獣人の国
「コタケ殿、ちょっと良いか?」
「どうしました、エレオノーラさん?」
「実はメアから国に遊びに来て欲しいと手紙が届いてな。どうせなら皆んなで行こうと思ってな」
メアさんと言えば、獣人の国ストラウドの第3王女だ。
「大勢で行っても迷惑じゃないですかね?」
「一応、部屋は多めに確保してくれているらしい」
「そっか、じゃあ折角なら皆んなで行こうか」
「今日の夜に私から皆んなに話そう」
そして、夜ご飯の時にエレオノーラさんが聞くと全員行ってみたいと言い、ストラウド行きが決定した。
〜〜〜〜〜〜
3日後の朝、ドラゴンに変身したティーに乗ってエレオノーラさんと俺とアリーで先にストラウドに向かい、後から転移で他の人達を連れてくる事にした。
「ストラウドまでどれくらいかかるの?」
「6時間と言ったとこじゃな」
「6時間か、まぁまぁあるね」
「まぁ、辛抱じゃな」
「うん、それにしてもティーに乗るのって久々な気がする」
「確かに最近はヒルズちゃんの転移で移動も楽でしたからね」
「久々の長旅も悪いものではないですね」
「確かにそうじゃな。妾も最近はこの姿になっておらんだし、久しぶりにカッとばしたくなって来たのじゃ」
「安全運転でね?」
「分かっておる分かっておる、きちんと掴まっておくんじゃぞ」
ティーはそう言うと一気にスピードを上げ、結局6時間かかる道を4時間で到着するのだった。
「安全運転でって言ったじゃん・・・」
「すまん、すまん、張り切りすぎてしまったのじゃ」
無事にストラウドに到着はしたが、あまりのスピードに酔った俺とアリーは木陰で休んでいたが、
「いや〜、楽しかった。もう一度やりたい所だ」
エレオノーラさんは楽しそうにそう言った。
しばらく休んで回復もしたので早速、王城へと向かう事にした。
「やっぱり獣人の国って言うだけあって、耳とか尻尾の生えた人が殆どだね」
周りには、ネコやキツネ、クマなど様々な動物に似た耳を持つ人が居たのだ。
「そうですね、モフモフで気持ち良さそうです」
「お嬢様、流石に触ってはいけませんからね?」
「分かってますよー」
「触ったら何かダメなんですか?」
「獣人は気の許した相手にしか耳を触らせないんだ」
「気の許した相手?」
「端的に言うと伴侶だな」
「それは確かにダメですね」
「だから触った者を殺すか伴侶として共にするかだな。まぁ、前者が殆どだろうが」
「あれ?じゃあシエルさんとかの翼を触ってたけど、もしかして・・・」
「翼人族にそう言ったものは無いと聞いたので大丈夫ですよ」
俺の言葉にアリーはそう返した。
そうして、しばらく歩いていると城門に到着した。
門には2人の槍を持った門番が警備をしていた。
「何者だ!」
「すまない、メア王女から呼ばれたのだが話は通ってるだろうか?」
「ちょっと待っていろ」
門番の1人がそう言って、城へと入っていくと慌てた様子ですぐに戻って来た。
「ご無礼致しました!こちらへどうぞ!」
さっきまでとは打って変わった態度で城の中へと案内された。
階段を上がって3階に行き長い廊下を歩くと、扉の前で止まった。
「王女様!お客様をお連れ致しまた!」
「はい、どうぞ」
と優しい声が聞こえてドアが開くと、イスに座りお茶をしているメアさんが居た。
「ご苦労様です。貴方は下がって宜しいですよ」
「しかし・・・」
「この方達は大丈夫ですので」
「はっ!失礼致しました!」
そう言って案内をした兵士は部屋から出て行った。
兵士がバタンと扉を閉め終えて少し間を開けると、
「エレオノーラさーん!会いたかったですー!」
とさっきまでの落ち着きは何処かに行き、嬉しそうに声を上げたメアさんがエレオノーラさんに抱きつくのだった。
「ちょっ!メアっ!」
いきなりの行動にエレオノーラさんは驚き、アリーとティーはニヤニヤとする。
「うぅ、お久しぶりです。お元気でしたか?」
「あ、あぁ、私は元気だ。だから、抱きつくのをやめてくれないか?他の人も見ているから」
エレオノーラさんがそう言うと、メアさんはハッとして、
「お、お見苦しい所をお見せ致しました。久しぶりにお会いしたので・・・」
「ふふっ、メアさんも元気そうで何よりです」
「皆さんもお変わりないようで良かったです。今日は来て頂いてありがとうございます。それで、早速で申し訳無いのですが、今から私の父に会って頂いても宜しいでしょうか?」
「父と言うと・・・」
「はい、国王になります」
〜〜〜〜〜〜
メアさんの父であり、この国の国王でもある人に会う為に2階にあるという謁見の間へと向かっていた。
「凄い緊張する」
「今回は公式の場では無いですし、他の大臣には席を外して貰ってるので身構えなくとも大丈夫ですよ」
俺の言葉にメアさんはそう言うが、やはり何度経験しても相手は王族なのでかなり緊張する。
「あっ、到着しました」
目の前には、一際大きな扉がある。
その扉の側に控えている兵士に、
「国王陛下に謁見に参りました」
とメアさんが告げると、ギギギと音を立てながら扉が開かれる。
