出立
アリシアさんの告白を受けた翌朝、目を覚ましてダイニングの方へ行くとエレオノーラさん、アンさん、リビアさんが既に起きて来ていた。
「皆さんおはようございます」
と俺が言うと、いつも通り挨拶を返してくれたのだが、3人とも何やら妙にニヤついていたのだった。
「あの、何かありました?」
寝起きで顔とかに何かついてたりしたかなと俺が考えていると、
「いや、何、お嬢様にも遂に春が訪れたのだなと思ってな」
とエレオノーラさんが言うのを聞いた俺は固まってしまった。
何故もう知っているのだろうか・・・
「な、なんでその事をもう知ってるんですか・・・」
「昨日、お嬢様がコタケ殿の部屋を出た後、そのまま私の部屋までやって来てな、事の次第を教えてくれたのだよ」
「なるほど・・・そうだったんですか・・・でもなんでアンさんとリビアさんまで知ってるんですか?」
「それは今朝、私が起きてきた時に2人にもお嬢様とコタケ殿の関係を伝えたからだ。私も嬉しくてな、遂おしゃべりになってしまった」
「まぁ、今日皆さんにもお伝えしようとは思っていたので問題はないんですが」
(まさか、あの後にアリシアさんがエレオノーラさんの所に行って話ていたとは、よっぽど嬉しかったのかな?)
「ところで、アリシアさんは今どうしてるんですか?」
「あぁ、お嬢様ならまだ眠っているぞ。あの後に、喋り疲れて私の部屋でそのまま眠ってしまってな、あんなに幸せそうな顔を見たのは久しぶりだった」
「それは何よりです」
エレオノーラさんが言うには、アリシアさんはここに来る前に色々とあったせいで、笑顔を見せても少し無理をしている様な一面があったみたいだが、昨日の一件で以前までのアリシアさんらしい笑顔見せてくれたそうだ。
などと、話ているうちに後ろから、
「おはようございます」
とアリシアさんの声が聞こえてきた。
「アリシアさん、おはようございます」
そう俺が返事を返すと、アリシアさんはプクーっと可愛くほっぺを膨らませて、こう言った。
「ワタルさん、アリシアではなくてアリーでお願いします!」
(そうだった。昨日の帰り際にそう呼ぶ事になったんだった・・・)
「はい、ではもう一度」
「おはようございます。アリー・・・」
「はい!おはようございます!」
俺がアリーと呼ぶと笑顔で挨拶を返してくれた。
「あとは敬語も使わなくても良いんですよ・・・」
「ごめん。今までの喋り方で慣れちゃって、いつも通りになっちゃった」
「まぁ、慣れならしょうがないですね。でもこれからは恋人同士なのでもっと親密な感じで接してくれると嬉しいです」
とアリシアさんが頬を赤く染めながら言った。
「うん、気をつけるよ」
照れているアリーもとても可愛かった。
こんな感じで2人で話ていたところ、
「んん、お二人の世界に入っている所悪いのですが、朝食ができたのでご準備してもよろしいですか?」
そう言いリビアさんがやってきた。
お互いに赤くなりそそくさと席に着き、いつものように朝食を食べ終えた。
その後、一服したところで、エレオノーラさんが口を開いた。
「今後の事を全員で話し合いたいのだが、大丈夫だろうか?」
「分かりました。スライム達も呼んでくるので、ちょっと待ってもらって良いですか?」
そう言い、スライム達が暮らしている小屋に向かい全員連れてダイニングの方へ戻ってきた。
そして話し合いを始める前に俺から、
「あの、改めて報告なんですが、昨日からアリーと婚約という形でお付き合いする事になりましたのでお願いします」
と改まって全員に報告した。
エレオノーラさん達からは、拍手をもらい、スライム達はそれを聞いてピョンピョンと飛び跳ねて祝福してくれた。
「では、早速今後の事について話ていこうと思うのだが、まず明日からこの拠点を離れて近くの街の方に行こうと思うのだろうがどうだろうか?」
とエレオノーラさんが、いきなり凄い事を言い出した・・・
「あの、それはこの家を捨てて街で暮らし始めるという事ですか?」
アリシアさんがそう質問すると、
「いえ、そういう事では無く、数日間街に行き、今後暮らしていく為に必要の品々を買いに行きたいのです。今までは、どうにかマジックバッグ内にあったもので必要最低限の生活をしてこれましたが、これからずっとここに住むとなると足りないものがたくさんあるのです」
とエレオノーラさんが答えた。
うんうんとメイドの2人も頷いている。
「なるほど・・・確かにそうですね。俺は今まで特に何も感じてはいませんでしたが、女性には色々と必要になってくる物ありますからね」
「そういうことだ。それにこの拠点全体に必要な物も買いたいと思っているからな」
「でも、俺お金とか持ってないですけど・・・」
「それなら問題ありませんよ。嫁ぐ際に実家の方より生活に困らない様にと、それなりにお金を貰っていますので!」
アリーがそう言った。
「使っても大丈夫なの?」
「えぇ勿論大丈夫です。むしろここで使わなかったら意味がありません!」
ということでお金の問題は無くなった。
「じゃあ早速明日から街に向けて出発しますか」
「では、明日ここにいる全員で街へと向かおう」
「全員というと、スライム達もですか?」
エレオノーラさんの言葉にそう反応した。
「勿論だ。明日から向かう街はこの森から近い事もあり、冒険者も多く盛んな街なのだ。そしてそこの冒険者ギルドで、コタケ殿を魔物使いとして登録して、スライム達もテイムした魔物として登録しておきたいのだ。そうすることで、今後何かあった時には身分を提示することもできるし、スライム達も堂々と街の中に入れるからな」
(確かにそれは便利そうだが・・・)
「その間の、拠点の安全はどうするんですか?」
「あぁその事なんだが、恐らくこの拠点が襲われる事は、ほぼ無いと思う」
「それはまたどうして?」
「こないだのスライム達の戦闘見ていると、かなりの強さだったんだ。そしてこの拠点がある場所は、まだそこまで強い魔物が出る様な所でも無い上に、スライム達がここにしばらく住み着いた事で、他の魔物達が怯えて別の場所へと移って行ったはずなんだ。だから、コタケ殿もここに住んでいて、魔物に襲われた事はないだろう?」
「確かにここに住んでて一回も襲われた事はないですね」
「それに、その黒色のスライムなんだが、私も初めて見るんだ。重力系の魔法を操るスライムというのは聞いたことも無いし、他のスライムを従えている事から、さらに強い魔物なんだと思う」
(あ、やっぱり、クロって凄い魔物なのか・・・)
「それでも多少の不安はあるだろうから、必要最低限の措置として、街へ向かう前に拠点の入り口を塞いで中に入れない様にはしていこう思う」
「まぁ、それなら少し安心なので明日の出発前にそうしていきましょう」
こうして、明日以降の街での詳しい日程を決めて行った。
そして翌朝、いつもよりも早く起きて準備をし、拠点の入り口を土スライムの魔法で塞いでもらい、俺たちは街に向けて出立したのだった。