元騎士団長
「クラニーさんの実家に?」
ある日、アリーから母親であるクラニーさんの実家に行かないかと言われた。
「今日実家に行った際に、祖父から母宛てに私に会いたいと言う手紙が届いていると言われまして」
「何かあったのかな?それなら行った方がいいよね」
「私も詳しくは聞かされていないので少し心配です」
「でも、流石に全員で行くのも迷惑だよね」
「行きたい方がいないか聞いてみますか」
〜〜〜〜〜〜
「そう言うわけで明日なんだけど、一緒に来たい人いる?」
その日の夜、皆んなに確認すると手を上げたのはリッヒさんとメアリーさんの2人だ。
「お嬢様、すみません。明日は用事があって・・・」
「仕事〜」
「貴族・・・首チョンパ!」
と各々用事があったり、要らぬ心配をしたりと行ける人はごく僅かだった。
「まぁ、急だし仕方ないよね。ティーには移動のお願いしたかったんだけど、難しいかな?」
「昼から行くんじゃろ?少しなら余裕はあるし、構わんが」
「ありがとう、助かるよ」
「では、私は念の為に残りますので、リビアを同行させますね」
とアンさんが言い、行く人数は5人で決まった。
〜〜〜〜〜〜
「それじゃあ、よろしくねティー」
「うむ」
お昼過ぎ、アリーの実家に転移で移動し、そこからはティーに乗って飛んでいく。
「アリーのお爺ちゃんって、元騎士団長だったっけ?」
「えぇ、今も伯爵として領地をまとめております」
「どんな場所なんですか?」
「元騎士団長と言う事もあり、任せられているのが国境付近なんです。隣国とは仲が悪い訳では無いのですが、何があるか分かりませんので、祖父の様な者に任せられているんですよ」
「となると、領地内は兵が多いのですかね?」
メアリーさんは大きな国に居た事もあり、何となく詳しい様だ。
「住んでいるのは国境を警備する方達がほとんどなので、残念ながら観光する様な場所は無いですね」
そうなのかと思いつつ、リッヒさんとメアリーさんは残念がる様子も無く、付いて来たのには他の理由があるのだろうかと思った。
そんなこんなで、30分程飛んでいると領地に到着し、アリーの祖父の屋敷の前に着陸した。
「ティー、ありがとうね」
「うむ、また後でな」
ティーはそのまま飛び去って行った。
「それでは早速・・・」
中に入ろうとすると、門の前に居た兵士が口を開けてポカーンとしていた。
「あの、アリシアと言いますが・・」
アリーが話しかけるが、呆気に取られて反応が返ってこない。
「あ、あの!」
「はっ!失礼いたしました!アリシア様ですね。どうぞ中にお入り下さい」
大きな声でやっと我に返った兵士の案内で屋敷の中へと案内される。
「少々お待ち下さい」
玄関で1分程待っていると、ドタバタと足音が聞こえ、
「アリシアー!元気にしておったかー!」
と白髪のガタイの良い老人が、凄い勢いで駆け込んで来た。
「お、お祖父様!」
この人こそがアリーの祖父、メルソン・スタンウィックだ。
「あなた、少しは歳というものを考えて下さい」
その後に少し遅れて白髪の女性、祖母であるヘレン・スタンウィックがやって来る。
「久々に孫娘に会うんだ。はしゃぐに決まっているだろう?」
「そんな当たり前の様に言われましても」
「あの!お祖父様。手紙で私の顔が見たいと送っていたそうですが、何かあったのでしょうか?」
そんなアリーの言葉に2人はキョトンとした顔となった。
「アリシア、この人が貴女に会いたくなったから勝手に手紙を出しただけなのよ・・・まさか、こんなに早く来てくれるとはね、心配掛けたみたいでごめんなさいね」
「そうだったんですね、安心しました」
アリーはホッと安堵する。
「こんなに早く会えて私は嬉しいぞ!」
「全く、アリシアは妊娠中の身なんですから、労わって下さい!」
「す、すまん」
やはり、男親はこうなる運命なのか俺達の子が産まれたら、もっと凄い事になりそうだ。
「コホン。ともかく、アリシアに会いたいというのもあったのだが・・・」
メルソンさんは、そう言いながらコチラに視線を向ける。
「コタケ君!君に父親になる覚悟があるのかを見る為にも呼んだのだ!」
