成長
「だれか、だれか、だれかー!」
朝、全員が起きて来るのを待っていると、オルフェさんがいつもの時間に慌てて、叫びながら階段を降りて来た。
「朝から騒がしい奴じゃの」
「ごめんね!でも、緊急事態なの!ベルが・・・」
その一言を聞いて、全員が慌ててオルフェさんとベルの部屋に向かう。
「ハァ、ハァ、ハァ・・・」
そこには、ベッドの上で苦しそうにしているベルの姿があった。
「朝、起きたら息苦しそうにしてて・・・熱もあるみたいで」
確かに顔も赤く、おでこを触ってみるとかなりの高熱だった。
「ママァ?」
「ベル、しっかりして!」
意識も朦朧としている様で、目を開いても焦点が定まっていない。
「ど、どうしよう!」
「医者じゃ、医者を呼ぶんじゃ!」
皆んな大慌てで、あたふたしていた。
「そ、そうです!実家に来てもらっている、お医者さんにお願いしましょう!」
アリーがそう言うので、急遽ウッドフォード家に全員で向かい、医者を連れて来て貰った。
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「残念ですが、私には分かりません・・・」
医者は診察を終えて、そう話す。
「分からないと言うのは?」
「確かに熱も出ている様ですが、それ以外に悪い所もなく風邪の様な症状も見当たらないので」
その医者はこれ以上はお手上げだと言うので、1度家に帰宅する。
「ど、どうするんじゃ?」
「このままですと、ベルちゃんが・・・」
苦しそうにしているベルを見て、皆んな最悪の結果を想像してしまう。
「大賢者殿に聞いてみてはどうだろうか?」
「確かに大賢者さんなら、何か分かるかもしれないですね」
エレオノーラさんの案で、次はラーブルクへと向かう。
「おや?どうかされましたか?」
「大賢者さん!すぐにベルの様子を見て欲しいんですけど」
自分の部屋に戻ろうとしていた、大賢者さんを発見して呼び止める。
「では、私の部屋へ」
急いで移動し、ベルの体を調べてもらう。
「うーむ、これは・・・何やら魔力の流れが活発になっている感じがしますね」
「どう言う事ですか?」
「ベルちゃんは、ベヒモスでしたよね?魔物が必ず持っている魔石は普段から周囲の魔力を吸っていて、その魔力を使って魔法を使用しているのですが、その魔石が異常に魔力を吸い込んで体を循環させている様なので、それが高熱の原因なのでしょう」
「なら、魔力を使えば治ると言うのか?」
大賢者さんは、ティーの問いに首を横に振る。
「意識がハッキリしていればそうするのですが、朦朧としているベルちゃんにそれは難しいでしょう」
「じゃあ、他に方法は無いの?回復魔法とかは駄目?」
「ただの回復魔法では厳しいかと、上位の回復魔法を使える者なら、少しはマシに出来るとは思います」
「でしたら、シャロンさんの力を借りるのはどうでしょうか?」
大賢者さんの言葉を聞いたリッヒさんがそう言う。
ヒノウラでも、昏睡状態だったシオリさんが意識を取り戻したから可能性はありそうだった。
大賢者さんに礼をのべて、急いで聖国モントロレのオレイユさんの部屋へと向かう。
「先生!」
「ん?アリシアか?それに他の者まで居るとは珍しい」
「先生でも、シャロンちゃんでも良いので、ベルちゃんを助けて下さい」
「ひとまず、話を聞かせてくれるか?」
慌てる俺達を落ち着かせる様にオレイユさんは優しく言い、落ち着いて状況を説明する。
「なるほどな・・・そう言う事ならシャロンを呼ぼう。今の彼女の方が私よりも力が強いから適任だろう」
オレイユさんは兵士にシャロンさんをすぐに連れて来る様に指示する。
「すみません、遅くなりました!」
シャロンさんは大事な礼拝中だった様で、少し経ってから急いで来てくれた。
「いえ、シャロンちゃんに来て貰えるだけありがたいです」
「ベルちゃんが大変だと聞いたので、当然です!それでは早速診てみますね」
ベッドに寝かせていたベルの元に向かう。
まだ、目を瞑りながら息苦しそうにしている。
「ふぅ・・・」
ベルの状態を確認したシャロンさんは一息ついて、自身の両手を握り合わせて祈り始めた。
すると、ヒノウラの時の様にシャロンさんの周りが金色に輝き出す。
これが最上級の回復魔法の効果の1つでもある。
