謎の本
「ラヴィちゃーん!この本借りてもいーい?」
踏み台を上り、高い所にある本を手に取ったオルフェさんはそう言い、
「あっ、はい大丈夫です」
ラヴィさんが返事をする。
俺とオルフェさんに加えてシェリーも連れて、皆んなが借りていていた本をラヴィさんの家に返しに来て、気になる本が無いかを探していた。
「うはー!本がいっぱいですねー!」
「あんまり、はしゃぎ過ぎないでよ」
「はーい!」
大量の本を見て、シェリーは走り回っている。
「コ、コタケさんはどんな本をお探しですか?」
「うーん・・・子育ての本とかってあったりします?」
「こ、子育てですか?流石に置いて無いですね」
「ですよね」
子供が産まれる前に少しでも勉強しようと思ったが、そう上手くはいかない。
「ねーねー、ラヴィちゃーん?この本なーにー?」
「ど、どれですか?」
踏み台を降りてオルフェさんが持って来たのは、A4サイズの一冊の茶色の本だった。
タイトルなど何も書いておらず、表紙と思われる部分の真ん中に赤い宝石がハマっていた。
「こんな本あったかな?」
「えー、そんな怖い事言わないでよラヴィちゃん」
「す、すみません。でも、この中にある本は全て記憶していた筈なんですが・・・」
そう話していると、急に宝石が輝き出した。
「うわっ!なんだこれ!?」
少しの間、輝き続けると光は収まっていった。
「な、なんだったでしょうか・・・」
「気味悪いですねー」
「元の場所に戻してこよっか」
オルフェさんがそう言って本を手に取ろうとした瞬間、パラパラパラと本が勝手に開いて捲られていく。
すると次の瞬間、真っ白な強い光が俺達を襲う。
「うわっ!」
「「きゃっ!」」
こうして、視界が真っ白になり意識も失ったのだった。
〜〜〜〜〜〜
「はっ!」
次に目が覚めたのは、ラヴィさんの家の床・・・ではなくて、草原の真上だった。
空には雲ひとつない青空が広がっている。
「ここは一体・・・?って、そう言えば他の3人は!」
状況に戸惑いつつも、3人の安否を確認する。
幸いにもすぐ側で倒れており、気を失っているだけで特に問題は無さそうだった。
「しかし、ここは何処なんだろうか?」
改めて辺りを見回してみるが、一面に広がる草原に青空、それ以外には何も無かった。
「ヒルズの転移で帰れるかな?」
そう思い、ヒルズを呼んだのだが全く反応が無かった。
「んっ」
俺が色々と試していると、気絶していた3人が目を覚まして来た。
「皆んな、大丈夫?」
「何処ここ?」
「分からないけど、あの本の影響で何処かに飛ばされたのかも」
「ご、ごめんなさい。私の持ってた本のせいで・・・」
「ラヴィちゃんは悪くないよ。そもそも、ラヴィちゃんが覚えてない本ってなると、何かしらの秘密はありそうだよね」
「ヒルズを呼んでみたけど、全然応答もないし転移は使えなさそう。あと、聖剣とか入れたマジックバックも持って来て無いし、戦闘面じゃ役立てそうにないかも」
「そこは、私とラヴィちゃんで何とかするしかないね。シェリーちゃんも戦えないもんね?」
「はい、無理です!」
「大賢者さんから貰った魔法反射のネックレスはあるからある程度の自衛は出来ると思うよ」
「じゃあ後は、何処かに人の居そうな場所が無いかだけど・・・」
「パッと辺りを見た感じは無さそうだったけど」
「うーん、どうしよっか?ラヴィちゃん、何か良い魔法あったりする?」
「サ、サーチの魔法で動く物体を探せますけど、範囲も1kmと狭くて、さっきから使ってますが何も反応は無いですね・・・」
その魔法を使いながら、適当に動き回るしかないのかと考えていると、
「フッフッフ〜!皆さん、私の事をお忘れですか!」
とシェリーが言う。
「私はペガサスですよ!」
「そう言えば、めちゃくちゃ目がいいんだっけ?」
「そうです!なので、私が上空から辺りを見回してみましょう!」
「お願いしようかな」
シェリーは光出すと、人間の姿から翼の生えた馬の姿に変身した。
「それじゃあ、行って来ます!」
そのまま空高く飛び上がって行った。
「す、凄いです。ペガサスなんて初めて見ました」
ラヴィさんはシェリーの本来の姿を見て驚いていた。
そのまましばらく待っていると、シェリーが降りて来た。
「どうだった?」
「あっちに城っぽいのが見えました!」
そう言いながら太陽の反対側を指し示す。
「それって、どれくらいの距離?」
「う〜ん、50km以上は離れてましたかね?」
「50km・・・」
シェリーの言葉を聞いて、ラヴィさんは絶望している。
「あはは、ラヴィちゃん体力無いもんね」
「俺もそんなに歩けないと思うけど」
「え〜、じゃあどうする?」
「ねぇ、シェリー。アレ使って貰って良い?」
「アレって何ですか?」
首を傾げるシェリーに、
「瞬間移動だよ」
そう告げる。
「えー!いやですよー。それ使ったら太っちゃうじゃ無いですか」
シェリーは予想通りの反応をする。
「そこを何とか・・・」
「シェリーちゃん、私からもお願い?」
「うぅ〜・・・分かりました!やります!でも今回だけの特別サービスですからね!」
「ありがとう」
「これは帰ったらダイエットですね・・・」
シェリーは物悲しそうに言うのだった。
気を取り直して、3人でギュウギュウ詰めになりながらシェリーの上に跨る。
