間引き
「なるほど、ダンジョンが原因だったか・・・」
屋敷に帰ってきた俺達は、魔物が増えていた原因をオーウェンさんに伝えた。
「ですので、お父様。今から再びダンジョンに向かい攻略をして参ります」
とアリーが言うと、オーウェンさんは顎に手を当てて考えてから、こう言った。
「攻略する事は認めない」
「何故ですか!?領民が危険に晒されているんですよ?」
「あっ、いや、すまない。言い方が悪かった。正確には完全に攻略する事はしないで欲しいと言う事だ」
「と言うと?」
「原因は魔物が間引かれていない事だろう?だから浅い階層の魔物の数を減らすだけに留めて欲しいんだ。私としては、この新しいダンジョンを公表して、この地に多くの冒険者を呼び込もうと思ってな」
「確かに新しいダンジョンが見つかったと広まったら、冒険者はこぞってこの場所に来るでしょうしね」
とエレオノーラさんが言う。
「なるほど・・・それは考えていませんでした」
「今回、君達にお願いしたいのは魔物を間引く事だけなんだ。勿論、その過程で見つけた宝箱は開いて持って帰って貰っても構わない。浅い階層の宝箱はそこまで良い物が入っていないと言うのは承知の上だが、お願い出来ないだろうか?」
「良いですよ」
俺はオーウェンさんの言葉に即答する。
「元々、今回の原因を解決する為に手伝ってるんですから」
「そ、そうか即答するとは予想外だったな」
「あっ!でも、皆んなの意思も確認しないと」
「妾達も構わん」
ティーが言うと他の人も頷き、オーウェンさんは深々と頭を下げて感謝を述べる。
「それじゃあ、準備をして早速向かいましょう!」
「あれ?アリーも来るの?」
「当然です!仕事は最後までやり遂げますよ」
「ついて来る分には構いませんが、一度自分の格好を見直しなさい」
クラニーさんがそう言う。
「どう言う事でしょうか?」
「その様なヒラヒラとしたスカートでは、ダンジョンに入る事は許しませんよ」
今のアリーの格好では危険なので、クラニーさんからの許可が降りない。
「そう言われましても、適した格好は持っていなくて」
「ちょっと、着いて来なさい」
2人はそのまま何処かに行ったので、その間に攻略に必要な物をマジックバックに入れていく。
そして、準備が完了した頃にアリーが上には胸当てを下はズボン履いて戻って来た。
「どうでしょうか?」
「うん、冒険者っぽく見えるね」
「私のお古ですが、先程の格好よりかは良いでしょう。これが終わった後も、それはそのまま貴方にあげるわ」
「お母様、ありがとうございます」
こうして、準備も整い俺達は再びダンジョンへと戻って来た。
「ここからは私と、ティーフェン様が先頭を行く。後ろは、オルフェとメアリーに任せる」
ダンジョン攻略の経験が豊富なエレオノーラさんが、指揮を取り下に続く階段を降りて行く。
俺は周囲にシールドを展開して、不意打ちに備えておく。
「ダンジョンなんて久々ですね。少し気持ちが昂って来ました」
「そう言えば、オーウェンさんはダンジョンでクラニーさんに一目惚れしたと言ってましたね」
「えぇ、あの時は良くダンジョンで武者修行をしておりましたので」
「あまり、お母様が戦っている姿は想像出来ませんけどね」
「貴方が生まれた後は、危険な事は辞めましたからね。でも、貴方も結婚して私達の元を離れたのですから、またダンジョンに潜るのも良いかもしれませんね」
「何かあったらお父様が悲しむので、程々にして下さいね?」
そう話していると先頭の2人が止まった。
「どうやら前に魔物がいる様だ」
そう言うと、前方から森の中でも見た2体のハリネズミの様な魔物が、回転しながら迫って来るのと同時に針を飛ばして来た。
しかし、シールドがあるので全く問題は無かった。
「あの敵は私とは相性が悪いですし、戦えませんね・・・」
クラニーさんが残念そうに言い、魔物達はティーの魔法で倒されて先に進んで行く。
