エレオノーラ:外堀
「どうしてこうなった・・・」
私の家で椅子に座って、メアと私の母が楽しそうに話しているのだった。
何故こんな事になったのかと言うと、遡る事2時間前。
この日、大使として再びアリシアお嬢様の実家に訪れていたメアの護衛役に選ばれて、私も1日こちらに来ていたのだ。
何でもメアが直接指名してきた様で、これを口実にただ単に私に会いたかった様だ。
「オーウェン様との会談も終わりましたし、後の時間は自由ですね」
客室で暇そうにしながら、私の方をチラチラと見てくる。
「それなら、手合わせでもするか?」
と言ってみたが、とても微妙な顔をされた。
「それも良いんですけど、折角ならこの街を視察したいなぁ〜と」
「まぁ、それくらいなら構わないが」
「やった!では、早速デートに参りましょう!」
さっきは視察と言っていた様な気がするが、いつの間にかデートにされていたが気にしない。
オーウェン様に許可を貰い屋敷の外に出る。
「まずは何処に向かいましょうか?」
「何処か行きたい店とかあるか?」
「うーん、そうですね・・・では、エレオノーラさんに私の服を選んで欲しいです!」
「服か、私も詳しく無いんだが・・・いや、ちょっと待てよ、1つだけ良い店を知っているぞ」
「まぁ!流石エレオノーラさんです!」
そうして、私が案内した店の中に入ると、
「いらっしゃいませ〜」
といつもより高い声色のオルフェが現れた。
そう、ここはオルフェが経営している店なのである。
「って、お客さんかと思ったらエレオノーラちゃんとメアちゃんか〜」
「今日は客として来たんだ」
「そうなんだ〜。ではお客様、今日はどういった服をお探しでしょうか〜?」
「うむ、メアに似合う服を選んでくれ」
「はーい!それじゃあメアちゃん、かくごー!」
「えっ!えっ?」
オルフェがジワジワと近づき肩をガシッと掴むと、そのまま試着室へと連れて行かれるのだった。
しばらく待っていると、1枚の大きな布で体を隠したメアが出て来た。
「それじゃあ、お披露目ー」
オルフェが布を取り払うと、白いロングスカートに薄いピンク色の長袖のニットを着ていた。
「どうでしょうか?」
「似合っている。普段の凛としたイメージとは違って可愛い印象があって新鮮だ」
「あ、ありがとございます」
とメアは赤面する。
「じゃあ、今まで着てたドレスはアリシアちゃんの実家に送っておくから、そのままデート楽しんでねぇ〜」
「オルフェさん、ありがとうございました!」
そのまま店を後にする。
「次は何処に向かうのですか?」
「次は露店でも見に行こう」
そうして、大通りを歩いて露店が集まっている広場へと向かう。
「わぁ、人で賑わってますね」
「ここには色んな物が安く売られているからな、生活の中心にもなっているんだ。人も多いから、はぐれない様に・・・」
そう注意をしながら歩き、周りを見るとメアの姿が無かった。
「私とした事が・・・手を繋ぐべきだったか」
早速メアとはぐれてしまった私は、来た道を確認しながら戻って行き、広場の入り口まで来たがメアの姿は見当たらなかった。
「メアなら大抵の者を圧倒出来る力を持っているが・・・」
やはり心配にはなる。
見て探すには人が多過ぎて限度があるので、道行く人や露店の店主に聞き込みをする事にした。
「ここら辺で狼の耳と尻尾を生やした、獣人の女性を見なかっただろうか?」
「俺は見てねぇな」
1人目はダメ。
「見てないですね」
2人目もダメ。
「えぇ、見ましたよ。確か、あっちの方を歩いていました」
3人目でそれらしき情報があり、その場に向かう。
「獣人・・・おぉ、確か女の人と歩いていた様な気がするな」
「ん?それは私か?」
「いや?あんたじゃねぇが、なんか似てる様な気がするな」
「くっ、何処に行ったんだ」
話を聞きつつ歩き回っているが、やはり見つからない。
更に聞き込みを続けていくと、
「その嬢ちゃんなら、あっちの裏道に入って行ったぞ?」
何故そんな所に行ったのか分からないが、その情報を信じて道を進んで行くと、目撃情報も増えて行った。
だんだん近づいて来ているのを感じ、遂には1つの家の前に辿り着いたのだが・・・
「何故、私の実家が・・・?」