「覚悟?」
「そうだ!今から君には私と剣で勝負して貰う!そこで、男として父としての覚悟を見せるんだ!」
なんて言ってくるメルソンさんだが、いくら60代の体とは言え元騎士団長を相手に戦える筈が無く、どうしようかと悩んでいると、
「あなた?これから、大変な時期になるのにコタケ様に何かあったらどう責任を取るのですか?」
「お祖父様、同じ事をお父様がやりましたので結構です」
「いや、それはあの・・・」
奥さんと孫娘にそう言われたメルソンさんは意気消沈するのだった。
そんな中、
「あの、良ければ私がお手合わせ致しましょうか?」
とリッヒさんが言い出したのだった。
「いや、流石に女性相手には・・・」
「これでも、エレオノーラさんとはある程度戦えますので」
「ほう!エレオノーラと戦えるレベルなのか!」
それを聞き、声に元気が戻る。
「それでは、私と立候補しましょう」
リッヒさんに続き、メアリーさんも戦いたいと言う。
もしや、2人の目的はこれだったのだろうか。
エレオノーラさんに話を聞いてそうだし、可能性はありそうだ。
「ふむふむ、良いだろう!だが、これでも元騎士団長でな。2人とも同時に掛かって来なさい!」
「あの、お祖父様。流石にそれは・・・」
「ハッハッハッ!アリシア、お爺ちゃんの活躍を見ていなさい!」
2人の実力を知らないメルソンさんを止めに入ろうとするアリーだったが、聞く耳を持たずそのまま戦う為に3人は庭へと向かうのだった。
「あの、お2人大丈夫なの?」
心配そうに聞くヘレンさんだが、むしろメルソンさんの方が危なそうだ。
「2人は強いので大丈夫ですよ!それよりも3人が戻るまで何をしましょうか?」
「なら、少しお話でもしましょう。貴方達の普段の生活の事を聞きたいわ!」
「そうですね!私もお祖母様にお話ししたい事が沢山あります。リビア、紅茶を淹れて来て貰って良いかしら?」
「かしこまりました」
「それなら、久々にリビアの作ったお菓子が食べたいわね」
「そう仰ると思って事前に準備して来ております」
「まぁ!流石ね!アンかリビアのどちらか家に来て貰えないかしら?」
「私達の生活が回らなくなるので駄目ですよ」
「2人とも優秀なのよね」
「駄目ですー」
とそんなやり取りをしつつ、別室に移動して普段の生活の話等をしていると、
「ギャーーーー!」
と言う男の声が庭の方から響き渡って来た。
「あの人の声ね?」
「お祖父様、大丈夫かな?」
2人が心配していると、しばらくしてボロボロになったメルソンさんと、特にダメージも無さそうな2人が帰って来た。
「すみません、張り切り過ぎました」
とリッヒさんが謝る。
「いえ、2人の力を見誤ったお祖父様が悪いので謝らなくて大丈夫ですよ」
「そうです。年甲斐もなくはしゃいだ罰です」
「だって、戦えるって言うから・・・こんなに強いとか思わないだろう」
弱々しい声で呟くメルソンさんは、さっきまでの面影が無い。
「これでも、若い頃は騎士団長だった筈なのにね」
容赦の無いヘレンさんの言葉に、メルソンさんは萎れていく。
「まぁ、お祖父様も歳ですから」
「ぐはっ」
最後のアリーの一言が止めになった様だ。
「これでも、若い時とは王国最強と謳われていたんだぞ」
流石に聞くに耐えなかったのか反論を始める。
メルソンさんは、部屋の隅の本棚へと向かい1枚の紙を取り出して来た。
そこには、鎧を着込んだ黒髪の真面目な表情をした若い男性の肖像が描かれていた。
「これは?」
「私だよ」
「「えっ!」」
アリーも若い頃のメルソンさんを見るのは初めてな様で驚いていた。
「また、懐かしい物を・・・30代の頃ですかね?クラニーも産まれて、貴方が騎士団長になった時に描いた貰った物ですね」
ヘレンさんは懐かしむ様にそう言う。
「騎士団は当然危険な仕事をするからな、もし私に何かあった時に娘に忘れられ無い様に絵を残しておいたんだ。まぁ、結局意味はなかったが、こんな風に役立つとはな」
「この絵を見る限り、お祖父様は貴族の女性から人気がありそうですが、お祖母様はどうやってお祖父様を落としたのですか?」