「そう言えば、アリーとシエルさんは初めてのダンジョンデビューだったかな?」
「ホープちゃんのダンジョンを含めなければそうですね」
ホープのダンジョンは制作途中だからカウントしなくて良いだろう。
「ダンジョンは窮屈だから地上の方が良い。ここじゃ飛べないから戦闘でも役に立てなさそう」
シエルさんの強みは、翼で空を飛び上空から弓で攻撃をする事だが、狭いダンジョン内では機動力が落ちてしまうのでそれが活かせない。
「俺も任せっきりだからお互い様だよ」
俺はシールドで皆んなの守りに徹しているだけで、攻撃はエレオノーラさん達任せだ。
正直、強すぎて俺が出る幕でも無いのだ。
そうして、魔物を20匹程倒しながら先に進んで行き2階に続く階段を見つけて下って行く。
「宝箱、全然無いね〜」
「そんな簡単に見つかる物なんですかね?」
「オルフェ、ダンジョン内で宝箱が見つかってもすぐに飛びつくんじゃないぞ」
後ろの2人の会話にエレオノーラさんが反応する。
「どうしてー?」
「宝箱に擬態した魔物がいるからだ。開けた瞬間にガブッといかれるぞ」
「うへぇ〜、何それー」
「確かにオルフェなら真っ先に飛びつきそうじゃな」
「はーい、気を付けまーす」
と話していると、
「皆様、前方に敵影です」
クラニーさんが忠告する。
目の前にいたのは、体調3m程の目が赤く光ったウサギだった。
「あの魔物は、ただすばしっこいだけで他に特性は無い」
「そうですか、では私の出番の様ですね」
クラニーさんはそう言うと、持参して来たマジックバックから片手剣と丸型の盾を取り出し、シールドの外へと出て行く。
こちらの存在に気付いた魔物は、一直線で駆け寄って来る。
目で追えない程では無いが、それでもかなりのスピードだ。
そしてクラニーさんは、その突進を盾で防いだのだった。
ドンッと物凄い音が鳴り響くがクラニーさんは、びくともしていない。
逆に魔物の方が衝撃でクラクラしており、その隙を突いて剣で斬り刻んでいく。
魔物が再び動き出すのを察知すると距離を取って、盾を構える。
そしてまた同じ様にヒット&アウェイを繰り返す事、数分で魔物を1人で討伐し終えた。
「やはり体が鈍っていますね」
「今のでですか・・・」
初めて母親の戦闘を間近で見たアリーは驚いている。
「驚き事でも無いでしょう。他の方なら一瞬で終わらせる事が出来ますから」
「それもそうですけど・・・」
本当にアリーの両親は末恐ろしい。
父は魔法、母は剣でとんでもない才能を持っている。
2人の血を引いているアリーには、実は両方の才能があるのではと思う。
「感覚を取り戻す為にも、この階層は敵は私が倒しましょう」
その宣言通り、次の階層への階段が見つかるまで10匹の魔物を倒したのだった。
そして次の階層では、上の2階とは違う所があった。
「むっ、トラップ用のランタンに反応があるな」
それは、道中に罠が仕掛けられている事だった。
マジックアイテムのランタンにより、地面にポツンポツンとハイライトされた丸型が浮き上がる。
「どんな罠か調べてみよう」
石を手に取ったエレオノーラさんは、ハイライトされた部分に投げ込む。
すると、天井からその周辺に無数の矢が降り注ぐ。
「これは踏んでしまったら一溜りも無さそうだな。皆んな気を付けてくれ」
ハイライトされた部分を踏まない様に慎重に進んで行く。
「用心するに越したことは無いですが、ワタルさんの盾があれば問題無いのでは?」
「確かに矢などは防げるでしょうが、ダンジョンには毒のトラップもあります。そう言った物が防げるかは分かりませんので、なるべく避けた方が良いでしょう」
「なるほど、そう言うものなんですね」
その後も、罠を回避しつつ先を進んで行くと道中にポツンと1つの宝箱が置かれていた。
「あっ!お宝だー!」
「「ストップ!」」
宝箱を見て先に進もうとする、オルフェさんを皆んなで止める。
