良い所
ペガサスのシェリーが我が家で暮らし始めて数日後。
キッチンからガシャーンと大きな音と共に。
「すみません!すみません!」
と謝る声が聞こえて来た。
しばらくすると、トボトボとキッチンの方からシェリーが歩いて来る。
「うぅ、私はダメな美人です・・・」
どうやら料理を手伝っていて何か失敗した様だが、何故美人と言う所は外さないのか・・・
「まぁ、初めてだから仕方ないないよ」
何でも人の姿になるのはこれで3回目の様で、人の生活には慣れていないそうだ。
「私は戦えもしないですし、普段の生活でお役に立たないと」
「透明化する魔法しか使えないんだっけ?」
「私達は翼が生えて飛べる所以外は普通の馬ですからね」
「勝手に勇者とかを背中に乗せて、魔王の討伐に協力してる様なイメージがあったよ」
「そんな魔王と戦うなんて無理ですよ!遭遇しただけでも漏らしちゃいますよ」
「一応、オルフェさんも魔王だけどね」
「あの人は何となく大丈夫です!」
と話していると上からハックションと大きなくしゃみが聞こえた。
「しばらくは慣れないだろうけど、頑張るしか無いね」
「ご期待に添える様に頑張ります!それから、コタケさんも空を飛びたくなったらいつでも言って下さいね」
「あっ、うん・・・機会があればね」
と俺は微妙な反応を示す。
それには理由があり、前日にオルフェさんを乗せて飛んでいる所を見たのだが、ティーとは違い体が小さいので空中で一回転を決めたりとアクロバティックな動きをしていた上に、逆さになった際にオルフェさんを空中から落としているのだ。
途中できちんと受け止めてオルフェさんも楽しんでいたが、流石にあれは勘弁だ。
「それにしても、ここにいる皆さんは何かに秀でていて凄いですよね。自身無くなっちゃいます」
「シェリーの良い所とか出来る事とかを自分で挙げていってみたら?」
「私の良い所ですか・・・顔が良い!」
「なんでそれが1番に出てくるの・・・」
「あとは空を飛べる事とか透明化の魔法を使える事ですかね」
「それで他には?」
「うーん、あとは瞬間移動が出来る事と・・・あっ!草の目利きが出来ます!」
「うんうん、うん?ごめん、今なんて言った?」
「草の目利きですか?美味しい物と不味い物が見ただけで分かるんですよ!良かったら試します?」
「いやそれも凄いとは思うけど、その前に言った事なんだけど」
「瞬間移動ですか?」
「そう、それ!それって、転移みたいな物なの?」
「転移と言うと、何処にでも一瞬で移動出来るって言うやつですよね?」
「まぁ、そうだね」
「あはは、私の瞬間移動はそんな便利じゃないですよ。せいぜい視界に入る場所に一瞬で移動出来るだけですよー」
シェリーは笑いながら軽く言うが、かなり凄い事なのではと思う。
「それ結構凄い事だと思うけど・・・ちなみに視界に入る場所って言ってもどれくらいの距離なの?」
「うーん、前に使った時は100km位は移動しましたかね?」
「100!?そんな距離を一瞬で移動したの?視界に入る場所だけなんだよね?」
「私、目が良いので遠くまで見えるんですよ!あっ、これも良い所ですね」
良い所が増えましたとマイペースに言うシェリーを他所に、瞬間移動について考える。
普通ならそんな力を持っていれば自慢できるだろうが、何故すぐに言わなかったのだろうか・・・
「もしかして、その力を使うのに何かを代償にするとか?」
「気付きましたか・・・」
どうやら何か理由がある様だ。
それだけ強力なら命や何かを代償にしそうだが・・・
「実は、この力を使うと・・・めちゃくちゃお腹が空くんですよ!」
「はい?」
「力を使ってお腹が空いて、その分ご飯を食べるんですよ。そしたら、私太っちゃうんですよ!前もそれで痛い目をみたんです」
「えーっと、太るからその力は使いたく無いと?」
「はい、そうです!」
「はぁ・・・」
そう断言するシェリーに思わず、溜息を吐く。
「やっぱり残念美人・・・」
「あー、ひどいですー。乙女にとって脂肪は天敵なんですから!」
ヒルズの転移はゲートを開くのに少し時間が掛かるが、この力の場合は戦闘でピンチに陥った時に一瞬で戦線から離脱出来たりなど、かなり有用な気がする。
ただ、本人が使いたがらないので無理強いは出来なさそうだ。
「もしかしたら、何か有事の際にその力を使って貰うかもしれないけど、その時は良いよね?」
「そうなったら、仕方がないですね。その時は、じゃんじゃん私を頼って下さい!」
と胸を張る。
「ちなみにその瞬間移動って連発出来るの?」
「いくらでも使えますよ。その分、お腹は減りますけど!」
連発も出来て有用であるとは思うのだが、やはりお腹が減るのは重要らしい。
「ともかく、シェリーにも良い所は沢山あるんだから自身持って頑張ろ」
「はい!なんだか、今なら何でも出来る様な気がして来ました!ちょっとリベンジしてきます!」
と再びキッチンに向かったのだがしばらくすると、
「ぎゃー!ごめんなさーい!」
と言う声と共に、全身粉まみれで真っ白になったシェリーとアンさん達がお風呂へと向かう様子が見えて、シェリーが人の生活に慣れるのは、まだまだ時間が掛かりそうだなと思うのであった。




