お宝
ストラウド王国にやって来て3日目。
今は丁度、朝食を食べている所だ。
「今日でお別れなんて寂しいです」
「そうは言っても長い間、あの家を空けるわけには行かないからな」
「なら私も一緒に行きます!」
「メア、皆様を困らせてはいけませんよ。それに貴女には仕事があるでしょ」
と姉のシルアさんに嗜められるのだった。
朝食を終え、しばらく話し込んでいるとお昼が近づいて来たので帰る事にした。
「皆様、今回はお越し頂いてありがとうございました」
と城の入り口でメアさんは頭を下げる。
セルツさんとシルアさんも一緒に見送りに来てくれた。
「こちらこそ呼んでくれてありがとう」
「また来てくださいますか?」
「あぁ、勿論だ。次からは簡単に来れるからな」
「ふふっ、なら毎日来て頂いても良いのですよ?」
「それは怪しまれるだろう」
転移の事を言っているのだが、その事を知らないセルツさん達は不思議そうにしていた。
「父も時間を作ろうとした様なのですが、忙しくて今回は話す機会を設けれず申し訳無いと言っておりました」
「また次来た時に時間があったら是非とお伝えして下さい」
「その時は、シルア姉様の様に皆様を質問攻めにすると思いますので覚悟して下さいね」
とメアさんは笑いながら言い、それを聞き大変そうだと思うのであった。
「それでは、今回はありがとうございました」
「はい、また私の方からそちらに伺う事もあるかと思いますのでよろしくお願いします」
俺はお礼を述べて、メアさんはそう言った。
「それでは皆様、お身体には気をつけて」
と城を後にするのだった。
城を出た後は、街の外の人気の無い所へとやって来た。
そこで、家へと戻るゲートを開く。
「一応次に来る時は、ここら辺から出た方が良さそうだね」
「そうだな。転移を知っているのはメアだけだから、その方が良さそうだ」
「戻ったらまずは、お昼ご飯ですかね?」
「そうだね、でもあんまりお腹も空いてないし軽めの物で良いかな」
「私も最後とばかりに朝食を食べ過ぎました」
「私達も味を覚える為に詰め込み過ぎました」
と話しゲートに入ろうとすると、
「妾はちょっと寄りたい所があるから、先に帰っておるのじゃ」
とティーが言った。
「1人で行って大丈夫な所?」
「別に危険は無いから安心するのじゃ」
「うーん、でも何かあった時の為にも俺も付いて行くよ」
「妾1人でも問題は無いんじゃが」
「俺が居たら、転移で帰れるからその分楽だと思うよ?」
「うーむ、それもそうじゃな」
「じゃあ決まり。アリー達は先に帰っててね」
「はい、お二人共お気を付けて」
「あっ、そうじゃ。マジックバックを1つ貸して欲しいのじゃ」
「では、家に置いてある物を取りに行ってきますね」
とアリーに2つある内の普段使っていないマジックバックを持って来て貰い、ティーに乗って飛び立つのだった。
〜〜〜〜〜〜
飛び始めてから2時間くらいしただろうか、まだ到着はしない様だ。
ずっと雲の上を飛んでいるので、下がどうなっているのか分からない。
「そう言えば何処に向かってるんだっけ?」
「妾の懐かしの場所じゃ。ストラウドに向かう途中に見覚えのある地形を見つけてな、思い出すのに時間は掛かったが恐らく間違いは無いはずじゃ」
「懐かしい場所って?」
「まぁ、妾の寝床じゃな。大昔に使っておったから忘れておったがの」
「へぇ〜、ティーの住んでた場所かどんな所なの?」
「丁度、着いた所じゃし見た方が早いじゃろ」
そう言ってティーが降下していき、雲を抜けると目の前には真ん中に穴の空いた大きな山が立っていた。
しかも、その穴の中には真っ赤なマグマが溜まっていた。
「寝床って火山!?」
「そうじゃ。あの火口の中にあるんじゃよ」
「まじか・・・」
「まぁ、そう言う事じゃから掴まっておれよ」
そう言うと、急降下し火口へと突っ込んで行った。
「ちょっ!絶対熱いって!」
人間の俺にはマグマ付近の温度でも耐えられないと、ティーに待ったをかけたが止まってくれなかった。
だんだん近づくマグマに目を背ける。
が、一向に熱が上がる気配がしない。
「あれ?熱くない?」
「流石にお主に魔法も掛けずにマグマ溜まりに突っ込む訳無かろう」
「そ、そうだよね」
どうやらティーが魔法を掛けてくれていた様だ。
「でも、次からは前もって言ってね。普通ビックリするから」
「善処するのじゃ」
そんな会話をしつつ、マグマ溜まりのすぐ側までやって来ると、ティーは辺りを見回した。
「多分ここら辺なのじゃが・・・おっ?あったのじゃ!」
そう言って再び進み始めると、大きく開いた横穴が見えて来たのだ。
「あの中なの?」
「うむ、妾が自ら掘った穴じゃ」
ティーがドラゴンの状態でも入れる横穴なので、かなりの大きさだった。