シャロンさんが、そのまま30分間祈り続けていると、さっきまでうなされていたベルが、スースーと静かに寝息を立て始めるのだった。
だが、それでも目を覚ます様子はない。
「すみません、これ以上は・・・」
連日の巡礼で疲れが溜まっていたそうで、疲れた表情をしている。
「シャロンちゃん、もう大丈夫ですよ。お陰でベルちゃんも少し落ち着いたら様ですから」
アリーがシャロンさんを止める。
実際、効果はかなりありベルの表情は落ち着いている。
もし、翌日も目を覚さなかったら、また来て欲しいと言われて、その日は家に帰るのだった。
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深夜、オルフェさんとベルの2人の部屋にて。
まだ起きないベルを1日中付き添って看病していたオルフェさんにも疲れが出てきていた。
「オルフェさん、1回寝た方がいいですよ」
「でも、ベルが・・・」
「俺が代わりに見ておきますから、ベルが起きた時に疲れたオルフェさんの姿があったら、逆に心配されちゃいますよ」
「うん・・・」
なんとか説得して、オルフェさんはベルが寝ているベッドの隣にある自分のベッドに横になり、瞬時に眠りにつくのだった。
椅子に腰を下ろして、変わらず静かに寝息を立てているベルを見る。
そうして、ベルを見守り続けて時間が経過し、遂には外から太陽の光が少し入り込んで来た。
本当にこのまま目を覚さなかったらどうしようと考えていると・・・
ベルの体が、突如として白く光り出したのだ。
「なにこれ!?」
俺は驚いた立ち上がる。
光はだんだん強くなっていき、目を開ける事が出来なくなった。
しばらくして、光が弱まっているのを感じて目を開くと、さっきと変わらないベルの姿があった。
なんだったんだろうと思っていると、ベルがいきなり目を開いた。
「ベル!」
「うん?どうしたの?」
意識もハッキリしていて、こちらの受け答えも出来ている。
「オルフェさん!起きて!」
「う〜ん、ベルぅ・・・」
まだ夢の中の様で、体を揺さぶり起こす。
「オルフェさん、ベルが目を覚ましたよ!」
「う〜ん・・・?」
眠たげに目をこすりながら体を起こして、ベルの方を見る。
「ママ、おはよー!」
「・・・ベルーー!」
やっと状況を理解したオルフェさんは、ベルに凄い勢いで抱きついた。
「ママ達、どうしたの?」
俺達2人の反応にベルが不思議そうにしているので、昨日から1日中眠りっぱなしだったと伝える。
「うーん、確かに昨日の記憶は無いかも」
「でも、ちゃんと目を覚ましてくれて良かった」
「もし、ベルが目を覚さなかったら、ママ死んじゃうところだったよ」
「それは、めっ!」
とオルフェさんはベルに叱られて嬉しそうにしている。
「それよりも、お腹空いちゃった」
1日、何も食べていないベルがそう言う。
「それじゃあ、ちょっと早いけど朝ごはんにしよっか?ママが何でも作ってあげるよ〜」
「うん!あっ、でも、ご飯はアンお姉ちゃん達が作ったのが良い」
ベルは笑いながらそう言い、ベッドから立ち上がる。
すると、ふと違和感を覚える。
「ベル、身長伸びた?」
「うん?」
俺の一言にベルは首を傾げて考え込み、
「なんか視点が高くなった気がする!」
そう言う。
オルフェさんも確かにと呟いている。
「ちょっと、身長測ってみよっか」
と降りる前にベルの身長を測ると、昨日までが120cmだったのに対して、130cmに伸びていたのだ。
「1日で10cmも伸びたのか・・・」
「やったー!」
ベルは嬉しそうにしているが、そんな事があるのだろうか。
「ねぇねぇ、もしかしてベルが1日中寝込んだのって、この成長の為なんじゃないかな?」
オルフェさんは思いついた様にそう言った。
大賢者さんが、ベルの体の魔石が異常に魔力を吸い込んでいると言っていたが、それがベルの成長の為に必要で、副作用として高熱と寝込んでしまったのだろう。
「もしかしたら、これからも同じ感じで成長していくかもね」
「毎回あれを見るのはしんどいなぁ・・・」
俺もオルフェさんと同じ事を思った。
「シャロンさんの回復魔法で、ある程度良くなってたし何か他にも方法がないか探してみよっか」
「うん、そうだね!」
丁度その時、ベルのお腹がぐぅ〜と鳴ったので、皆んなを起こして、早めの朝食をとるのだった。