その辿り着いた先と言うのが、実家だった。
恐る恐る扉を開けて中に入ると・・・
楽しそうに話すメアと母のメルローズがいたのだった。
〜〜〜〜〜〜
「どうしてこうなった・・・」
「あっ、エレオノーラさんお帰りなさい!」
「あら、エレオノーラ。遅かったじゃない」
「お帰りなさいではない。何故、私の母と一緒なんだ」
「広場ではぐれた後、エレオノーラさんを探そうとして匂いで探ろうとした所、とても良く似た匂いが近くでして、そこに向かうとエレオノーラさんに似た女性が居たので話しかけたら、お母様だったのです!」
「はぁ、目を離した私が悪いが心配したのだぞ」
「すみません、すぐに合流すれば良かったのについ楽しくなってしまって」
「そうよ、メアちゃんは悪く無いわ。私が無理やりお家に招いたんだもの」
「いえいえ、お母様は悪く無いですよ!」
「いやいや、メアちゃんこそ」
と押し問答を始めたので、それを止める。
「分かった分かった。無事だったから、もうこの話は止めにしよう」
「やっぱり好きな人の安否は大事よね」
「は?」
「あら?だって2人ともお付き合いしてるんでしょう?」
「してないから!」
「そうです!」
母が急にそんな事を言い出して、私は否定したがメアが肯定する。
「そうなの?じゃあ、エレオノーラはメアちゃんの事嫌いなの?」
「いや、そう言う事じゃないけど・・・」
「じゃあ好きなんでしょ?」
「う〜、好きだけど、でもそれはまだ友達としてと言う意味だから!」
「うふふ、そう言う事にしておきましょうか。メアちゃん、聞いた?まだ、ですって」
「はい、しっかり聞きました!」
何かしてやられた気分だ。
「そもそも、何でメアの事を警戒もせずに家に招いたんだ・・・」
「当然、アリシアお嬢様から聞いてましたから!」
「じゃあ付き合っているというのも」
「アリシアお嬢様からよ!」
「はぁ、これは帰ったらお説教ですね」
〜〜〜〜〜〜
「くしゅん!」
「アリー、大丈夫?」
「ただのクシャミなので大丈夫ですよ」
「体調悪かったら言ってね?」
「勿論です。きっと今のは、何処かで誰かが私の話をしていたんでしょうね」
「エレオノーラさんじゃない?メアさんと会ってるから話題に上がってたり」
「そうですね、きっとエレオノーラが私の事を褒めているのでしょう!」
自信満々に言うが、その後帰って来たエレオノーラさんに小一時間お説教されるのをアリーは知る由も無かった。
〜〜〜〜〜〜
「ところで、メアは何の話を聞いていたんだ?」
「あっ、そうでした!お母様、続きをお願いします!」
「えぇ、そうね。確か、エレオノーラが年上の剣士に負けて泣いて帰って来た所からだったわね」
「はい!」
「ちょっ!勝手になんて話を・・・」
「負けて帰って来た日は、いつも私のベッドに入って来て泣きながら眠ったのよ。もう、あの時のエレオノーラは可愛かったわ〜」
「わぁ、可愛いですね!」
私の恥ずかしい過去を赤裸々に語るのだった。
その後も、メアは母から沢山の話を聞き、いつの間にか夕方になっていた。
「はぁ〜、沢山話したわ!」
「沢山聞けました!」
「それは良うございましたね」
と満足そうな2人に対して私は不貞腐れる。
「まぁまぁ、子供の頃の事なんだから良いじゃないの」
「それでも普通に恥ずかしいんだ!」
「珍しくエレオノーラさんが、狼狽えてます」
「それにしても、メアちゃんもとても優しそうな子で良かったわ」
「ありがとうございます。ところで、お母様は私が女である事に反対されないのでしょうか?」
「私は娘が幸せならそれで良いのよ。孫の顔が見れないのは残念だけど、それはアリシアお嬢様の子で満足だから大丈夫だわ!だから、エレオノーラの事を幸せにしてあげてね」
「はい、必ず!」
「エレオノーラも、メアちゃんの事を大切にする様に!」
「分かっているが、なんでそんな娘が結婚する時に送る様な言葉を・・・」
なんだか少しずつメアに外堀を埋められている気がする。
メアの家族にも会ってるし、今日は私の母がメアと・・・考え過ぎか?
ともあれその日は想定外の事があったものの、メアはとても満足した様で、翌日の帰る時までニコニコとしているのだった。




