開店
「私、働くわ!」
ある日、急にそんな事を言い出したオルフェさん。
「急にどうしたんです?」
「そろそろ私もこの家に貢献した方が良いかな〜って思って、ベルも一緒に置いて貰ってる訳だし」
「別にそんな事考えなくても良いのに・・・服とかも作って貰ってるんですから」
「それだけじゃちょっと物足りないじゃん。だから、金銭面でも貢献しようと思うの!」
「金銭面?」
「服屋を作るわ!」
「え?」
「やっぱり特技を活かした方が良いでしょ」
「それは分かるけど、一から始めるのも大変じゃ?場所とかも探さないといけないし、服はオルフェさんが作るとしても材料費だったり、お金もそれなりに掛かってくると思うけど」
「うーん、場所はここから1番近い街を考えてるんだけど」
「俺も詳しくないからなぁ・・・アリーとかなら分かるんじゃないかな?」
「確かに!ちょっと聞いてみよう!」
と料理の手伝いをしていたアリーを呼んで聞いてみた。
「服屋を構えるんですか!」
「うん、私もそろそろ働いた方が良いかなって思ったから」
「そうですか、少しビックリしましたがオルフェさんの為に私も全力で協力しますよ!」
「ありがとうアリシアちゃん。それで、店の場所をここから1番近い街にしようと思うんだけど、どうかな?」
「ちなみに売る予定の服はどういった感じの物なんですか?」
「メインは女性で、仕事にも着ていける様な普段着から特別な日に着る服とか様々だね」
「そう言う事でしたら、ここから近い街はあまりオススメ出来ませんね」
「どうして?」
「あの街は冒険者が多いんですよ。その関係で女性の人数も少なく、働く場所も酒場やギルドと決められた服装の所が多いんですよ」
「そうだったんだ・・・それじゃあ他の場所を考えないとね」
「それでしたら、私の実家のある街なんてどうでしょうか?あそこでしたらオルフェさんの要望に叶う様な方達が来ると思いますよ」
「でも、距離はそれなりに離れてるよね?」
「距離なら気にしなくても良いと思いますよ」
アリーは俺を見ながらそう言う。
「あっ!そっか、ヒルズちゃんの力ですぐに行けるんだ!コタケ君、ヒルズちゃんにお願いして貰って良いかな?」
「それくらいでしか役に立てなさそうだし、後でヒルズにお願いしておくよ」
「やったー!ありがとう!」
「あとはお店の場所ですね・・・オルフェさん、明日内見に行きましょう!私も手伝います!」
「えっ、そこまでして貰わなくても・・・」
「そもそも開店資金とかはちゃんとあるんですか?」
「え〜っと、その・・・何処かで借りようかなと」
「そんな事だろうと思いました。私がオルフェさんに資金をお貸ししますので、開店まで手伝います!」
「はい・・・」
オルフェさんだけだと心配だったが、アリーが付いて行くなら問題無さそうだな安堵するのだった。
〜〜〜〜〜〜
翌日、内見を終えた2人が夕方頃に帰って来た。
「凄かったわ・・・」
ただ一言、オルフェさんがそう言った。
「何かあったんですか?」
「アリシアちゃんのお陰で安くかなり良い場所を買えたんだけど、商人相手に一歩も引かずにしかも家名も出さずに自分の力だけでやってたの」
「流石アリーだね」
「ふふ、ありがとうございます。これで、店は確保が出来たので、従業員を募集しつつお店の準備ですね」
「従業員募集の張り紙はついでで出して来て面接は1週間後だがら、それまでは服とか店内の準備をしないとね」
「何だか私も楽しくなってきちゃいました」
とアリーもやる気満々になるのだった。
〜〜〜〜〜〜
1週間後。
この間に皆んなで手伝った事もあり、お店の準備はほぼ完成した。
今日は募集を見てやって来た応募者の面接の為に午前中から、アリーとオルフェさんは街に行っていた。
「良さそうな人は見つかったかな?」
お昼を過ぎ、リビングで暇を潰していた俺がそう呟くと家の中に急にゲートが現れ、
「うわーん!コタケく〜ん、ちょっと助けてー!」
そう言いながら現れたオルフェさんに手を引かれて、訳も分からず面接を行っている店へと連れて来られた。
