【番外編】トリック・オア・トリート
「ハロウィンって、この世界にあったりする?」
肌寒くなってきた頃、ふと前の世界のイベント事を思い出し、何となくアリーに聞いてみた。
「ハロウィンは聞いた事ないですね。ワタルさんが居た世界の物ですか?」
「うん。毎年10月31日に子供達が魔女とかお化けに仮装して周りの家を訪ねてお菓子を貰うんだけど、その時にお菓子くれなきゃイタズラするぞって意味のトリック・オア・トリートって言葉を言うんだ」
「子供達にとっては楽しそうな催しですね」
「でも元々は、その日は死後の世界と現世を繋ぐ扉が開いて悪霊とかがやって来て悪さをするから、魔除け用に仮装したりしてたんだって」
「何だか、全然違う催しになってますね」
「そうなんだよね。今じゃ、最初に言った方が一般的になってるんだよね」
「それで、ワタルさんがそのお話をしたと言う事は当日に色んな所に行ってお菓子を貰って来ると言う事ですね!」
「まぁ、ハロウィンがあったらそうしようと思ってたんだけど、無いんだったら出来ないしね・・・」
「良いんじゃないですか?あえて、何も知らせずに知り合いの家に訪ねる方が面白いじゃないですか」
「おぉ、アリーがそう言うなんて珍しいね」
「折角の催し事ですからね!」
なんて話していると、他の人達も面白そうな話しているとワラワラと集まって来たので再度説明をする。
「良いじゃん!やろやろ!」
「面白そうじゃな、テンメルスの奴にイタズラしてやるわい」
と各々やる気満々だったので、我が家のハロウィンイベントが決定した。
〜〜〜〜〜〜
そして、ハロウィン当日のお昼。
まず初めにやって来たのは、アリーの実家だ。
仮装したベルを先頭にオーウェンさん達の元へと向かう。
ちなみにベルは、何の仮装したいかと聞かれて、
「ママと同じ見た目が良い!」
と言ったので、オルフェさんのツノを模したカチューシャを付けている。
他の人達は恥ずかしがって仮装はしていない。
メイドさんの案内で2人が居る部屋の前にやって来た。
ベルがドアを開けて中に入る。
「おや?皆んなで急にどうかしたのかね?」
今日来る事は伝えていなかったので、不思議そうな顔をしている。
そこに全員で、
「「トリック・オア・トリート」」
と言う。
2人は更に不思議そうな顔をした。
当然の反応なので、2人にハロウィンの説明をする。
「そうかお菓子か・・・可愛い娘からイタズラを受けるのも悪くないな」
「貴方、流石にそれは気持ち悪いですよ」
「うぐっ」
オーウェンさんの発言に、アリーも乾いた笑いを上げている。
「コホン、イタズラはさておき、お菓子ならあるぞ」
と更に入ったクッキーを差し出して来た。
「今日のおやつに作って貰ったのは良いものの、私は今甘い物は控えていてな。これを皆んなあげるとしよう」
「わーい、クッキー!」
「お父様とお母様にイタズラ出来ないのは残念ですが、ベルちゃんが喜んでいるので良しとしましょう」
「いや、何なら私はイタズラを受けても・・・」
と言いかけて、クラニーさんがオーウェンさんの手の平をつねる。
「いてっ!」
「どうですか?愛する妻からのイタズラですよ」
「いや、私はアリシアから・・・」
オーウェンさんは余計な事を言いかけたが、すぐに口を紡ぐ。
とりあえず、お菓子は貰う事が出来たのでオーウェンさんの為にもすぐに撤収した。
そのまま続いて、エレオノーラさんのお母さんであるメルローズさんの元へと向かう。
コンコンと家の扉をノックすると、は〜いとおっとりした声が聞こえて扉が開き、黒髪の女性が現れた。
「あらあら、エレオノーラじゃない。それにアリシア様や他の皆様まで・・・どうかされたのですか?」
「「トリック・オア・トリート」」
「あら〜?」
と困惑したメルローズさんに、ハロウィンの説明をする。
「なるほど、お菓子をあげないといけないんですね。うーん、エレオノーラからのイタズラも良いかもしれないわね〜」
さっきのオーウェンさんと同じ様な事を言う。
親というのは子供からイタズラを受けたいものなのかと疑問に思ってしまう。
