長
エルフの町にやって来て、長の家に泊まった翌日。
お昼になって長が帰って来たとの事で、俺達は部屋の前まで案内された。
「どうぞ」
案内したエルフが、扉をノックすると返事が聞こえて部屋に入り、中に居た人物を見て俺達は驚いた。
褐色の肌に長い銀色の髪をした女性のダークエルフが正座していた。
「えっと、あの方が長なのでしょうか?」
「はい」
リッヒさんの言葉に案内役のエルフがそう答える。
「話したい事はあるだろうが、まずは先に必要な事を片付けよう。そこに座ってくれ」
長はそう言い、床に置かれたクッションを指すのでそこに腰を下ろす。
「下がって構わない」
長の言葉に案内役のエルフは出て行き、部屋には俺達だけになった。
「妾達だけにして大丈夫なのか?」
「その方が話しやすいと思いましたので。それでは先に、我らから盗まれたと言う宝物を受け取りましょう」
「失礼します」
アイラさんはそう言うと、腰に下げていたマジックバックの中から20cm程の木箱を1つ取り出し手渡した。
長は箱を開いて中を確認した後、
「確かに我らエルフの町から盗まれた宝物の1つの様だ。この度の返還に感謝しよう」
「いえ、元はエルフの物を盗んだ我ら人間に非があるので、感謝は不要です」
「そうか。だが、そなたが直接関係している訳では無かろう。ならば、ここまで運んだ労力に感謝の意を示そう」
「ありがとうございます」
「さて、これで面倒な仕事は終わりだ。是非、楽にしてくれ」
そう言うと長はクッションの上で胡座をかき、
「家に帰って来て、来客にダークエルフが居ると聞いて耳を疑ったが、本当だったとは驚いたよ」
と堅い喋り方では無く砕けた喋り方になった。
「私も他のダークエルフは久々に見たので驚きました」
「名は何と言うのだ?」
「リッヒと申します」
「リッヒか・・・おっと、そう言えば私も名乗っていなかったな。私の名は、エドラ・フィンレイと言う。見ての通り、このリントルの町の長をしている」
「私は小さな頃に2、3回この町にやって来ているのですが、その頃から長をされてるのですか?」
「かれこれ50年は長を務めている」
(50年・・・エルフだから見た目は20代前半に見えるけど何年生きてるんだろう?)
俺がそんな事を考えていると、
「ちなみに私は200歳だよ」
とこちらを見透かした様に年齢を告げた。
「顔に出てましたか?」
「いや、人間にはよく年齢を聞かれるのでな先に答えたまでだよ。ちなみに君達はどういった関係なのかな?ダークエルフと人が一緒に居るなんて珍しいと言うよりも初めてだからね」
そう言われて、俺達の自己紹介をして一緒に暮らしている家族だと言う。
「そうなのか・・・ちなみにリッヒの出身は?」
「ゲレンの森です」
「ゲレンの森・・・と言う事は、まさか・・・」
「はい、私が育った場所はもう存在しません」
「すまない、辛い事を聞いたな」
「いえ、もう昔の事なので」
「もし、嫌でなければこれまでの事を話してくれないか?」
エドラさんに言われて、リッヒさんは今までの人生を話した。
「そうだったのか・・・皆様には我が同胞を救って下さり感謝しかありません」
とエドラさんは深々と頭を下げる。
「頭を上げて下さい。リッヒさんには、いつもお手伝いをして貰って助かってもいますので」
「ゲレンの森の話を聞いて、我々もすぐに助けに向かったのだが、その時にはもう・・・まさかあの惨状を生き抜いてくれていたとはな」
と涙を流す。
「そこまで想ってくれて、皆も喜ぶと思います」
「あぁ、それにリッヒの師匠にも感謝をせねばな」
「師匠は今、旅に出ていて居場所も掴めないので会う事があったらお伝えしますね」
「よろしく頼む」
「それにしても、ダークエルフのエドラさんがこの町で長を務めているのには、何か理由があるのでしょうか?」
リッヒさんの話も落ち着いた所で、アイラさんはそんな質問をした。
確かに、この町には他にダークエルフは居なかったので不思議だった。
