめんなさい、後ろの壁を壊しちゃって・・・」
「あぁ、いいよ、いいよ。俺が驚かしたのが悪かったんだ」
ミイラはあっけらかんと言う。
「ところで貴方は・・・?」
リッヒさんがそう尋ねると、
「おう、俺はここの主人のアシュット・アメムントって言うだ。気軽にアシュットって呼んでくれや。これでも生前はイケメンだったんだがな、今じゃこれだぜ」
エジプトっぽい響きの名前のミイラは、自分の顔をバシバシと叩き笑いながら言った。
「それで、お前さん達はここに何しに来たんだ?」
「私達はこの砂漠地帯の調査に来ていたんだ」
「ふーん、調査ね〜」
「それで偶然ここを見つけて、進んだら貴方が居たのです」
「まぁ、俺も君達が来てたのは知ってたんだけどな。久々にトラップが作動して様子見してたら、攻略されるとは思ってなかったぜ」
「あの、数々のトラップはなんなんだ?」
「そらゃ当然、この墓を守る為の物だよ」
「「墓?」」
「そうだ、ここは俺達の墓だからな」
確かに棺はあるので墓ではあるのだろうが。
「あんな物があったら誰も墓に来れないだろ?」
「むしろ来させ無い為に、アレを作ったんだ。墓を荒らされても困るからな。ちなみにトラップ全てを潜り抜けたのは、お前さん達が初めてだよ。入って来た奴らは、殆ど石の玉に押し潰されて死んじまったからな」
「なるほど・・・だからギルドにもこの依頼が残っていたのですね」
「ここが調査対象なのか?」
「えぇ、恐らくそうでしょう」
アシュットの話を聞いた、リッヒさんとレンダさんが考えていると、
「お前さん達、ここを調べたいのか?」
「貴方が許してくれるなら」
「別に構わねぇが、何もねぇぞ?只の墓だからな」
「そう言えば先程、俺"達"と言ってましたが、棺はそこの1個だけですよね?」
「おう、それが俺の棺だな」
リッヒさんの問いにそう答えると、少し考える素振りを見せてから、
「ここまで来た初めてのお客さんだからな、お前さん達には特別に見せてやるか」
と言い棺の側に移動し、側面に隠されていたボタンを押す。
すると、棺がゴゴゴと音を立てながら横にスライドして行き、下へと続く階段が現れた。
「へへっ、付いて来な」
そう言うアシュットに続いて階段を降りて行くと、そこには1000個程の棺が並んだいた。
「これは・・・?」
「民達の墓だ。俺はアメムント王国の王だったんだ」
王国の名を聞いても俺はピンとこなくて、2人にも聞いてみたが分からないそうだ。
「まぁ、5、600年前に滅んだからな、当然か。とても小さい国だっだが、活気が溢れて良い国だった」
「滅んでしまった原因を聞いても?」
「砂嵐さ。この墓も元々は地上にあったんだが、ある日を境に数m先も見えない程の砂嵐が続いたんだ。砂嵐は止む事を知らず、全国民を1番広かったこの建物に避難させたのだが、当然次第に食料も尽きていって、1人また1人と倒れていったんだ・・・」
「他の場所に逃げる事は出来なかったのか?」
「外を歩くのも、ままならない位だっんだ。それで、元は俺の為に作ったこの墓を民達の弔いの場としたのさ。本当は俺が最後まで生きて全てを見守るつもりだったんだが、途中でぽっくり逝ってしまってな、気付いた時には包帯グルグル巻きだったって訳だ」
最後は笑いながらそう言う。
「ミイラとして蘇った理由とか分かるんですか?」
俺はそう聞いてみたが、分からないと言う。
「俺が蘇ったのは最後の民が死んですぐだったんだ。俺の棺の側で、まだ温かい状態で横たわっていたからな」
「それからずっと1人で寂しく無かったのか?」
「それがそうでもなくてな・・・実は200人くらいの魂が、この場に残ったままだったんだ」
「「魂?」」
「つまり、幽霊になったわけだ」
「と言う事は今ここに・・・」
「おう、全員いるぞ。皆んな、鳴らしてくれ」
そう声を掛けた瞬間、沢山の棺の蓋がガタガタと揺れ始めた。
その光景にポカーンとする。
「どうだ?驚いただろ?」
俺達は、うんうんと頷く。
「でも、あんまり怖がってないんだな?」
「我が家にも幽霊が1人いるので」
「そうなのか!じゃあ、お前さん達も霊力は知っているだろう?」
「知ってますよ」
「あのトラップの数々はな、俺達が死んだ後に作ったんだが、その霊力が役立ったんだよ。あの、重ったるい石の玉も全員の力で運んだりしてな」
ルインは軽い物しか持ち上げられないが、その力が沢山集まればそんな事も出来るらしい。
「いやはや、生身の奴らと話すのは久々だが、お前さん達で良かったぜ。良かったら、お前さん達の話も聞かせてくれないか?」
そう言うので、普段の我が家の様子を話す。
途中途中、誰もいない筈の空間に向かって話すので、本当に幽霊としてそこに居るのだろう。
そんなこんなで、時間が経過し・・・
「はぁ〜、面白かったぜ。お前達もそう思うだろう?」
アシュットがそう言うと、棺を鳴らして反応する。
「まだまだ色んな話がありますよ」
「それは是非とも聞きたいが、ここに留めるのも悪いしな・・・そうだ!これをお前さん達に渡しておこう」
そう言って手渡されたのは、目と口の部分が空いた金色の仮面だった。
「それは黄金で出来ているんだが、お前さん達が入って来た入口にそれを嵌める場所があって、それを使えばここまで安全に来れる道が出来るんだ」
「そんな貴重そうな物、貰って良いんですか?」
「構わん、構わん。その代わり、また話を聞かせてくれ」
次に来る時は、ルインを連れてこようと思い、その日は彼らに別れを告げて帰った。
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後日。
レンダさんは、彼らに迷惑を掛けたくないという気持ちから、ギルドには何も見つからなかったと伝えるのだった。