「でも、今日はたまたまエレオノーラの好きなアップルパイを作ったのよ!それをあげちゃうわ」
メルローズさんはそう言い、エレオノーラさんは嬉しそうな顔をする。
そうして、メルローズさんの家でアップルパイをご馳走になり次の場所へと向かう。
次にやって来たのは、テンメルスさん達の家。
つまりはラーブルクにある城だ。
執事長ハウザーさんの案内でまずは、子供達3人の所に向かう。
どうせなら一緒にお菓子を貰おうと思い、ハロウィンについて説明をして3人とも仲間に加わってくれた。
そして、そのままテンメルスさんとヴァルナさん元へと向かう。
「おやおや?ティーフェン様と皆様に加えて息子達まで一緒とは、どうしたんでしょうか?」
「「トリック・オア・トリート」」
2人は首を傾げるので、同じ様に説明を行う。
「お菓子でしたら、こちらに」
そう言って、ヴァルナさんはチーズケーキを差し出した。
「昨日、城で行ったパーティーの余り物にはなりますが処分に困っていたので差し上げます」
子供達はケーキを見て喜んでいる。
「我が子らのイタズラなら受けたかったが、お菓子があるのでは仕方がないな」
とテンメルスさんも同じ様な事を言う。
しかしその時、
「あら?こちらは私から差し上げた分ですので、貴方は別の物を用意しなくてはいけませんよ?」
とヴァルナさんが言ったのだった。
「えっ?いや、ヴァルナと私からという形で・・・」
「折角なら2人別々で渡した方が、喜ぶでしょう?」
予想外だったのか、テンメルスさんは驚きの表情をあげている。
「もしかして、お菓子無い?」
シエルさんの言葉に、冷や汗を流し始めるテンメルスさん。
「これはイタズラを受けるしかありませんね・・・ティーフェン様?」
「うむ!」
「いや、あの、受けるなら子供達から・・・」
「問答無用じゃ!」
〜〜〜〜〜〜
「ぎゃあーーー!」
テンメルスさんが受けるイタズラと言うのは、ティーの背中に乗って空を飛ぶ事だった。
現在、物凄いスピードで空を飛び回っている。
テンメルスさんは、以前ティーの背中に乗った時に風の抵抗を減らす防御用の魔法などを掛けて貰えずに空を飛び、あまりの怖さに少しトラウマになっているのだ。
「ティーフェン様、そろそろ終わりにしましょう!」
「なんじゃ、前とは違って魔法も掛けてやってるじゃろ」
「それはそうですが、空を飛ぶ事なんて無いので普通に怖いんですよ!」
「いやいや、これからが楽しいんじゃよ!」
そんな話が、大声で聞こえて来る。
ティーはそこから更にスピードを上げて、テンメルスさんの悲鳴が響き渡るのだった。
「はぁはぁ・・・今後は絶対に背中に乗りませんからね・・・」
「龍王国の王たる者がそんなんでどうするんじゃ」
こうしてテンメルスさんへのイタズラは終了したのだった。
続いて俺達が向かった先は、ヒノウラだ。
昔の日本の様な街並みのこの国ならではの、お菓子がありそうだと少し期待している。
早速、城へと向かい城主の孫であるシオリさんの元へと向かう。
部屋をノックして返事が返って来たので、部屋に入るとシオリさんが机に向かい勉強をしていた。
「コタケ様にアリシア様では無いですか?」
「もしかして、お邪魔でしたでしょうか?」
「いえいえ、丁度休憩中でしたので大丈夫ですよ」
アリーが聞くとシオリさんはそう答える。
「今は何をなさってたんですか?」
「回復魔法の勉強ですよ。シャロン様に弟子入りしたのは覚えてますかね?」
現聖女のシャロンさんに助けられて、自身も誰かの役に立ちたいとそのまま弟子入りしたのだった。
「シャロン様が各地の巡礼をしているのですが、私はまだ療養していなさいと言われて、その間に色々と勉強をしているのです」
「まぁ、そうだったんですね。シオリさんは、私の妹弟子の弟子ですからね、応援してますよ!」
「ありがとうございます。えっと、それで皆様がこちらにいらした用件は・・・?」
「あっ、そうでした。頑張っているシオリさんに、これを言うのもあれなんですが・・・せーのっ」
「「トリック・オア・トリート」」