「それじゃあ皆さん、しっかり掴まっていて下さいよ」
翼を羽ばたかせるとフワッと浮き上がり、雲に近い所まで上昇して行った。
城が見えたという方向に体を向ける。
「じゃあ、行きますよー!せーのっ!」
シェリーが声を掛けた瞬間、目の前が真っ暗になったと思ったらすぐに元に戻り青空が広がる。
「到着です」
その言葉の通り、下にはさっきまでは無かった壁に囲まれた大きな街が広がっていた。
「す、すごいです!」
瞬間移動を体験したラヴィさんは嬉しそうにしている。
すると、ぐぅ〜っと大きくお腹の鳴る音がした。
「うぅ、お腹空いて限界です」
「あっ、ごめんね。すぐに降りていいから」
ひとまず街の外の草原に降りて貰い休憩をする。
シェリーは地面に降りた瞬間に辺りの草をジーッと見つめて、ムシャムシャと食べ始めるのだった。
人間の姿になれる事を知っているだけあって凄い違和感はあるが、本人は美味しそうに食べているので何も言えなかった。
「シェリーのおかげでここまで来れたけど、この先はどうしようか?誰かこの街に見覚えない?」
「私は無いかな〜」
「わ、私もです」
「この壁、一回見たら忘れない様な気がするんだけどね」
そう言うのも、街を囲っている壁は一部分が激しく崩壊していたり、表面が何かで焼かれた様に黒く焦げたりしているからだ。
「この痕、最近付いた物の様に見えます。壁も風化してい無いので、建てられたのも最近ですね」
「あの焦げてる部分は、火の魔法の痕に見えるね」
「じゃあ、つい最近戦いがあって何かしらの攻撃を受けたと」
俺達がそんな風に街の分析をしていると、突如俺達の背後から、
「もし?そこのお方達?」
と言う声が聞こえた。
その声に思わず振り返ると、そこには赤色の長い髪を靡かせた若い女性が立っていた。
その女性を見るや否や、
「ララちゃん?」
とオルフェさんは言ったのだった。
確かに、顔立ちや佇まいなどは俺達の知るララさんにそっくりだった。
「ん?ララ?私の名は、シャロ・フィールドだが?」
オルフェさんの言葉に、赤髪の女性はそう答える。
「フィールド・・・ララちゃんと一緒の名前だ」
「で、でも、ララさんに姉妹が居たとは聞いた事無いですし、お母様も亡くなっていると聞きましたが・・・」
2人が混乱していると、女性は続け様に、
「見た所、そちらの女性2人は魔族と思われるが、今からあの街に向かうのか?」
「そうだよ」
「では、そのまま見た目で行くのは止めた方が良い」
「どうして?」
「どうしても何も、人間と魔族は今戦争中だろう?そんな中で、ツノを生やして尖った耳をした人間が街を彷徨いたら、殺されるぞ?」
「「人間と魔族が戦争中?」」
その言葉を聞いた俺達は大きな声を上げた。
「おかしな奴らだ?小さな子でも知っている事だろう」
「ごめん、ちょっと時間頂戴!」
オルフェさんはそう言い、女性から距離を取る。
「どう思う?」
「う、嘘をついている様には見えませんでした」
「でも、今って表立って戦争してる所は無いよね?」
「うん、それにあの人、ツノとかは付いて無いけどララちゃんにそっくりで気になるんだよね」
「わ、私もです」
「ここは、あの人の話に合わせた方が良さそうだね」
そう結論付けて、女性の元へと戻る。
「ごめんね。私達、つい最近田舎から出て来たばかりで良く分かって無いんだよね」
「戦争の影響が無いとは、とんでもない秘境だな。是非、私も行ってみたいものだ」
と笑いながら言う。
「貴方の話だとツノと耳を隠せば問題ないんだよね?」
「そうだな」
「それじゃあ、ラヴィちゃんお願いできる?」
「わ、分かりました」
そう言いラヴィさんが魔法を展開すると、2人のツノがどんどん無くなり耳も人間と同じ形へと変形していった。
「これでどうかな?」
「うむ、問題なかろう」
「良かった。あのまま行ってたら危ない所だったよ!ありがとね、え〜っと・・・」
「シャロだ」
「ありがと、シャロちゃん!」
「ちゃん付けなんて久々だな!」
と豪快に笑う。
「ところで、そちらには中々特殊な馬がいる様だが、その子はどうするのだ?」
いつの間にか隣に戻って来ていたシェリーを見てそう言う。
「えーっと、この子は・・・まぁ、いいか。シェリー、人の姿になって貰って良い?」
「りょーかいでーす!」
馬がいきなり喋り出し、シャロさんは驚いた表情をしたがすぐに興味深そうな表情で、シェリーの変身を見ていた。
「ほぉー、これは凄いな。元々人間だったのか」
「いや元の姿はさっきの馬の状態で、今の人の姿が変身後なんですよ」
「何ともまぁ、奇怪な生き物だな」
「これで私も街に入れますね!」
「あぁ、そうだな。では、準備も整った事だから早速街に入るとするか!」
「「?」」
シャロさんの言葉に皆んなで首を傾ける。
「えっと、シャロちゃんも付いて来るの?」
「元々、この街に用事があったからな。ここで会ったのも何かの縁だろうし、慣れていないであろう君達に折角だから案内もと思ったのだが、迷惑だったかな?」
「うーん?むしろ、ありがたいかも」
「そうか、では少しの間ではあるがよろしく頼むぞ!」
こうして、右も左も分からない俺達を助けてくれた、シャロさんの厚意で一緒に街へと入って行くのだった。
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