「さっき注意したじゃろ」
「ごめんなさい」
と素直に謝る。
エレオノーラさんが、宝箱の周辺に罠が仕掛けられていないかをチェックして、次に宝箱に向かって石を投げつける。
宝箱に変化は無い。
「これには何の意味が?」
「さっき言った宝箱に擬態した魔物は、自身に衝撃が加わると口を開くんだ。それを石で試していると言う訳だ。鍵付きの宝箱では無いから、これで開けても問題無さそうだ」
「はいはーい!私、開けたいでーす!」
皆んな異論は無いようだ。
宝箱の側まで近づいて、蓋を開ける。
その中に入っていたのは、1本の装飾の無いシンプルな見た目をした漆黒の剣だった。
「わーお、何これ?」
「こんな浅い層で剣とは珍しいのじゃ」
「でも、あんまり強そうには見えなくない?」
剣を取り出して、ブンと軽く振り回す。
すると、剣から衝撃が放たれてダンジョンの壁が破壊される。
「へ???」
オルフェさんは素っ頓狂な声を上げて、皆んなは目を丸くする。
「お主、今何をしたんじゃ?」
「いやいやいやいや!私何もしてないよ!」
「とてつもない威力でしたね・・・」
「何これ、ヤバすぎでしよ。私、軽く回しただけだよ?コタケ君、これいる?」
「いやー、それはちょっと扱いきれないと言うか」
「まぁまぁ、良いから良いから!」
そう言って強引に渡して来るので、そのまま持ち手を握ろうと、ビリッという強めの静電気の様な物が走り手放してしまった。
「いたっ!」
「えっ?どうしたの?」
「なんか握ろうとしたら衝撃が・・・」
「ふむ・・・」
エレオノーラさんは、落ちた剣をマジマジと見つめて手に取ろうとする
しかし、
「くっ!」
苦痛の表情を浮かべて、剣を落とす。
ティーやメアリーさんも試してみたが、持つ事が出来ない。
「どうやら、この剣はオルフェを主人とした様だな」
「何それ?コタケ君の聖剣みたいじゃん」
「そうだな、見た目的には聖剣には見えないが、オルフェ以外には持てないんだ。責任を持って保管する様に」
「えぇ〜、置いてったら駄目なの?私、剣なんて扱えないんだけど」
「誰も移動させられないんだから、置いておく訳にもいかないだろう。持ち帰った後は、売るなりなんだりしても構わないから」
「はーい、分かったよ〜」
「それにしても、凄まじい威力でしたね。是非とも私も欲しいものです」
「お母様は何を求めてるんですか・・・」
そして、先に進んで行くと4階へと続く道を見つけたのだが、
「さて、攻略はここまでにしよう」
とエレオノーラさんが言った。
「それはまたどうしてですか?」
「3階層はトラップが多く。魔物は一切居なかった」
確かに振り返ってみれば、3階では一度も戦闘をしていない。
「トラップはダンジョン内の魔物にも有効だから、この後の階層の魔物達は基本的にここまで上がって来ないのだろう。だから、外に出るのは1、2階の魔物だけで、そいつらもある程度数を減らしたから暫くは問題ないだろう」
「そう言う事でしたか」
「それでしたら、また屋敷に戻りましょうか!」
アリーの言葉と共にダンジョン攻略を切り上げて、屋敷へと帰って来た。
「そうか、解決出来たか・・・では、後は冒険者ギルドへと報告してあの森の周りを整備した方が良さそうだな」
オーウェンさんは、この後の処理を考えている様だ。
「貴方、それよりも言う事があるのでは無くて?」
「おっと、すまない。今回、私達に協力をしてくれて感謝する。身内ではあるとは言え、タダで働いて貰うのはなんだ少しばかりだが、報酬金を用意したから受け取って欲しい」
元々、ボンランティアのつもりだったが拒否できない雰囲気だったので、受け取ることにする。
「それから、今日はシェフとアン達が腕によりをかけて夜ご飯を作ってくれているから是非とも食べていってくれ」
「それじゃあ、お言葉に甘えて」
こうして、領地内の問題は解決して屋敷で一泊してから今度こそ家へと帰るのであった。




