お手伝い
王城を出発してから2時間、アリーの実家に到着する。
「お父様、失礼致します」
アリーがオーウェンさんの執務室の扉をノックし、中に入る。
「ん?アリシア達か?あぁ、そうか城から帰って来たのだな」
オーウェンさんは何処か疲れた様子で、俺達がいる理由を確認する。
「かなりお疲れの様子ですが、やはり何か大きな問題があったんじゃないですか?」
「いや、別に今の所は問題は無いから安心してくれ」
「いいえ!そうやって、私に心配させまいとするのはお父様の優しさでもありますが、悪い癖でもあります!私ももう大人ですから、少しは頼って欲しいのです!」
「う、うむ・・・」
アリーの気迫にオーウェンさんも少し押されている。
すると、そこにガシャンガシャンという金属の音と共にクラニーさんが鎧を着た状態で執務室に入って来た。
「お母様、その格好は一体?」
「貴方、そろそろこの子達にも説明してあげたらどうですか?」
「はぁ、分かったよ」
ようやく観念したのか、オーウェンさんは領地で起きた事を話し始めた。
「ここから、そう遠く無い所に大きめの森があるのは知っているな?」
魔の森ほどでは無いが、初めてティーに乗って来た時に上空から森があったのは確認している。
「そこから魔物が頻繁に出て来る様になったのだ」
「魔物ですか?以前から、それなりに出現の報告は聞いていると思いますが」
「それとは比にならないレベルなのだ。周辺には木こりが住んでいたり、小さな町もある。すぐに避難はさせたから大きな被害は出ていないが、このままではこの街にも魔物が押し寄せて来てしまう」
「軍への要請は?」
「勿論したが、すぐに駆けつける事は出来ないらしい。だから、領地の兵士達を送ったのだが、魔物の強さもそれなりでな、私も出陣する事になったんだ」
公爵という立場ながらに危険な場所に向かうのは心配だが、魔法に長けているので問題無いのだろう。
「ここ数日毎日、書類仕事をして戦っての繰り返しで疲れていたんだ」
「なるほど大体理解しましたが、お母様が鎧を着ているのは何故なのでしょうか?」
「問題の解決を図る為よ。このまま、魔物を倒し続けてもキリが無いかもしれないから、森に入って原因を探るのよ」
「お母様がそこまでしなくとも・・・」
「この領地を治めている公爵の妻ですもの、これくらい当たり前です」
「いや、普通はそんな事せんじゃろ」
ティーの言葉に皆んなが頷く。
「本当は私も行きたい所なのだが、連日の疲れも溜まっていて足を引っ張りそうでな。クラニーに行って貰う事になったんだ」
「お母様、お一人で向かうのですか?」
「いや、他に兵士も同行させるが・・・」
とオーウェンさんは言葉を切る。
本当は心配で行かせたく無いのだろうが、早くどうにかしないと領民が生活出来なくなってしまう。
そんな中アリーが、
「それなら!私も回復役として同行します!」
と言い放つ。
「行かせられる訳がないだろう。危険な場所なんだ」
「いいえ、絶対に行きます!その為にも・・・」
アリーは後ろにいる俺たちの方を振り向いて、
「力を貸して下さい!」
そう言い頭を下げる。
「俺は最初から手伝うつもりだったから大丈夫だよ」
「私もお嬢様の騎士なので何処へでもお供します!」
「と言うか妾達さえ居れば十分じゃろ」
「そうだよね〜」
「いつもお世話になっているのですから、恩返ししないとですね」
「うん、問題ない」
「過剰な戦力だとは思いますが、お力添えしますよ」
と皆んなが反応を返す。
「皆さん・・・ありがとうございます。そう言う訳で、お父様!私達もお母様に同行致します!」
「はぁ、随分とたくましくなったものだな。戦力的には申し分ない程だ。皆さん、ご協力お願いします」
とオーウェンさんが頭を下げて、俺達の参加も決定した。
「そうじゃ、他の兵士達は参加させなくて良いぞ。多すぎても邪魔になるだけだからの」
「そうですね、皆様であれば問題無いのでその様にしておきます」
「私達は、お役に立てなさそうですので美味しい料理を作ってお待ちしておりますね」
アンさん、リビアさん、ベルの3人はお留守番となる。
「ルインはどうする?」
「私も参加しますよー。索敵なら任せて下さい!」
「皆様、頼もしい限りです。今回は他の者を守る役目だと思いましたが、これでは私が守られてしまいそうですね」
クラニーさんはそんな事を言うが、普通に身体能力も高く俺よりも遥かに強いので、そんな事は無さそうだと思う。
「それでは、お父様。行って参ります!」
「あぁ、気を付けてな。危なくなったらすぐ帰還する様に」
「アリシアの事は心配しなくても、大丈夫ですよ。それよりも貴方はしっかりと休んでいて下さいね」
「あぁ、分かっているよ」
「ふふ、それでは・・・」
クラニーさんは、少し笑いながらオーウェンさんに近づくと頬に軽くキスをして、
「行って参ります」