アリーの合図でそう言って、シオリさんは首を傾げたので説明をする。
「まぁ!そんな楽しそうな催し事が!しかし、お菓子ですか・・・」
シオリさんは少し考えてから、ちょっと待ってて下さいと言って部屋を出て行った。
しばらくすると、大きな四角いお盆を持って帰って来た。
そのお盆の上には、ピンク色のもちっとした物が葉っぱで巻かれていた。
「もしかして、桜餅?」
「ご存知でしたか。これは、桜の葉で餅を巻いたお菓子なんです」
「桜餅ですか、聞いた事無いですね」
とリッヒさんが言い、皆んなも不思議そうに見ている。
「美味しいですよ!」
シオリさんに促されて、皆んな口へと運ぶ。
「美味しい!」
「食感が面白いのと、餅の甘味と葉っぱのしょっぱさが相まって美味しいですね」
メアリーさんが感想を述べ、その通りだと思う。
「気に入って頂けた様で何よりです」
こうして、懐かしい物を味わってヒノウラを後にした。
そして最後にやって来たのは、獣人の国ストラウドだった。
「エレオノーラ様!ようこそいらっしゃいました!本日はどの様なご用件で!」
メアさんの部屋に行くと、早速エレオノーラさんが抱きつかれて熱い歓迎を受ける。
「ちょ!いきなり抱きつくんじゃない!」
エレオノーラさんは力づくでメアさんを引き剥がす。
「コホン。メア、今日は伝えに来た事があるんだ・・・」
気を取り直したエレオノーラさんがそう言う。
「それって、もしかして・・・!」
何を期待したのかメアさんは嬉しそうな顔をしたのだが、
「せーのっ!」
「「トリック・オア・トリート」」
と皆んなで言った瞬間、メアさんは困惑した表情になって、これまで通りハロウィンの説明を行う。
「そう言う事でしたか・・・私はてっきりプロポーズでもされるのかと・・・」
メアさんは少し悲しそうな顔をする。
それでさっきは、嬉しそうな表情をしたのかと納得する。
「しかし、お菓子ですか・・・うーん、無いですね。これは、もうエレオノーラさんからイタズラを受けるしか無いのでは!」
と言い一瞬で笑顔に戻る。
「ふっ、そう来る事は予想済みだ。だから、メアには私からのイタズラを考えてきてある」
「まぁ!」
何故か嬉しそうにしているが触れない様にする。
「それでその内容とは!」
「あぁ・・・城の庭をランニングで100周だ!」
「・・・」
メアさんは笑顔から無表情に戻る。
「あの、それだけですか?」
「あぁ、それだけだ」
「もっと私に直接、何かをなさると言う事は?」
「そんな事するわけないだろう」
ガーンとショックを受けて、膝から崩れ落ちる。
「こんな事なら、お菓子を渡しておけば良かったです・・・」
その後、無事に庭を100周し終えたメアさんは、エレオノーラさんから頭を撫でられて喜んでいたので、良しとした。
ついでに、余っていたというカップケーキを申し訳ないからと貰ったが、最初から渡せば良いのにとは誰も突っ込まなかった。
〜〜〜〜〜〜
その日の夜、皆んな楽しそうだったので来年もまたやろうかなと自分の部屋で考えていると、部屋のドアをノックする音が聞こえて開くと、そこには布団のシーツで体を覆ったアリーがいた。
「あ、あの、入っていいですか!」
何やら焦る様子のアリーを部屋に入れる。
「えっと、どうかした?」
「その、これは私が考えた事じゃなくて、オルフェさん達が勝手に作ってて着せられたと言うか・・・」
早口でまくしたてるアリー。
すると、覆っていたシーツを取り外し俺は驚いた。
「あの、アリー?その格好は・・・」
何故か、モフモフした毛皮の様な物が付いたショートパンツとブラジャーの様な物を身に付けていた。
「オルフェさん達が勝手に・・・」
と顔を赤くして言う。
「その、なんて言うか似合ってると思うよ」
「そ、そうですか・・・あとはこのオオカミの耳のカチューシャを付ければ完成なのだとか」
そう言って、アリーはカチューシャを付ける。
「ワタルさん・・・トリック・オア・トリート?」
勿論、お菓子なんて持っていない。
「ふふ、ではイタズラしちゃいますね」
と言われてベッドに向かうのであった。




