メアリー:過去
ミスって途中で投稿してしまったので、再投稿し直しました。
「始祖様、本日のご予定は・・・」
メアリー・ホーネスト、それが私の名前だ。
だが今は別の呼ばれ方をしている。
それが始祖だ。
事の発端は私が8歳の時だった。
ヴァンパイア族は、8歳を迎えるのと同時にその者の能力値を調べる。
その結果によって、その者の格が決まり今後の人生を左右する。
当然、私も周りと同じく村にやって来ていた調査官に能力を見て貰う事となった。
両親は、特に強い力を持っているわけでも無く農民として貧しく暮らしていた。
私もそうなるのだろうと思っていた矢先、調査官が何やら興奮し始め、両親と話し込んでいた。
そして、次に父に言われた言葉は、
「じゃあな」
だった。
私は訳も分からず、調査官の馬車に乗せられ王都に連れて行かれた。
村を去る際、調査官からズッシリと重そうな皮袋を手渡されていた両親が見えて、私は売られたのだなと悟った。
王都にやって来るとすぐに王城に連れて行かれ、玉座に座る王の様な人物に多くの者の前でこう告げられた。
「始祖様の復活、心よりお待ちしておりました」
始祖と言えば、絶大な力を誇りヴァンパイアの国を作った大昔の者だ。
だが、私はただのメアリーだ。
周りの人達が跪き、意味が分からない私は泣き出しそうになるがグッと涙を堪える。
「始祖様の力はまだまだ高まっていない様に思われますので、これからは修練に励んで頂きます。衣食住に関してはこちらで提供させて頂きますのでご安心を」
そのまま別室に連れて行かれ、ボロボロだった衣服から綺麗なドレスに着替えさせられる。
そして、その日から私の人生は狂い出した。
毎日、血の滲むような修練をしてそれが終わった後の夜にはパーティーに出席して、まるで神の如く一方的に崇められる。
私はだんだん心を閉ざしていき、必要な事以外は喋る事は無くなった。
それでも、ここにいれば衣食住は保証されるので逃げ出す事は無かった。
それに、逃げ出した所で両親は私を売り払ったのだ帰る場所も無かった。
そんな生活を続けて10年。
18歳になった私は、相変わらず同じ毎日を繰り返していた。
「以上が本日の日程となります。本日も夜からパーティーがございますので、ご出席して頂きます」
今日の日程を伝えた使用人が、部屋から出ていき1人になる。
今の私の役目は、国内の貴族への挨拶回りだ。
この10年間でかなりの力をつけて、私に勝てる者は居なくなってしまい修練は無くなった。
周りは始祖が完全に復活したと囃し立てたが、全く嬉しく無かった。
重い腰を上げて椅子から立ち上がりドレスに着替えて、外に用意されていた馬車に乗り込む。
挨拶回りとは言うが、
「おぉ、始祖様!どうか我らの家にもご加護を!」
と神の様に崇められ回るだけで、私は一言も発しない。
でも、それだけで彼らは満足するのだ。
そんな風に各家を回り夜になる。
息つく暇もなく、パーティーへと出席する。
このパーティーにも慣れたものだ。
私はただ椅子に座り、他の者達からの挨拶を聞くだけなのだから。
「始祖様、これからもよろしくお願いします」
「始祖様、私達にご加護を」
と最後には皆決まってそう言う。
だが、私は始祖では無いのでそんな事は出来ないと思いつつ、黙ってそれを聞く。
そんなパーティーが続いている中で、会場が少しざわつき始めた。
何やら外を見て騒いでいる様で、
「なんだアレは?」
「あんな月、見た事ないぞ!」
そんな声が聞こえて来る。
私も釣られて窓の側まで近寄ると、上空には真っ赤に染まった月が浮かんでいた。
確かにあんな月は今まで見た事は無かったが・・・
その時、ドクンと心臓が強く鼓動する。
「ウッ・・・」
地面に座り込んだ私を見て周りからは、
「始祖様?」
「始祖様が倒れたぞ!」
と声が聞こえる。
心臓の鼓動はだんだんと早くなり、呼吸が苦しくなって来る。
「助けて・・・」
そこで私の意識は途絶えた。
「ハッ!」
次に目を覚まし飛び込んでくる情景に絶句する。
城は瓦礫と化し辺り一面には、血の海が出来上がっている。
周りにはヴァンパイアと思わしき骨も散らばっている。
(なにこれ・・・どう言う事・・・)
あまりの惨状に泣き出しそうになると、突如そう遠く無い所から、
「放てー!」
と言う言葉と共に無数の魔法が私に向けられて飛んでくる。
しかし、魔法は全てシールドに弾かれて無意味と化す。
魔法が来た方向を見ると、同族がまるで化け物を見るかの様な目をして、私を取り囲んでいた。
「放てー!放てー!」
更に魔法が飛んでくるが全く意味がない。
(やめて、攻撃しないで!)