中に入り、赤い絨毯に沿って歩いて行くと玉座の前に到着する。
そして、その玉座には茶色の髪にライオンの耳を生やし、筋肉ムキムキの長身の初老の男性が座っていた。
傍らにはヒョウの様な耳をした細身の銀髪の男性が立っている。
「国王陛下、お客様をお連れ致しました」
メアさんが膝をつき、俺達もそれをマネする。
「うむ、楽にせよ」
メアさんの動きをマネて立ち上がる。
「その者達が、お前の言っていた者か?」
「はい、コタケ様、アリシア様、エレオノーラ様、ティーフェン様になります。他にもいらっしゃるのですが、後程いらっしゃる様です」
「そうか。余はストラウド王国の国王ラウター・ストラウドである。どうやら娘が世話になった様だな。礼も兼ねて話をしたい所だが、少し多忙の身でな。また後程、話をする時間を設けさせてくれ」
俺達はコクンと頷く。
「今晩は豪華な料理を準備をしている様だ。それまで、ゆっくりと休んでいてくれ」
「ありがとうございます」
「うむ」
こうして、すぐに謁見の間を後にするのだった。
「皆さん、折角お越し頂いたのに簡単な挨拶で申し訳無いです」
「忙しいんですから仕方が無いですよ」
「それにしてもメアさんのお父様はとても強そうな方ですね」
部屋に戻る道すがら話をしていた。
「やはりそう見えますかね?」
「実際に強いんじゃ無いですか?」
「実は父はああ見えて、強くは無いんです」
「えぇ・・・」
「父は頭が良く、その頭脳だけで国王にまで上り詰めたのです」
「それはそれで凄いですけど、人は見た目によらないですね」
「あの見た目も相まって、謎のカリスマ性もあり民からの人気も良いんです」
「しかし、それだけでは他の人に戦いを挑まれそうだが?」
エレオノーラさんがそう言う様に、獣人は力を重視する傾向があるので挑まれたら終わりの様な気がする。
「父の横に立っていた方を覚えてますか?」
「あの銀髪の?」
「えぇ、あの方は宰相なのですが昔から父とは唯一無二の親友なんです」
「それと何の関係が?」
「父が王になる前、当時最強の銀髪剣士と呼ばれていた者が居たんです」
「それってまさか・・・」
「はい!それがあの宰相なんです。当時王位継承を争っていた父の家臣として一緒に行動していたそうなのですが、戦いを挑まれた時に私を倒す事が出来れば挑ませてやると言っていたそうです」
「勿論結果は?」
「誰一人として勝てなかったそうです。そう言う事もあり、あの様な強い家臣を従えていた父は更に強い人物なのではと噂が広がったそうで更に人気になったそうです」
「凄い話ですね」
「父も彼に出会えた事は、人生で最高の出来事の内の1つだと言っていました」
「今は現役を引退しているのか?」
「まぁ、宰相になりましたからね。それでも自主的な鍛錬を怠っていないので、私も戦うと100%勝てる訳では無いですよ」
「メアでも絶対勝てる訳ではないのか、それは確かに凄いな」
「なんと言ったって、私の師匠でもありますから!」
「なるほど、メアの強さはそこから来ていたのだな」
「師匠に才能を見出されてここまで成長できました!」
と話しているとメアさんの部屋に到着した。
「そう言えば、他の方達はどうやっていらっしゃるのですか?」
「あっ、そうでしたね。今から起こる事は内密にして欲しいんですけど」
「口は堅いので大丈夫ですよ!」
「それじゃあ、いきますね」
と俺はヒルズを呼びゲートを開いて中に入ると、他の人達を連れて戻って来た。
「もぉ〜待ちくたびれたよ〜。あっ!メアちゃん、やっほー」
「こ、こんにちは・・・」
メアさんは目を点にして驚いていた。
「あの、これはもしや転移魔法でしょうか?」
「魔法ではないんですが、精霊のヒルズの力で一度行った事のある場所ならいつでも行けるんですよ」
「なるほど・・・確かにこれは口外出来ませんね」
「そうだよ〜、他の人に言っちゃったら私が襲っちゃうよ〜」
「オルフェさんとなら五分五分の戦いになると思うので望む所です!」
「なんでやる気満々なの!?」
「冗談ですよ、冗談」
「ほんとかな〜?」
「それよりも、以前お見かけしなかった方もいる様ですが、エレオノーラさんが手紙に書いていた方達でしょうか?」
「そうだ。翼人族のシエル、ヴァンパイアのメアリー、マンドラゴラのドラちゃんだ」
「翼人族とヴァンパイアのお二方はギリギリ納得出来るのですが、マンドラゴラですか・・・」
「まぁ、混乱するよな」
「自我のある植物など聞いた事ありませんからね」
「そのうち慣れるから安心せい」
「慣れてしまって良いのでしょうか・・・」
ティーの言葉にそう言うのだった。
その後、どうやって出会ったのか詳しく話している内に夕方になった。
「もうこんな時間ですか。食事の準備が出来ていると思うので食堂に行きましょうか」
「お昼食べてなかったから、お腹ペコペコだよ〜」
「オルフェさんの好きなお酒も準備してあるので、楽しみにしていて下さいね」
「わーい!」
と部屋を後にして、食堂へと向かうのだった。
 




