覚悟
「目的地ってここで合ってるのかな?」
「大賢者の奴はまだ来ておらん様じゃな」
俺は今、とある無人島にやって来ていた。
3日程前に大賢者さんから手紙が届き、この無人島の場所の地図とすぐに来て欲しいと言う内容だったのだ。
直径10km程の島には、所々に木々が生えているが他には何もなかった。
「こんな所で何をするんでしょうね?」
と一緒に来ていたメアリーさんが言った。
手紙にはメアリーさんも連れて来る様にと書かれていたのだ。
「メアリーさんを呼んだって言う事は恐らくあの件だとは思いますが・・・」
「私の力を抑える方法が分かったのですかね?」
大賢者さんには以前から、メアリーさんの力が再び暴走しない様に何か方法は無いかと聞いていたのだ。
「今は大賢者さんを待つしかないね」
それから1時間後。
島をグルグルと周りつつ暇をつぶしていると、不意に魔法陣が現れ、そこから大賢者さんが出て来た。
「皆さん、遅くなって申し訳ない。最終調整に手こずってしまいまして」
「お久しぶりです、大賢者さん。今日は一体どんな要件で?」
「お察しの通り、メアリーさんの件になります」
「やっぱりそうなんですね。何か手立てが見つかったという事ですか?」
「そうですね。まず、そちらをお話しする前にある事をして頂きたいのです」
そう言って、真ん中に黒い玉が付いた銀色の腕輪を取り出した。
「こちらにメアリーさんの全力の攻撃をぶつけて下さい」
「えっと?攻撃ですか?」
「はい、それも全力で」
急にそんな事を言われてメアリーさんは困惑状態だった。
「良いのでしょうか?」
「まぁ、大賢者さんが言ってるので・・・」
「では、ここに置くので攻撃しちゃって下さい」
そう言うと腕輪を20m程離れた地面に置いた。
「い、行きます」
メアリーさんが一本の槍を作り出し、腕輪を狙って撃ち放つ。
槍が腕輪に到達すると、腕輪の前にシールドの様な物が出現し槍を受け止めた。
「そのまま出力を上げていって下さい」
大賢者さんの指示の通りに槍に更に力を込めていき、シールドとの間に激しい火花が散る。
「今、どれくらいの力ですか?」
「7割くらいです」
「ふむふむ・・・」
そこから更に力を込めていくと、シールドにピキッとヒビが入った。
「ん?あれ?ちょ、ちょっと待って下さい」
と大賢者さんが待ったをかけると、メアリーさんは攻撃を止めた。
「一応確認ですが、今のが全力だったりしますか?」
「いえ、8割くらいになります」
「そうでしたか・・・すいません、計算間違えをしていた様で少し時間を貰ってもよろしいですかな?」
そう言うと、腕輪を拾い上げて何かをイジリ始めた。
「なんじゃ?一体何をしておるんじゃ?」
「さぁ?」
大賢者さんが作業を始めたので、また暇を持て余す事になった。
1時間後。
「ここをこうして・・・よし!これで良いかな」
どうやら作業が終わった様で、
「お待たせしました。これで大丈夫だと思うので、さっきの続きをお願いします」
腕輪を再び地面に置いて、メアリーさんがまた攻撃を開始した。
「そろそろ10割の攻撃になります」
攻撃を再開し少ししてから、メアリーさんがそう言った。
「そのままシールドを破壊してしまって下さい」
大賢者さんはそう言い、メアリーさんは頷いた。
「はぁぁぁーー!」
声を上げて最大限の力を込めると、パリンと音を立てて槍とシールドが同時に消えた。
「完成ですね」
大賢者さんが腕輪を拾い上げて、こちらに持って来た。
よく見るとさっきは黒かった玉が、赤色に変化していた。
「あの、大賢者さん。この腕輪が何なのかそろそろ説明して貰っても良いですか?」
「そうでしたね。まず、この腕輪はメアリーさんが暴走してしまった時に強力な電撃が装着者に襲う様になっています。これは恐らくティーフェン様でも気絶してしまうレベルかと」
「危険すぎじゃろ。そんな物メアリーに使ったら死ぬんじゃないのか?」
メアリーさんがコクコクと頷いている。
「何とか死なない程度にはなってると思いますし、ヴァンパイアに吸血による回復があるので問題は無いと思います。先程腕輪に攻撃をして貰った事で、メアリーさんの通常の状態での最大限の火力を覚えさせました。私は暴走状態の時にはそれ以上の力が発揮されると考え、覚えさせた力以上の攻撃が行われると暴走状態とみなされ電撃が発生します」
「もし、暴走していない時にそれ以上の力を出せたら?」
「1割から2割くらいであれば警告と言った形で、弱めの電撃が発生するので外して貰えれば結構です」
「これ以外に方法は無いんですかね?」
「私も当初は暴走の原因となる物を取り除こうとしたのですが、何分データが足りずどういった条件で発生するのかが分からなかったのです。ですので、暴走する前に何とかするのは一度諦めて、暴走した後の対処を考えた結果こうなりました。正直な所、上手く作用するかは分かりませんが・・・」
「瀕死になる事で、暴走状態が解かれるという事をですか?」
「えぇ、そう考えました。ただ、メアリーさんがその腕輪の効果に耐えてしまう可能性も否定は出来ませんし、最悪の場合死んでしまう可能性も否定は出来ません。効果が発動されれば、私に知らせが来る様になっているので、その時はすぐに駆けつけはしますが・・・後は本人次第です」
そう言い腕輪を差し出す。
流石に死ぬ可能性があるとなると、一考の余地があるなと思ったのだが、メアリーさんは迷わず腕輪を受け取った。
「本当によろしいのですね?」
「周りに迷惑をかけるくらいなら、私がどうなろうと関係ありません!」
「分かりました。腕輪自体はいつでも取り外し可能です。これからも他の方法が無いか探してみますが、今はこちらで我慢して頂きたい」
「何も無い時よりも、安心出来ますので大丈夫です」
そう言って、メアリーさんは早速腕輪を装着する。
どうやら既に覚悟を決めていた様だ。
「メアリーよ、何か変わった所はあるか?」
「うーん、特に何も無いですかね」
腕輪を装着しても変わりは無いようだ。
「まぁ、妾達もフォローはするから安心せい」
「はい、ありがとうございます!」
こうして、メアリーさんの暴走状態については、一時解決するのであった。
 




