和平
謎の本により知らない土地に飛ばされた俺達は、魔王ララさんに良く似たシャロさんの案内で街中を歩いていた。
至る所に、鎧を着て武器を携えた兵士が大量に歩いており、この光景を見ると聞いた通り戦争中で警戒しているのだろうと思う。
「なんか凄い厳戒態勢だけど、何かあったりするの?」
「ちょっとした催し物があるが気にしなくて大丈夫だぞ」
シャロさんはそう言うが、街中の雰囲気は物々しい。
それから建物を見ていて気付いたが、どれも木造建築なのだ。
今まで訪れたどの街も、ほとんどの住居は石やレンガで建てられていたが、やはり場所によって差があるのだろうか。
そんな中で、石で堅牢に作られた城は大きな存在感を放っている。
「そうだ!皆んな、お腹は空いて無いかな?」
「空いてるかも〜」
「私は草を食べたばかりなのでお腹いっぱいですー」
ラヴィさんの家に居た時は、お昼前だったのでお腹は空いていた。
「じゃあ、私が奢ってよう!この街の牛串が美味しいんだ」
そう言い屋台が立ち並ぶ通りに連れて来られた。
「おっちゃん!牛串、4本!」
「あいよ!」
気前よく返事をした店主が目の前で串を焼き始めて、タレの甘い香りが漂ってくる。
「はいよ!出来立ての内に食べてしまいな!」
シャロさんは串焼きと引き換えに硬貨を渡す。
それを見ていたラヴィさんが、
「見た事のないお金・・・」
とボソッと呟いたのだ。
店主に渡した銅貨は、いつも使っている物とはデザインが違う。
この世界の通貨は、ほとんどの国が共通の物を使い独自の通貨を使っている場所は少ないそうなのだが、ラヴィさんも何処の物か見当がつかない様だ。
「んー!美味しい!」
「だろう!この街の食べ物はどれも美味しいんだ!」
「嬢ちゃん達、嬉しい事言ってくれるね!ほれ、サービスでもう一本やるよ」
「やったー!」
「気に入って貰えた様だな」
こうして牛串を食べていると突如街の中に、
ゴーン、ゴーン
と鐘の音が響き渡る。
「何かの合図?」
「これは、13時を伝える教会の鐘の音だよ」
オルフェさんの言葉に店主がそう答えた瞬間、
「なにっ!もう、そんな時間なのか!」
とシャロさんが慌てた様子になった。
「もしかして、何か用事がありましたか?」
「あぁ、そうなんだ。案内すると言っておいて申し訳無いが、ここでお別れの様だ」
「気にしないで下さい。むしろ、こちらの方が色々として貰って申し訳無いですよ」
「それこそ私がしたいと思ったから気にしないでくれ!それじゃあもう行くから、また何処かで会えたらな!」
シャロさんはそう言って、急いで何処かに消えて行った。
シャロさんと別れた後は、ぶらぶらと街中を散策していた。
「やっぱり何処ら辺の国か分からないよね」
「ど、どこか遠くの国なんですかね?」
「それでもヒルズちゃんからの返事が無いのもおかしいよね?最悪、シェリーちゃんに瞬間移動を連続して貰うとか?」
「えー無理ですよー!死んじゃいます!」
「流石に方向も分からないから、そんな事しないよ」
などと話していると、城がある方向からワーッと歓声が聞こえた。
「そう言えば、催し物があるって言ってたけどそれの事かな?」
「とりあえず行ってみよ〜」
そう言うわけで城の側までやって来ると、周りには大勢の人が集まっており、皆んな首を上げて何かを見ていた。
その方向を見てみると、城のバルコニーに王冠を被った中年の男性が立っていた。
「皆の者、よくぞ集まってくれた!此度は皆に伝えたい事がある!」
その男性は、バルコニーからそう叫ぶ。
「我々、人間と魔族は長い間戦争状態が続いていた。しかし、互いに決着が付く事はなく疲弊するばかりだ。そこで私は、魔族と和平を結び、手を取り合う事を決めた!その始めの一歩として、今日は魔族の国の1つの代表者に来て貰った。皆にも紹介しよう。シャロ・フィールドだ!」
その男性がそう言うと、後ろから先程までのラフな格好では無くドレスで着飾り、尖った耳とツノを生やしたシャロさんがバルコニーに現れた。
「ま、魔族だったんですね・・・」
「私達みたいに、最初から耳とツノを隠してだね」