「ふふ、私じゃなくて、この人の方から落としに来たのよ」
「お祖父様から!?」
「当時、子爵の娘だったヘレンに私からアタックしたのだ」
「伯爵であるこの人の両親は反対しましたけどね。格下の子爵でしたので」
「メルソンさんは、どうやってヘレンさんを知ったんですか?」
「見合いの絵だよ。一度、両親が見合い相手の確認をしていたのだが、ヘレンの絵は私の目に止まる事なく勝手に捨てられそうになっていたんだ。それを偶然見つけて、一目惚れをした」
「私も両親が勝手に見合いの絵を送っていたのは知らなかったんです」
「当時、2人とも16歳でな同じ学園に通っていて、私から声を掛けたのだ」
「アリシアも通っていた学園ですよ。いきなり、伯爵の息子から結婚してくれと言われる私の身にもなって下さい」
「驚きはしますが、お祖母様としては嬉しいのでは?」
「私は子爵か男爵の元で十分だと考えていたんです。それに、この人は学園でもそれなりに人気があったので、面倒事になると思ったので断りました」
「あれは、響いたよ」
決心して告白して振られたら誰でもそうなる。
「でも、その後も私は引き続きヘレンに告白したのだ」
「その内、面倒になって取り敢えずで受け入れたのです」
「学園の人気も高く、伯爵家の息子と取り敢えずとは凄いですね・・・」
メアリーさんは苦笑いをしながらそう言った。
「その後に案の定、私にちょっかいを掛けて来る女子生徒達が現れたんです」
「それで、お祖母様は・・・?」
「黙らせました・・・拳で」
「「拳で?」」
皆んなポカーンとした表情になった。
「勿論、直接殴りに行った訳ではありませんよ?あの学園には、決闘と言うルールがあるのです。生徒同士のいざこざを解決するものなんですが、私はちょっかいを掛けてきた女子生徒全員に決闘を申し込みました」
「決闘・・・噂には聞いたましたが、実際にあったのですか」
「私達の時代も、実際にやったのは私だけですから」
「決闘なら、皆んなこぞってやりそうですが?」
「負けた時の事を考えて貴族の面子の為にもやりたく無かったのでしょう。それに、決闘を申し込まれた側に内容を決めると言うルールがあったので、申し込む側には不利だったのですよ」
「それをヘレンは全て打ち破ったのだよ。勉強に関する事や戦いなど色んな決闘していたが、全てに勝利して相手を黙らせる姿に、この女性しか居ないと思ってしまったよ」
「まぁ、その後なんやかやあって、この人と結婚した訳ですが」
「お祖母様、格好良いです!」
「ふふ、そうかしら?孫娘に格好良いと言われるのも悪く無いはわね」
「ぐっ、それは私が言われる筈だったのに・・・」
「お祖父様も、格好良いから安心して下さい」
「そうか!」
と一気に上機嫌になるメルソンさん。
「でも、1番格好良いのはコタケさんじゃないかしら?」
「えへへ・・・」
ヘレンさんの言葉に恥ずかしそうにするアリー。
それを見たメルソンさんは、
「やはり決闘だー!」
と再び火が付き、何とか落ち着かせるのだった。
その後も、メルソンとヘレンさんの昔話や俺達の話をしている内に、日が沈み始めていた。
「もう、こんな時間か・・・」
「あまり、長居させるのも体に悪いですから、今日はここまでにしましょう」
「アリシア〜」
とあの絵の人物とは思えないくらいの、情け無い声を出す。
「ワタルさんも1度来た事でいつでも来れる様になったので、元気出して下さい」
「あの転移と言うやつだな。確かにそれがあるなら、いつでも会えるな!」
元気が戻る。
「まぁ、アリシアが貴方に会うきになればですがね?」
「うぅ、アリシア〜」
「あはは・・・大丈夫ですよ。また、来ますから」
「絶対だからな!」
苦笑いするアリー。
「皆様も体にお気を付けて」
「コタケ君!次こそは君と一戦交えるからな!」
どうか、それは忘れていて欲しい。
最悪、エレオノーラさんかティーを連れて来て相手をして貰うとしよう。
そんな事を考えながら、2人に別れを告げて帰るのであった。
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