「ふい〜、疲れたわい」
横穴に到着すると、人の姿に戻る。
「この奥が目的地じゃな。暗くて見えんし明かりでも灯すかの」
そう言い、火の魔法を掌で維持させた。
「奥に何かあるの?」
「ふっふっふ、お楽しみじゃ」
ティーは教えてくれず先に進んで行くと、左に続く曲がり角が現れた。
「この先じゃ」
ティーが先頭に角を曲がり後に続き、その場にあった物を見て俺は目を見開いた。
「うわっ・・・何これ・・・」
そこには、金色に輝く皿や杯、指輪、ネックレスなど様々な物が山積みとなっていたのだ。
「妾が大昔に集めていた宝じゃ」
「こんなに沢山どうやって集めたの?」
「他のドラゴンが貢物として持って来たんじゃ」
「龍王だから?」
「そうじゃな。妾に敵対しないと言う意味も込めて持って来たんじゃろうな」
「でも、なんでこんな金色の物ばっかり」
「ドラゴンはキラキラした物が好きなんじゃよ」
「なんか、カラスみたい」
「いやカラスって・・・まぁ、良いわ。それよりもここの宝を持って帰るのじゃ」
「その為にここに来たの?」
「そうじゃ、どうせ使わん物じゃし売っぱらってお金にした方が良いじゃろ?」
「そう言う事ね。じゃあマジックバックに詰め込んでいけば良いのかな?」
「うむ、今からいくらになるか楽しみじゃの〜」
「本物かどうかは分からないけどね」
「龍王への貢物じゃぞ、偽物を送る奴なんかおらんじゃろ」
「そうだと良いけど・・・」
そうして、山積みとなっていた宝を全てマジックバックへと収納するのであった。
「500個くらいあったかな?結構疲れたし、用事も済んだから帰る?」
「あっ、ちょっと待つのじゃ。ついでにアレも持って帰るんじゃ」
そう言いながら、来た道を戻って曲がり角の所に戻って来た。
「う〜む、確かここら辺じゃった様な?」
とティーは首を傾げながら行き止まりの壁を見つめる。
「まぁ良いか」
そう言った瞬間、ティーはいきなり壁を殴りつけて粉々にしたのだった。
すると、その壁の向こうに空間が現れて、その中には黒色の鱗や尖った爪が散りばめられていた。
「これってもしかしてティーの?」
「うむ、妾から生え変わりで落ちた鱗と爪じゃ。妾の魔力が蓄積されて簡単には放置出来んからここに捨てておったのじゃ」
「これも持って帰るの?」
「加工して武器にするも良し、売ってお金にするのも良しな代物じゃからな。案外さっきの宝よりも値が付くかもしれんぞ」
「そんなに?」
「ドラゴンの鱗で作った武器は強力じゃからな、それが龍王の物だったら凄い価値が付くのじゃ」
「じゃあ一応持って帰ろうか」
そうして、鱗と爪も詰め込んで家へと帰って行った。
〜〜〜〜〜〜
数日後。
「ティー、結果が届いたよ」
「うむ、読んで良いぞ」
持ち帰った宝の半分を旅商人のコリンさんに渡して、信頼する鑑定士に見て貰い、その結果が届いたのだ。
「えーっと、鑑定の結果・・・7割が偽物で値が付かないだってさ・・・」
「なんじゃと!?」
「残りの3割もそこまで大きい額にはならないみたいだよ」
「ぐぬぬ、まさか本当に龍王に偽物を献上する輩が居るとは・・・」
「この様子だと残りの分も望み薄だね」
「はっ!もしや古過ぎて、その鑑定士にその時代の宝物の知識が無かったとかじゃないのか?」
「そもそも鑑定魔法で金は使われていないって出たみたいだよ」
「あやつら、いい加減な物を寄越しおって・・・生きておったら息の根を止めに行っておったわ」
「あはは・・・まぁ、でもティーの鱗は結構な値段で売れたんだよ」
「いくらじゃ?」
「大金貨5枚だって」
「大金貨5枚!?」
近くで聞いていたオルフェさんが飛び上がって、こちらにやって来た。
「そ、それって持って帰って来た分、全部でたよね?」
「何を言っておる。1枚の値段に決まっておるじゃろ」
ティーにそう言われて、オルフェさんは立ったまま固まった。
そう、今回売った鱗は1枚だけなのである。
流石は龍王の鱗と言った所だ。
「そんだけあったら、王都で10年くらいは豪遊して暮らせるよね。て言うか私が苦労してお金を稼いでるのに、ティーフェンちゃんは体でそんなに稼げるんだね・・・」
「その言い方は誤解を生むじゃろうが、よさんか」
「でも、コリンさんからはこの代物を大量に貰っても捌ける所が簡単に見つからない上に、何処から仕入れているのかと問い詰められるから、あんまり外には出さない方が良いってさ」
「まぁ、そうじゃな。必要になった時に売る感じで良いじゃろ」
「コリンさんに鍛治士を紹介して貰って、武器とか作って貰うのも良いかもね」
「とりあえずしばらくしたら、残りの宝でリベンジといくのじゃ!」
とティーは意気込むのだった。
ちなみに結果はと言うと、8割方が偽物だったらしくティーは更にご立腹になるのだった。