そう思い叫ぼうとしたが声が出てこない。
しかも、体が勝手に動き始めて取り囲んでいる同族の元へ向かう。
「ひぃ〜、逃げろー!」
私が近くまでやって来ると逃げ出すが、魔法が発動して心臓を貫いていく。
ヴァンパイアと言えど心臓を貫かれれば息の根も止まる。
吸血をする事である程度は回復出来るが、回復以上の攻撃を受ければ意味も無い。
今の私の攻撃はそれ程強力なのだ。
(やめて・・・お願い・・・)
言う事を聞かない自分の体にそう言い聞かせるが、止まる事はなく同族を次々と狩って行き、私の意識は再び途切れるのだった。
そして、次に目を覚ましたのは知らない森の中だった。
辺りに人の気配は無く、空を見上げてみると赤かった月もいつもの様に白い輝きを取り戻していた。
体も問題なく自分の意思で動かす事が出来ている。
「どうして、あんな事に・・・」
あの惨状を思い出して涙が溢れて来る。
嗚咽しながら地面に座り込んでいると、目の前の草むらからカザガサと音がし出した。
立ち上がり警戒をしていると、そこから帽子を被り長い杖を持った1人の魔法使いの様な若そうな女性が現れた。
涙で視界が霞み顔はよく見えない。
「あら?ここに居たの」
「誰!」
「貴方に攻撃を加えるつもりは無いから安心して」
「そんなの信用できない」
「そうよねぇ・・・でもね、貴方は今の自分が置かれている状況の事は理解出来てる?」
「知らないし、知りたくもない!」
「まぁ、とりあえず聞きなさい。貴方は一晩でヴァンパイアの国を滅ぼしたのよ。それも1人でね」
自らの目で同族を殺した瞬間を見たが、国を滅ぼしたと聞いて眩暈がする。
「周辺の国で急遽調査隊を派遣した所、原因が貴方だと判明して討伐隊を編成したわ。貴方は何万と言う兵士に追われている状況なのよ」
「なにそれ・・・そんな事を知っているって言う事は、貴方もその1人なんでしょう」
「えぇ、そうね。私も討伐隊に呼ばれた1人だわ」
「やっぱり嘘じゃない!」
「確かに討伐隊には参加しているけれど、貴方を殺すつもりは無いわ。と言うよりも正確に言えば殺せないかしら?」
「どう言う事?」
「貴方が強すぎるのよ。ヴァンパイアの国の惨状を私も目にして来たけど、到底1人で出来る物では無かった。でも、軍同士が戦った様痕跡は無く、かろうじて虫の息だったヴァンパイアの最後の言葉が始祖様なのよ。きっと貴方がその始祖なのでしょう?」
「違う!私は始祖なんかじゃない!私は、私は・・・ただのメアリーでいたかった」
今までの人生を思い出して、再び涙が溢れて来る。
「そう・・・きっと辛い人生を送って来たのよね」
「ただ普通の人生を送りたかっただけなのに・・・」
自分でもハッキリと分かるほど悲痛な声が森に響き渡る。
「貴方が私を殺さないなら、殺す事の出来る他の人を連れて来て」
「うーん、それは無理かしら。これでも私、今の世界で一番強い人だから。貴方が居たから1番では無かったけれども」
「貴方は何者なの?」
「周りからは賢者って呼ばれてるかな?」
「確か、魔法を極めた者が貰う称号の事・・・」
「極めたなんて、私なんてまだまだだよ」
その女は照れ臭そうに言う。
「そんな賢者の貴方が私を見つけ出した理由は?」
「本当は貴方の動向をチェックして仲間に教えようとしていたの」
そう言われて、再び警戒をする。
「でもね、泣いてる貴方を見て気が変わってね。ある提案をしに来たんだ」
女はゴソゴソと服をまさぐると、1つの結晶石の様な物を取り出した。
「貴方はきっと死にたいと思ってるはずだけど、私としてはもーちょっと生きてみても良いと思うんだ。まぁ、もしかしたらヴァンパイアだし見た目の割には長生きしてるかもだけどね。でも、今の時代を貴方が生きて行くのは少し難しいと思うの・・だから、少しの間封印されてみない?」
「封印?」
「そう、この結晶石は封印石って言って、大賢者って言う凄い人が作った物なんだ。私にはまだまだ作れそうに無いけど、使い方は頑張って調べたんだ。どれだけの期間持つかは分からないけど、貴方の事を知っている人がいない世界で新しい人生を歩んでみたらどうかな?少し寂しいと思うかもしれないけど」
「どの道、私に家族と呼べる人居なかったから寂しいなんて思わないけれど、何故そこまでするの?」