「長になる権利は全てのエルフにあるんだ。例え、町で1人のダークエルフだとしてもね。あとはその人物の戦闘能力と知力によって選ばれるんだ。私はエルフの中でも魔法に秀でていてね、それに昔に森の外に出ていた事があって、その時に政治的な事を少し学んだから今の立場になったんだ」
「その様な理由があるんですね」
「私としては長が女性と言うことにも驚きましたが・・・」
次にリビアさんがそう言う。
「人間の世界では上に立つ者は男が多いだろうが、エルフは女が上に立つんだ」
「それも理由が?」
「2000年程、昔にエルフは国を持っていたんだが、その国を代々纏め上げてきたのが女王だったんだ。その名残で今もエルフの中では長を女が務めているんだよ」
「そうなの?」
俺はその話を聞いて、知ってそうなティーに聞いてみるが、
「2000年前か・・・うーむ、覚えとらんの!」
ダメだった。
「私が暮らしていた所でも、まとめ役をしていたのは女性のエルフでしたので、何処でもその様なしきたりがあるのですね」
その後も、2人はエルフならではの会話に花を咲かせた。
リッヒさんも、久々に会えた仲間にとても嬉しそうだ。
それから、いつの間にか夕暮れ時になっていた。
「おっと、もうこんな時間か。もっと話したいが引き留めてはいけないな」
「私もとても楽しかったです」
「それは良かったよ。もし、君が望むならこの町に住む場所を用意するのだが・・・」
そう言われたリッヒさんだが首を横に振り、
「とても嬉しい言葉ですが、今の私には帰る場所がありますので」
「そうだな愚問だったな。よし、それなら少し待っていてくれ」
エドラさんはそう言うと部屋を出て、すぐに戻って来た。
「1つしか渡せないが、有事の際にはコレを使うと良い」
そう言って手渡したのは、紫色をした液体が入った小さな瓶だった。
「あの、コレはもしかして」
「霊薬だ」
「「霊薬?」」
「エルフの中でも限られた物しか製法の知らない回復薬で、年に1、2本しか作る事ができない言われている物です。効果としては四肢が欠損しても元に戻る程と聞いていますが、そんな貴重な物を頂く訳には・・・」
「良いんだ。使われないのが1番良いが、君達が普段暮らす場所は大変な所なんだろう?だから、私が心配しない様にも持って行って欲しいんだ」
「そう言われては弱いですね・・・ありがたく頂きます」
とリッヒさんは霊薬を受け取る。
「それから、リントルの町はいつでも君達を歓迎しよう。移動に時間は掛かるだろうが、いつでも来てくれて構わない」
「それについて何ですけど、次からはすぐに来る事が出来るので大丈夫ですよ」
俺はそう言って、転移のゲートを開いてその先からアリーを呼ぶ。
「初めまして、貴女がエルフの町の長ですかね?ワタルさんの妻のアリシアと申します。リッヒちゃんとは姉妹?の様なものですかね」
アリーはそう自己紹介をして、リッヒさんは少し照れ臭そうにしている。
「これはご丁寧に、私はエドラ・フィンレイと申します。まさか、この目で転移を見るとは思いもしませんでした。もしや、コタケ様は高名な魔法使いで?」
「精霊と契約をしていて、その子の能力なんです」
「精霊と契約している者はエルフの中にも何人か居ますが、ここまでの力を持つ者は居ませんので驚きです。それにしても私にお見せして宜しいのでしょうか?こう言った力は目立たない方が宜しいですよね」
「えぇ、そうですね。なるべくこの事は秘密にしておいて欲しいです。俺としては、リッヒさんがエドラさんにとても気を許していたので、今後何かあった時にも力を貸して欲しいなと思って転移を見せたので」
「そうでしたか。では、そのご期待に添える様に秘密を守る事を誓いましょう」
「あっ、でもあんまり重く考えなくても良いですからね?」
「えぇ、そうしましょう」
エドラさんはクスクスと笑ってそう答える。
「それではリッヒ、またいつでも来て下さいね」
「はい、私もまだまだエドラさんと話したい事があるので近いうちに、来させて頂きます!」
こうしてエドラさんに別れを告げて、エルフの町での任務は終了したのだった。
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