恩返し?
ある日、ティーと一緒に動物を捕まえる為に森の中に仕掛けていた罠の確認をしていた。
「今日は収穫ゼロだね」
「動物達も学んできておるんじゃろうな。仕掛けを変えたりせんとダメかもしれんの」
そう話しつつ最後の罠へと向かうと、そこでありえない物を目にする。
白い毛並みに背中から翼を生やした馬が罠の網に掛かっていたのだ。
馬はこちらの存在に気がつくと、
「もし、そこのお方達。良ければ私を助けてくれませんか?」
と喋りかけてきたのだった。
「えっと、何アレ?」
「ペガサスじゃな。めちゃくちゃレアな生物で姿を現すこともほぼ無いんじゃがな」
「なんでそんなのがこんな所に」
「よくぞ聞いてくれました!実は魔法で姿を消しながら空を飛んでいたのですが、疲れて休憩をしようとこの森に降り立ったら罠に引っ掛かってしまい、助けを求めて姿を現していたんです」
興奮しながらそう語った。
「私だけでは抜け出せないので、どうか手伝って下さいませんか?」
「うーん、どうするかの?妾達も収穫がゼロなんじゃ、ペガサスの肉を食うのもアリじゃないかの?」
「ヒヒーン、私は食べても美味しく無いですよ!そこのもう1人のお方、そちらの方をお止め下さい!」
「ティー?」
「分かっておる冗談じゃよ」
「ふぅ、助かりました・・・」
「まぁ、ペガサスの肉は食べてみたいがの」
「ヒヒーン!ヒヒーン!」
とティーの冗談に暴れるペガサスを落ち着けて、罠から解放する。
「人間さん。助かりました」
「俺達が仕掛けてた罠だったので」
「いえいえ、それでも助かりましたので。このご恩はいずれまた」
ペガサスはそう言って、空へと消えていった。
「帰ろっか」
そんな不思議な体験をして、俺とティーは家に帰るのであった。
〜〜〜〜〜〜
それから数日後の昼下がり。
皆んなとリビングにいると、コンコンと家の扉をノックする音が聞こえた。
「俺が出てくるよ」
ここに来る人達は、ほぼ決まっているので誰かなと思いつつ扉を開けそこには・・・
花嫁の様な真っ白な衣装を身に纏った、透き通る様な白い髪にブルーの瞳をした女性が立っていた。
「こんにちは、貴方の元に嫁ぎに参りました」
その女性はいきなり、とんでもない事を言い放ってくる。
「さぁ、是非とも私を貴方の妻に・・・」
「えっと、この間のペガサスさんですか?」
何となくそう思い聞いてみると、
「うぐっ!い、いえ違いますよ?私は至って普通の人間です」
と明らかに動揺して目をキョロキョロと泳がせている。
すると、遅い俺を心配したのか後ろからアリーがやって来た。
「ワタルさーん、大丈夫ですか・・・あら?とても綺麗な方ですね」
「そちらの方は・・・?」
アリーを見てそう言った女性に、
「妻です」
そう言うと、ガクンと膝と手を地面について、
「まさかの妻帯者・・・」
と何故か落ち込むのだった。
「えーっと、どうしましょうか?ひとまず中に入って貰いますか?」
「まぁ、放ってはおけないしね」
「まぁ、なんとお優しい方達だ。では、遠慮なく入らせて頂きます!」
少し元気を取り戻したのか、そのままリビングに通した瞬間、
「ヒヒーン!」
と女性は馬の鳴き声を上げたのだった。
「お主、この前のペガサスでは無いか!」
「い、いえ違います!私は普通の人です」
どうやらティーに驚いて声を上げた様だ。
「無理があるじゃろ、今ヒヒーンって言っとるし」
「ヒヒン・・・」
少し間を空けて、女性が落ち着いたところで詳しく話を聞く。
「お察しの通り私は、先日助けて頂いたペガサスです」
何となく似た様な雰囲気があったので分かったが、ペガサスの状態を見ていない人達は本当か疑っている。
「それでどうしてこの家に?」
「数日間この森を飛び回っていたら、お姿を見かけてお礼にと思ってやって来ました!」
「お礼にね・・・そのお礼がさっき言った事ですよね?」
「何と言われたんですか?」
「嫁ぎに来ましたって」
それを聞いて皆んなポカーンとしている。
「なんでそれがお礼になるんじゃ」
「私の様な美人が嫁ぎに来たら人間は喜びますよね?つまりはそういう事です!」
「美人と言ってもペガサスじゃろ」
「バレないと思ったんですよ。なのにすぐにバレるし、奥さんもいるしで、踏んだり蹴ったりですよ」
「我儘なペガサスじゃの」
「あの、そもそもペガサスって人の形になれるのでしょうか?」
とメアリーさんが疑問に思ったのかそう聞いた。
「私はそこらのペガサスと違って優秀なんで出来るんですよ!それに長く生きてもいますしね」
「そんな優秀で長く生きてるペガサスが、何故いきなり人間に嫁いで来るんだ?というかそもそもペガサスって人間に嫁ぐものなのか?」
とエレオノーラさんが言う。
「いえ、ペガサスはペガサス同士で交配しますよ。そうじゃなくても他の種類の馬とかと交配しますね。あっ、ちなみにペガサス以外で1番人気はユニコーンですね!私達に雰囲気が似てるので」
「そうなると、ますます分からなくなってくるのだが」
「もしかして、行き遅れ?」
シエルさんが、ボソッとそう呟くとプルプルと震えながら、
「そうですよー!どうせ私は行き遅れのオバサンなんです!他の仲間達に見向きもされないから人間の姿をして嫁ごうとしたですよ!貴方、私の様に綺麗な翼をしてるのに結構痛いところつきますねー」
「ありがとう」
シエルさんは綺麗な翼という部分しか聞いていなかったのか何故か感謝を述べる。
「どうせ私は魅力の1つも無いですよー!」
そんな泣き言を言う女性を見て、
(なんと言うかこれは・・・)
「残念美人だね!」
と俺が思った事をオルフェさんが口にした。
「所詮、私は顔だけですー」
ちゃっかり顔が良いとは自慢している。
ただ、見ているとなんだか可哀想になってくるので、
「その行く宛とか無かったら、しばらく家に泊まります?」
と俺は言う。
「えっ、良いんですか!それでは、お言葉に甘えて・・・はっ!もしかして実は私に気があったり?」
「いや、それは無いです。俺にはアリーがいるので」
とキッパリ言う。
「上げて落とされましたー!」
「上げても無いし、落としても無いですけどね」
「ふふ、なんだか面白い方ですね」
アリーもそう言っているので、問題は無さそうだ。
「それに何だか、ワタルさんがベルちゃんに読み聞かせていたお話に似ていますね。あの〜、何でしたっけあのお話?」
「鶴の恩返し?」
「そうそれです!助けて恩返しに来るあたりがそっくりです」
「まぁ、恩は返されて無いけどね」
「それに正体がバレても逃げてませんしね」
今も、すぐに皆んなと打ち解けて話している女性の姿をしたペガサスを見る。
「そう言えば、名前は何て言うんですか?」
「私ですか?私はシェリーと言います!呼び捨てで結構ですよ」
「それじゃあシェリー、改めてよろしくね」
「はい!よろしくお願いします!」
そんなこんなで、ペガサスのシェリーが新たに住み始めるのだった。
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