「うーん、さっきも言ったけど泣いてる姿を見ちゃったからね。貴方が本心であんな事をするとは思えなかったから。あっ、ちなみにこれは私の長年の感ね」
「貴方、何歳なの?」
「女性にそんな事聞いちゃダメだよ〜。まぁ、ボカして言うなら100年位かな〜」
何となくだが、もう少し長く生きているのだろうと思う。
「それで、私の提案どうかな?信用出来ないなら私を殺して何処かに逃げても良いけど?」
「お人好しなのね・・・」
「そうかな?」
「えぇ、そうよ。良いわ、貴方の提案受ける事にする」
「本当!」
「封印の話が嘘だったとしても、もうどうでも良いもの」
「うーん、凝り深いねぇ」
「逆に貴方は知らない人からの提案を簡単に受けるの?」
「そんなわけないじゃん!」
「はぁ、何だか貴方と話していると頭が痛くなってくるわ・・・早く初めて頂戴」
「ひどー」
アハハと女は笑う。
「それじゃあ始めるねー」
女は魔法を唱え始め、封印石が光出す。
「最後に会えたのが貴方で良かった気がする」
「嬉しい事言ってくれるね〜。私も貴方が思いの外、良い子で安心したわ」
涙と夜の暗さで、最後まで顔をハッキリと見える事は無かったが、女の表情は柔らかく思え、
「貴方の未来が良きものでありますように」
女はそう言い、私は意識を手放すのだった。
〜〜〜〜〜〜
ドシン、ドシンという大きな音と共に、私はベッドの上で目を覚まして辺りを見回す。
「ここは・・・そうだった」
長い夢から覚めて、魔の森の家にいる事を思い出す。
ベッドから起き上がり、下の階に向かおうとすると窓の外に大きなドラゴンが現れて一瞬ドキッとするが、
「もう、許して〜」
「許さんのじゃー!」
とオルフェさんとティーフェンさんの声が聞こえて安心し、リビングへと向かう。
「おはよう」
「おはようございます」
この家の主、コタケさんがソファに座っている。
「あの、外の惨状は・・・?」
「あっ、やっぱりうるさかった?なんか、オルフェさんがティーが大事に取っておいたお菓子を食べちゃったみたいでさ、怒って追いかけ回してるんだよね」
何だか思っていたよりも大事な理由では無く、思わず笑みが溢れてしまう。
「うん、元気そうで良かった」
「私がですか?」
「さっき、アリーに起こしに行って貰ったんだけど、うなされてて体を揺さぶっても起きなかったて言われて心配してたんだ」
時計をよく見てみると、もう少しでお昼時になりそうな時間だった。
「ご心配をおかけしました」
「大丈夫なら良いんだよ。でも、何かあったら言ってね?」
「はい、少し昔の夢を見ていただけですので」
「そっか・・・」
コタケさん達には、大まかに何があったのかを初めに伝えているので、察してくれたのだろう。
とそこに、煤まみれになったオルフェさんとまだ少しご立腹なティーフェンさんが戻って来た。
「明日の帰りに絶対買って来るんじゃぞ!」
「はい〜、分かりましたー!」
そんな2人がリビングに入って来て、
「おぉー、メアリーよ起きて来ていたのか!」
私を見てそう言う。
「ティー達が、うるさかったから起きちゃったんだって」
「あ〜あ、ティーフェンちゃんのせいだー」
「何を〜、元を辿ればお主のせいじゃろうが!」
2人が再び喧嘩を始めると同時にアリシアさんがやって来て、
「お2人ともそこまでにして下さい!もう、お昼ご飯になりますので、お2人とも一度お風呂に入って来て下さい」
「「は〜い」」
素直にお風呂に向かう2人を見て、うんうんと頷いている。
「あっ、メアリーさん!きっとお腹空いてますよね?あと少しで準備が出来ますので、ちょっと待っていて下さい」
確かに良い匂いが漂って来る。
それに釣られてなのか、他の人達も集まって来てリビングは一気に騒がしくなる。
ここには種族も年齢も違う者達が集まっているが、皆が自分の出来る事をし協力して生活している。
あの国で、始祖と崇められていた時とは大違いだ。
ここでは、私はメアリーで居られる。
「これもあの人のお陰なのかな?」
最後まで顔は見えなかったが、あの時に私を封印してくれた賢者を名乗る女のお陰で、ここの人達に会えたのだ。
私は、ありがとうと感謝して今日も楽しい1日を過ごすのだった。




