父親
アリーが妊娠したとサプライズを受けてから2週間程経過した。
あの後、つわりが酷くなり始めてここ最近は体調が優れていない様だ。
その都度、皆んなでフォローし合いアリーに負担を掛けない様にしてくれている。
「皆さん、すみません。ご迷惑をお掛けして」
「よいよい、元気な赤子を見せてくれれば良いのじゃ」
「そーそー、アリシアちゃんは気楽でいなよ」
「ありがとうございます」
「皆んながいて周りが恵まれてるから産まれてくる子も安心だよ」
「うむ、産まれてきたら妾が直々に魔法を教えてやるのじゃ」
「あっ、ずるい!じゃあ、私は裁縫を教えてあげよー。もし、女の子だったら絶対そっちの方が喜ぶだろうしねー」
「お嬢様、私は剣術を教えてもよろしいですかね?」
「では、私は暗殺術を」
「私は読心術なら教えてあげられるかも」
「ヴァンパイアの使う血の魔術なら・・・」
と皆んなが口々にする。
「俺達の子供を一体何に育て上げる気なの・・・」
「ふふ、将来が楽しみですね」
俺はそう呟いて、アリーは嬉しそうに笑うのだった。
〜〜〜〜〜〜
そんな中ある日、俺に一通の手紙が届く。
差出人はオーウェンさんだった。
内容としては明後日に夜に家に1人でやって来て欲しいと言う事だった。
何か大事な用事があるのだろうかと思い、当日の夜になりオーウェンさんの屋敷に向かうと、クラニーさんが出迎えてくれる。
「夫は客室におりますので案内しますね」
部屋の前まで案内してくれると去り際に
「今日は帰れないと思いますので、お覚悟を」
と笑いながら言い残して行った。
一体何があるんだと意を決して扉を開くと、ソファの上にオーウェンさんとテンメルスさんが居た。
そして更には、マゼル王国・国王のアルス・マゼル・セイフォードが居たのだった。
「おぉ、コタケ殿!やっと来たか!こっちに来てくれ」
俺は困惑して扉の前に立っていると、やや上機嫌なオーウェンさんがそう言い、ソファに座る。
テーブルの上をよく見ると、お酒とおつまみが置かれている。
「えっと、今日お呼ばれした理由は・・・?」
「コタケ殿も遂に父親になるのだからな、我々からアドバイスをしようと思って呼んだんだ!」
「そうなんですね・・・あの、気になってたんですけど、そちらはアルス国王ですよね?」
「授与式以来だな、コタケ殿。今日は国王ではなく只のアルスとして来ているから気兼ねなく接してくれ」
「そ、それではアルスさんと」
「うむ、そうしてくれ」
「それからテンメルスさんも、わざわざ遠くからありがとうございます」
「いえいえ、丁度近くの国に寄っていたので寧ろタイミングが良かったですよ。コタケさん、改めておめでとうございます」
「えぇ、ありがとうございます」
「お二人のお子さんだと、とても聡い子に育ちそうですね」
「はっはっは、なんと言っても私の娘だからな当然だろう!」
「いやコタケ殿、安心するのは早いぞ。我が子をきちんと見守らなければ、想像にもつかない事をしでかすぞ」
「アルスが言うと説得力があるな」
「くっ、私は何処で子育てを間違えたのだ」
「アルスさんのご子息に関しては敢えて深く触れませんが、アリシア様は素晴らしいお方ですね。どの様な子育てを?」
「うむ、常に愛情を持って接する事だな!」
「それは私に愛情が足りなかったと言う事か!」
「お前は、自分の息子に王としての自覚を教えなかったのが悪いだろうが!」
とオーウェンさんとアルスさんがギャイギャイと言い合い始めた。
「ゴホン、ところでテンメルス殿は私と同じく王として国を纏めていると思うが、子供へはどういった教育を?」
「一応、王族としての振る舞い方や様々な知識を学べさせてはいますが、本人が王になりたく無いのであれば私はそれを尊重しようと思います。私は王ではありますが1人の父親でもありますので、子の幸せを願いたいのです」
「うむうむ、ご立派だ」
「ちなみにコタケ殿は、どんな子育てを考えているのだ?」
「なにしろ初めてなので全く見当もつきませんね。手探りでやるしか・・・まぁただ、他の皆んなが我が子に色んな事を教え込もうとしてて、ちょっと困ってますけど」
「確かにコタケさんの周りは、教育に適した方ばかりですね」
「それにしても、私に孫が出来るのか。最近はアリシアも構ってくれなかったからな、これはおじいちゃんとして頑張るしか」
「コタケ殿、子供の成長はとても早い。可愛がれる内に可愛がっておいた方が良いぞ」
「そうなんですか・・・」
「私の子も今はパパ大好きと言ってくれていますが、成長するにつれて言ってくれなくなるのでしょうね」
「「はぁ」」
と3人が同時に溜息を吐く。
「あの子も小さい時は可愛かったのだがなぁ」
「アルスには他にも子供がいるだろう」
「あれ?そうだったんですか?」
「あぁ、コタケ殿は聞いていなかったか。私には息子が後2人に娘が3人いる。皆、良い子なのだがアレの後だと自信を無くすなぁ・・・」
「ま、まぁそう気を落とさずに。さ、一杯飲んじゃって下さい」
とテンメルスさんがグラスにお酒を注ぐ。
「そんな辛いこともお酒を飲んで今日くらいは忘れてしまおう!」
と本格的な酒盛りが開始され、全員が酔い潰れるまで飲み明かした。
結局その日は、子育てのアドバイスと言うよりも3人の父親の愚痴を聞かされる事となるのだった。