「全然気付きませんでした」
まさかの人物の登場に唖然としていた。
「人の王よ、紹介痛みいる。私の名はシャロ・フィールドと言う。今回は、先の宣言通り人間との和平を結ぶ為にやって来た。中には魔族を信用出来ない者もいるだろう。だが、それは我々魔族側としても同じ気持ちなのだ。だから、こうしてお互いに歩み寄り信用を得ていきたいと思っている。どうか、我々の未来の為にも協力して欲しい!」
シャロさんは力強く演説する。
初めはシーンと場が静まり返っていたが、ポツポツと拍手が聞こえてその音はだんだんと大きくなっていった。
「こ、これが事実なら大きな話題を呼びそうです・・・」
ラヴィさんの言う通りなのだが、戦争している人間の国と魔族の国は無いはずなので、何処かがおかしい。
そうやって訝しんでいると、バルコニーでは人間の王とシャロさんが握手をしようと手を伸ばしていた。
するとその時、バルコニー目掛けて何処からともなく、魔法と思われる大きな火の玉が飛んで行ったのだ。
それを見ていた民達からは、キャーと悲鳴が聞こえる。
そして遂には、ぶつかるという所で透明な何かにぶつかり火の玉は消滅した。
王や民は呆然とし、シャロさんは少し驚いた表情をしていた。
「く、曲者がいるぞ!捕まえるんだ!」
我に返った王は叫び、街中に居た兵士達が魔法が飛んできた方向へと走り出して行く。
「なんだったんでしょうか?」
「あの城に障壁でもあったのかなー?」
「お、王の表情からしてそれは無さそうですが」
話していると、犯人を探しに行った兵士達が1人の男を捕らえて戻って来た。
その男は、ツノが生えて耳も尖っており、一目で魔族だと言う事が分かる。
「貴様は何者だ!」
「はっ、人が偉そうに私に指図をするな!」
王が犯人を問い詰めようとしたが、そう言い返して口を利かない。
「ほう?なら私ならば良いのか?」
そこで、シャロさんが話し始めるが、
「はっ、同族を裏切ったお前にも話す事はない!」
と言う。
「裏切るも何も、私は魔族と人間全ての未来を考えて最善の道を選んだだけだ」
「人なんぞと手を組むなぞ、魔族の恥晒しめ!」
「なんとでも言うが良い。だが、貴様が何処の手の者かは吐いて貰うぞ?」
「誰が言うものか!」
魔族の男がそう言うと、暴れて兵を振り解き剣を奪った。
そのまま抵抗するかと思いきや、その剣を使い自らの胸目掛けて突き刺し絶命するのだった。
「なんだったんだ・・・」
「過激派な魔族だったね」
魔族の横入りにより、催し物はそのまま中止となるのだった。
「そう言えば、あの2人を守ったのは誰だったんですかね?」
「名乗れば、褒美とか貰えそうなのにねー」
と帰って行く人々の波に押されながら話していると、フードを被った男性と目が合った。
その男性の顔を見るや否や、
「大賢者さん・・・?」
と俺は言った。
顔が完全に瓜二つだったのだ。
フードの男性が俺の言葉に足を止めて口を開いた瞬間、俺は急に目眩がしフラフラとその場に倒れて意識を失うのだった。
〜〜〜〜〜〜
「あれ・・・?」
次に目覚めたのは、ラヴィさんの家だった。
窓から見える景色は、暗くなっていた。
「さっきまで、街の中に・・・」
俺が戸惑っていると、
「あっ、起きたー?」
と後ろからオルフェさんが声を掛けてきた。
「オルフェさん、俺達さっきまで・・・」
「ちゃんと覚えてるよ。知らない街に居たよね」
どうやら夢では無かったらしい。
「あとの2人は?」
「ラヴィちゃんとシェリーちゃんも起きてるよ」
「良かった。あっ、そうだ!ヒルズに連絡を」
そう思い立ち、ヒルズを呼んでみると、
「お呼びですか?」
とすぐさまやって来てくれたのだ。
「ねぇ、ヒルズ。今日のお昼に俺が呼び掛けたの覚えてる?」
「いえ?今日はこれが初めてですが?」
そう言われて、ますます訳が分からなくなった。
「コタケ君、とりあえず今日は遅いし一旦お家に帰って、明日また考えてみよう?」
「そうだね・・・ちょっと疲れちゃったからね」
そうして、オルフェさんの提案で1度家へと帰るのであった。
次回に続きます。
 




