闘技場
ストラウド王国にやって来た俺達は、メアさんと話をしているといつの間にか夕方になっており、お腹も空いたので食堂へと向かっていた。
「兵士の方、びっくりしちゃってましたね」
アリーがそう言う。
「えぇ、すっかり忘れていました」
最初は4人しかいなかった客が急に増えて出て来たのだ。
当然驚くだろうし、クロ達も居るので敵と間違われてもおかしくなかった。
「あの兵士に他の者にも伝えて貰いましたので、もう大丈夫だと思います。さて、食堂に到着致しました」
メアさんがそう言って扉を開くと、長いテーブルの上に沢山の料理が並べられていた。
そして奥の方に、髪を腰まで伸ばした黒髪と茶髪の女性が2人座っていたのである。
「あれ?お母様とお姉様じゃないですか!どうしてこちらに?」
「貴方がお世話になった方達にお会いしたかったのですよ」
黒い髪の女性がそう言う。
「それなら教えて下されば良いのに」
「メア、このお2人は・・・」
「そうですね、まずはご紹介致します。こちらの黒髪の女性が私の母で第二王妃のセルツ・ストラウドと茶髪の女性が私の姉で第一王女のシルア・ストラウドです」
セルツさんはキツネの耳をしていて、シルアさんはネコの耳をしている。
「まぁ、お母様とお姉様なんですね。確かメアさんの他に9人の兄弟がいるんでしたよね?」
「はい、シルアお姉様と私は血の繋がった姉妹なんです」
「いつも妹がお世話になっております。ご迷惑はお掛けしていませんか?」
「迷惑なんて全然」
「この子は昔から落ち着きが無かったですからね、エレオノーラ様とお会いしてから急に淑女らしく振る舞う様になったんですよ」
「お、お姉様っ!」
シルアさんの言葉にメアさんは慌てた様子で為に入った。
「さっ、色々と話したいこともありますから、まずはご飯を食べましょうか」
セルツさんがパンッと手を叩いてそう言った。
テーブルには色んな料理が並べられているが、特に肉系の料理が多かった。
「皆様、お口に合いますでしょうか?」
味付けはスパイシーな物が多く、特別辛いと言う訳では無いが、
「うぅ〜ちょっと辛い」
とベルには少し合わなかった様だ。
「ごめんなさい小さな子までいらっしゃるとは思っていなかったので、すぐに別の料理をご準備致しますね」
ベル用に辛くない料理を持って来て貰い、
「うん!美味しい!」
と笑顔で喜び、セルツさん達もつられて笑顔になった。
「良ければ翼人族とヴァンパイア族の方々が普段食べる料理を教えて貰ってよろしいでしょうか?それに幽霊の方や自我のある植物に会うのは初めてなのではワクワクします!」
とシルアさんがそんな事を言った。
「お姉様は父に似て博識なのです。なので、色々な事が気になるんですよ」
「メアとは正反対のタイプだとは良く言われますね」
「私だって戦いに関する知識ならば沢山ありますよ!」
「そう言う所が原因なんですよ」
活発なメアさんとお淑やかなシルアさんで、何となく分かる気がする。
「それで、私達の食事だっけ?」
とシエルさんが話を戻した。
「えぇ、そうです」
「翼人族は、野菜とかがメイン。お肉はあんまり食べないけど嫌いって訳じゃない」
「なるほど、なるほど」
とシルアさんはメモを取りながら話を聞いていた。
「シルア、食事中ですよ。後にしなさい」
「す、すみません・・・」
どうやら好きな事に熱中してしまうタイプの様だ。
そんな所は何となくメアさんにも似ている。
「また、後ほどお話を伺っても?」
「構いませんよ」
とメアリーさん達と約束をして食事に戻る。
「野菜と言えば、メアは昔から苦手だったのよね」
「なかなか食べてくれないから大変だったのよね。今も好きじゃないからって全然食べてくれないし、困ったものだわ」
「食べてなくてもここまで成長してるから大丈夫なんです〜」
シルアさんとセルツさんの言葉にメアさんは反論する。
すると、アリーが何やらエレオノーラさんに耳打ちをしている。
「なっ!」
エレオノーラさんは急に顔を赤くして、
「そ、そんなことできませんよ」
と小声で焦った様子で話している。
「貴女ならできるわよ」
「う、うぅ・・・」
アリーに押し切られ観念したのか、立ち上がりメアさんの隣に移動した。
「どうしましたか?」
不思議そうなメアさんにエレオノーラさんは、
「あ、アーン」
と言いながら野菜を取ってメアさんの口元に運ぶのだった。
「なっ!」
「「まぁ!」」
メアさんは驚き、セルツさん達も声を上げる。
「どうしたメア?食べてくれないのか?」
「うっ、ぐぅ〜・・・」
エレオノーラさんのアーンを前にメアさんも苦悶している。
そして、ついに決心して口を開いて野菜を食べてくれた。
「それは反則です・・・」
悔しそうにそう言うメアさんに、
「エレオノーラ様が居てくれたメアも毎日、野菜を食べてくれますね」
とセルツさんが言うのだった。
それからご飯を食べ終えた後は、約束通りシルアさんとメアリーさんが話をしたり、昔のメアさんの話をセルツさん達から聞くのだった。
〜〜〜〜〜〜
