報酬
「シェリー?起きてるー?」
ある日、全然起きて来ないシェリーを起こす為に部屋の前にやって来ていたのだが、全く反応が返ってこない。
「入るよー?」
そう言うが、やはり返事は無いのでドアノブを回して部屋に入ると・・・
真っ白な馬が一頭、横たわっていた。
「うわっ・・・って、シェリーか」
思わず驚いたが、すぐにシェリーだと分かり冷静になる。
「おーい、シェリー。もうお昼だよー」
体を揺さぶりながら声を掛けると、
「ヒ、ヒヒィーン・・・」
と小さく鳴き声を上げる。
「昼ごはん無くなっちゃうよー」
「それはダメですー!」
俺のその言葉に、シェリーは飛び上がりながら目を覚ました。
「やっと、起きた。おはよう」
「あっ、あれ?コタケさん、おはようございます。どうして私の部屋に?」
「なかなか起きてこないから起こしに来たんだよ」
「そうだったんですか、ありがとうございます。ここ最近ダイエットの運動のし過ぎで疲れちゃって」
「原因作った俺が言うのもなんだけど、ダイエットも無理し過ぎない程度にね」
「はい!ところで、いま何時なんですか?」
「もう、12時だよ。今からお昼ご飯だから早く来ないと本当に無くなるよ」
「それはダメです!」
と言いながら駆け出しそうになったが、
「ストップ、ストップ!一旦、自分の姿を思い出そうか」
俺が呼び止めると、首を傾げながら自分の体を確かめる。
「あっ!ごめんなさい、すっかり忘れてました。こっちの姿の方が楽なので」
「それは良いんだけど、うっかりしてドアとか壊さないでね?」
「き、気をつけます・・・」
自分でもやりそうだと思ったのか、微妙な顔をしながらそう言った。
気を取り直して、シェリーを連れて一階へと降りて行く。
「やっと、起きて来たのじゃ」
「あはは、ごめんなさーい。私のご飯あります?」
「今、食べ始めたばかりだから安心しろ」
「わーい、いただきまーす!」
シェリーはすぐに席について食べ始める。
「とにかく、元気そうで安心しました」
その姿を見た、アリーが言う。
「ダイエットのし過ぎで寝てたみたい」
「やり過ぎるのも考えものですね」
「それもそうなんだけど、寝てる時の姿も凄くてさ。部屋の中で馬の状態で寝てたから、一瞬びっくりしたよ」
「それはまた・・・その状態の方が楽なんですかね?」
「そうですよ〜。あとは部屋に干し草とかがあれば完璧なんですけどね〜」
「もしかして、ティーとかも元の姿のまま寝た方が楽だったりするの?」
「いや、妾はもう慣れておるしフカフカのベッドが無いと寝れんのじゃ」
「それなら良かった」
ティーの大きさだと外で寝てもらう羽目になる所だったと考えていると、
「そうだ!私、結構頑張りましたし、報酬に干し草を買って欲しいです!」
シェリーが唐突にそんな事を言うのだった。
なんでも、瞬間移動とダイエットを頑張ったから、ご褒美に干し草が欲しいそうだ。
「別にそれくらいなら構わないけど・・・良いよね、アリー?」
「寝床に必要という事でしたら構いませんよ」
我が家の家計の管理をしているアリーから許しが出たので、シェリーの干し草を買いに行く事となった。
〜〜〜〜〜〜
そんな訳で、アリーとシェリーと一緒にマゼル王国の王都までやって来た。
「エレオノーラから、乗馬用の道具などを売っているお店を3つ程聞いて来ましたので、そちらに向かいましょう」
「あっちから、焼き鳥の匂いがしますー」
「今日は寄り道はしないよ?」
「はーい・・・」
と少しションボリしながら返事をする。
ついさっき食べたばかりなのに、どれだけ食べるのだろうかと思いつつ、1店目へと向かう。
「いらっしゃい」
木造の横長の建物に入る。
中には馬用の鞍や鎧、ムチなど様々な物が売られている。
ここには、騎士や冒険者などが良く買いに来るそうだ。
「むっ、あっちから草の匂いがします」
と反応を示すシェリーの後を付いて行くと、藁や干し草が無造作に置かれていた。
値段は、大銅貨1枚から銀貨数枚と様々だが、そこまで高い物では無かった。
「どれか良いのあった?」
草に鼻を近づかせ匂い嗅いでいるシェリーに声を掛ける。
シェリーの本来の姿を知らない人から見れば異様な光景だ。
「う〜ん、ここは価格通りって感じで草も安い物ばかりですねー」
とあまりお気に召さなかった様で、1度店を後にして2店目へと向かう。
2店目の建物は2階建てで大きく、白を基調とした石で造られて少し派手目な装飾がされていた。
置いてある商品も金色に輝いていて、貴族などが良く買いに来るそうだ。
「すん、すん。あっちから匂いがしますね」
また、草の匂いを嗅ぎ分けて店内を歩いて行く。
着いた先には、先程の店とは違い草は綺麗に並べられていたが・・・
値段が、大銀貨数枚から金貨数枚とかなり高かったのだ。
「こんなにするのか・・・」
「ちょっとこれは、予想外ですね・・・」
と俺とアリーは渋い顔をする。
流石にコレを買うのはなと思っていると、
「う〜ん、違いますねー」
とシェリーが言った。
「違うってどういう事?」
「匂い的にさっきのお店と同じなので、物は一緒なんですよね」
「つまり、このお店はボッタクリと言う事ですね」
とアリーがズバリと言った。
「じゃあ、ここで買うのは無しだね」
2店目をそのまま後にするのだった。
続く最後の3店目。
2店目と同じく2階建てだが造りは落ち着いた感じで高級感があった。
そして中に入った瞬間、シェリーがビュンと走り出して行き慌てて後を追いかける。
すると、干し草の束の目の前で立ち止まり、
「コレですー!」
と大きな声を出した。
「シェリーさん、シッーですよ」
「あっ、すみません」
「それで、シェリーはこれの何が気に入ったの?」
「まずは丁寧に干された事で発せられる芳醇な香りですね!それから、色も濃過ぎず薄過ぎない茶色で完璧です!これは手間暇かけて作られた逸品です!」
「う、うん?そうなんだ?」
「どうやら、私達には難しい世界の様ですね」
シェリーは興奮しながら説明するが、全然違いの分からない俺とアリーは笑い合う。
「ところで、お値段は・・・」
と金額を見てみると、大銀貨2枚と書かれていた。
前世の金額で20万円程だが、さっき数百万の干し草を見たせいで、安いと思ってしまった。
「必要な分となると、どれくらいですかね?」
「4束くらいで足りると思います!」
シェリーはそう答えて、4束の購入が決定した。
「定期的に買い替えないといけなさそうなので、そこは少し問題ですね」
「今回はご褒美だけど、次はシェリー自身に買ってもらう様にしないとね」
嬉しそうに干し草を抱えている、シェリーを傍目にアリーとそう話すのだった。
〜〜〜〜〜〜
翌日。
また中々起きてこない、シェリーを呼び部屋へと向かうと、干し草を丁寧に並べてその上で、馬の姿で幸せそうに眠るシェリーの姿があり、少し起こすのを躊躇うのであった。
それはそうと、干し草の匂いが廊下にまで漂って来ていたので、これは早急に対策しないとなと考えるのであった・・・