そう言った。
「ヒュー、ヒュー」
ティーとオルフェさんは、2人を茶化しアリーや他の皆んなは少し顔を赤らめている。
何ならオーウェンさんも顔を赤くしている。
「あ、あの私達もしますかね?」
アリーは顔を赤く染めて俺にそう言う。
「えーっと・・・」
是非して欲しいが皆んなもいるしと悩んでいると、オーウェンさんが真顔でこちらに圧をかけてくる。
「い、一緒に行く訳だし今日は、止めとこっか」
「そ、そうですよね。どっちかが、残ってないと行ってきますのキスになりませんもんね。わ、私ったら何を言って・・・」
とアリーもその場の雰囲気から目を覚ます。
ティー達がニヤついていたが、気にせず改めて現場に向けて出発した。
〜〜〜〜〜〜
馬車に揺られ、目的地の森に到着した。
「パッと見は普通の森だけど・・・」
そんな事を言った矢先、森の中から何か尖った物が勢いよく飛んで来た。
「危ない!」
あまりの速度に俺は反応出来なかったが、メアリーさんが気付いてシールドで防いでくれた。
「大丈夫ですか?」
「ありがとう、助かったよ」
「ここからは常に、盾のシールドを展開し続けた方が良いかもしれないですね」
「そうみたいだね。それで今の攻撃は一体?」
すると、森の中から体長2m程で体に沢山のトゲが付いたハリネズミの様な生き物が出て来た。
「あれも魔物なのですか?」
アリーがエレオノーラさんに問うと頷いて答える。
「さっきの攻撃もあの魔物が原因だろう。この辺りに生息している魔物では無かった筈なのだが・・・」
とその時、魔物が急に回転しながら動き出して体のトゲを全方位に飛ばし始めた。
俺は急いで、シールドを展開して攻撃を防ぐ。
魔物はトゲを飛ばし終えると、ブルブルと震えて新しいトゲを即座に生やした。
「うわっ、厄介な魔物〜」
「さっさと倒して先に進むのじゃ」
「じゃあ、ここは私がやっとくね〜」
ティーの言葉にオルフェさんが反応し、魔法で魔物の頭上に大きな岩を作り出して、それを落としてグシャッと潰した。
「ちょっとグロイ」
シエルさんが言う様に、血が周りに飛び散っている。
もう見慣れてはいるが、もう少し穏便に済ませて欲しかった。
「じゃあ、妾とルインが先頭で行くから後ろはオルフェとメアリーに任せたのじゃ」
「りょうか〜い」
「分かりました」
そうして、ティーの後に続いて森へと入って行く。
魔の森とは違って、薄暗い程度で足元も安定しているので歩きやすい。
「ルインよ、この先の偵察をして来るのじゃ」
「ラジャー!」
と楽しそうに言い、姿を消した。
「そんなに危険そうな森には見えないけど、何であんな魔物が居たんだろうね?」
「コタケ様の言う通り、本来であれば木こり達が中に入れるくらいには安全だったのですが、急に危険な魔物の報告が上がってきたのです。そう言えば、先程あの魔物はこの辺に生息していないと言ってましたが、本来は何処に生息しているのかしら?」
「本来であれば、砂漠などに生息している筈です。ここまで移動して来るとも考えにくいですし・・・」
クラニーさんの質問にエレオノーラさんがそう答える。
「まぁ、大体の予想はつくがの」
そんな中、ティーがそう言う。
「ティーフェン様は、今回の原因がお分かりなのですか?」
「恐らくじゃが、この先に・・・」
ティーがクラニーさんに答えようとした時、
「みなさーん、この先に変な物がありましたー」
とルインが帰ってきた。
「変な物って?」
「なんか、ほら穴みたいな?」
「どう言うこと?」
「見た方が早いじゃろ、さっさと行くぞ」
ティーは何も気にせずズカズカと奥に行くので、急いで後を追いしばらくすると、目の前に人が通れるくらいの穴の空いた10mくらいの岩が現れた。
「ねぇ、これってもしかして?」
「ダンジョンじゃな」
「ダンジョンですか!?」
ティーの言葉にクラニーさんは驚く。
「ダンジョンならば、地域に関係の無い魔物が出るからさっきの魔物が居ても不思議じゃないしの。恐らく、最近発生して中の魔物が溢れて外にまで出てきたんじゃろ」
「誰も踏み入った事の無いダンジョンか・・・危険だな」
「そうですね、これは想定外でした。しかし、放置しておく訳にもいきませんし、1度屋敷に戻って相応の準備をしませんとね」
ダンジョン経験の多い、エレオノーラさんとクラニーさんがそう話す。
「誰も入った事の無いダンジョンって言う事は、お宝も手付かずって言う事!?」
「まぁ、そうじゃろうな」
「じゃあ、こんな所でグズグズしてないで早く戻って準備してこよう!」
とお宝に釣られるオルフェさんに、皆んなが呆れる。
「どのみち、中にいる魔物を減らさないといけないので早急に戻りましょう」
そういうわけで、俺達は屋敷へと戻って行くのだった。
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