翌日。
初めてやって来た国なので、午後からメアさんの案内で街の観光もする事になった。
「この国ならではの観光スポットってあったりするんですか?」
「うーん、そうですねぇ・・・この国ならではという訳では無いんですが、闘技場なんでどうでしょうか?獣人は戦う事が好きな者が多いので、毎日闘技場が開かれていますよ」
「ほ〜、面白そうじゃな」
「行ってみますか?」
「それらしい建物は見てないですけど、何処にあるんですか?」
「この反対側にあるので行ってみましょうか」
と言うわけで、闘技場のある場所へとやって来た。
その場所には、コロッセオの様な円形闘技場があった。
周りには屋台なども出ている。
「こちらが闘技場になります」
そのまま中に入っていくと、ウサギの耳とクマの耳を持つ2人の男の獣人が剣と盾を持ってぶつかり合っていた。
「今日はイベント事では無いので観客は多くないですが、大会などが開かれている時には毎日満席になるんですよ」
「それは凄い人気ぶりですね」
「試合は相手が降参するか行動不能になるまで続きます。審判がいるので死人が出る事は滅多に無いですが、年に数件は死亡の報告を聞きます」
「これは誰でも参加出来るのか?」
「どんな方でも参加出来ますよ。ただ、エレオノーラさんが出てしまうと圧勝してしまいそうですが」
メアさんから解説を受けていると試合に動きがあり、クマ耳の男性が相手の剣をへし折った。
「よっしゃー、そのまま行っちゃえー!」
何故かオルフェさんがクマ耳の男性を応援しているが、とりあえず気にしない。
これで相手も降参で終わりだろうと思ったのだが、試合終了の合図がない。
どういう事だろうと思い見ていると、ウサギ耳の男性が相手から一気に距離を取り、急に猛突進し始めた。
「えぇ!?」
武器が無いのにどうするんだろと思うと、ウサギ耳の男性の足元に違和感があった。
先程まで普通の人間の足だったのが、ウサギの足の様になっているのだ。
「メアさん、あれは一体?」
「あれは獣人特有の獣化という技です。体の一部を動物の様に変化させてその特性を得る事が出来るのです」
「あの男性はウサギ耳だから、ウサギの足になってるんですかね?」
「そうですね、私の場合はオオカミの耳ですので変化させると走る速度や持久力が上がるのです。あの男性の場合はウサギですので跳躍力が上がりますね」
メアさんがそう言った途端に、ウサギ耳の男性は軽く地面を蹴って飛び上がった。
軽く蹴っただけなのに、一瞬で20mくらいの高さまで上がり即座に落下しながら相手の男性にキックを入れた。
相手は盾で防御したが、その蹴りの威力に耐えられず盾は粉々に砕けてキックが男性に入り、遠くまで吹き飛ばされた。
「あれは気絶しましたね」
メアさんが言う様に、審判がカウントをしてもクマ耳の男性は起き上がることは無く、そのままウサギ耳の男性の勝利で試合は終了した。
獣人ならではの戦いで見応えがあったなと思っていると、オルフェさんが急に、
「あぁぁぁーー!」
と大きな声で溜め息を吐いた。
「さっきからどうしたの?」
「い、いや別に何でも無いよ〜」
これは何か隠しているなと思っていると、
「先程、クマ耳の男性の勝利にお金を賭けていたのでそのせいだと思います」
リッヒさんがそう言った。
「リッヒちゃん、内緒だって言ったんじゃんか〜」
「いつの間にそんな事を・・・まぁ、自分で稼いだお金だから良いけど、あんまりやり過ぎない様にね」
「はーい」
「それも闘技場での1つの楽しみ方ではありますから。まぁオルフェさんが勝つ様なイメージが湧かないのですが」
「「確かに」」
メアさんの言葉に皆んなが口を揃えてそう言うのだった。
試合が終わったので闘技場を出る。
「そう言えば、もう1つの闘技場は何なんですか?」
「あぁ、そちらは人と魔物が戦う場所なのです。ですので、今回は行くのを避けたのですが・・・」
クロ達を見ながらメアさんはそう言った。
どうやら気を遣ってくれていた様だ。
メアさんの言葉にクロ達は問題無いよと言っている様だった。
家では普通に魔物を狩って来てくれたりするので、同じ種族じゃ無いと仲間意識はあまり無い様だ。
「クロ達も問題無さそうなので、そっちの闘技場も見ても良いですか?」
「そう言う事なら是非!また違った面白みがありますから」
ともう1つの闘技場も観戦しに行くのだった。
ちなみにオルフェさんが、また賭け事をして負けていたのは言うまでも無い。
そうして、夕方になったので城へと戻る事になった。
「エレオノーラさん達は明日まで滞在して下さるのですよね?」
「あぁ、明日のお昼頃には帰る予定だ」
「今日もご馳走を用意してありますので、沢山お話ししましょう!お母様達も今日もご一緒したいみたいなんですが宜しいですか?」
「勿論構わない」
「では、そうお伝えしますね!」
とメアさんは嬉しそうにしながら城へと戻るのであった。
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