「ちょ、ちょっと事情を聞かせて下さい」
「説明するより見た方が早いよ!」
そんな事を言われて、面接を行っているであろう部屋の扉が開けられ中に入れられると、そこには椅子に座っているアリーと金髪で赤いワンピースを着た筋肉ムキムキの長身の男が居たのだった。
「えっと、どういう状況?」
「あら!男だわ!イケメンって感じじゃないけど、優しそうね。良かったらこの後、ワタシとデートに行かない?」
状況が飲み込めないでいると、目の前の男が俺を見ながらそう言ってきた。
(もしかして、この人・・・)
何となく察してしまった俺はアリーに説明してもらう事にした。
「オルフェさんが応募した従業員は女性限定だったんです。お客さんが女性ですから同性の方が楽だと考えたそうです。それで応募は10人で、9人目まで終わり最後の1人となった所で、この方が部屋に入って来たんです」
「最後の1人がこの人だったと・・・」
「私は、女の人限定って書いたのに」
「あら、ヤダ。何回も言ってるけどワタシは女よ?何処からどう見てもそうでしょう?」
低い声に筋肉を剥き出しだと信憑性が無い。
「だって、何処からどう見ても男じゃん!名前もヒューゲルって完全に男だし」
オルフェさんの言いたい事も分かるが、世の中色んな人がいるから何とも言えない。
「それで、オルフェさんは何で俺を呼んだんですか?」
「男のコタケ君から見て判断して貰いたかったの」
「そういうことか・・・」
俺はヒューゲルと言う人にチラッと視線を向ける。
こちらの視線に気付きパチパチとウィンクを送ってくる。
「最終的に決めるのはオルフェさんなんですから、俺がとやかく言う資格は無いんですけど、俺を呼ぶって言う事は何か迷ってるって言う事ですよね?」
普通なら速攻不採用にするだろうが、オルフェさんは敢えて俺を呼んだのだ。
「その、応募者の中で唯一の服屋の店員を経験してた上に、私の服のデザインも凄く褒めてくれたから悪い人では無いと思ったから・・・」
そう悩んでいた理由を教えてくれる。
「なら、もう答えは出てるんじゃ無いですか?」
「う〜ん・・・うん、う〜ん・・・」
オルフェさんは悩みに悩んだ末、ひと息吐いてから、
「分かったわ!貴方を採用するわよ」
「まぁ!ヤッタ!」
「それから貴方には店長代理という立場になってもらいます」
「いきなりワタシをそんな立場にして大丈夫なの?」
「最初は私も店に出て手伝うけど、服を作ったりしなきゃいけないから、誰かに店を任せないといけないの。貴方なら知識もあるから大丈夫だと判断したのよ」
「そこまで信頼してくれるのなら、ワタシも期待に応えないとね」
とその筋肉質な腕をパンと叩くのだった。
「はぁ〜、何だか少し不安になって来た」
全ての面接を終えたオルフェさんが溜息を吐いて、そう言った。
「色々と大変だろうけど頑張ってね」
「コタケ君もアリシアちゃんもありがとね」
「私は結構楽しかったのですよ。まだ、暫くは私も手伝うので安心して下さい」
「うぅ、アリシアちゃ〜ん!」
と泣きながら抱きつくのであった。
〜〜〜〜〜〜
そこから更に1週間が経ち、遂にオルフェさんのお店がオープンする事になった。
アリーとオルフェさんは先に店に行って準備をして、俺達は後からやって来た。
オルフェさんの店は、大通りに面しており行き交う人の目に入りやすい。
そして上の方には、"ブティック オルフェ"と自分の名前を入れた店名の看板がぶら下がっていた。
店の扉を開けカランカランと鳴るベルと共に入店する。
「いらっしゃいませ!・・・ってコタケ君達か」
接客にやって来たオルフェさんが俺達を見てそう言った。
「調子は・・・?」
「コタケ君達が初めてのお客だよ」
店内は閑散としていて、外からは人が入ってくる気配がない。
「何で誰も来ないんだろう・・・」
「初日だし、仕方がないよ」
「やっぱり、ヒューゲルのせいかなぁ」
「アーン、オルフェちゃんたらひどーい」
オルフェさんが作ったであろう服に身を包んだ店長ヒューゲルがそう言う。
よく見ると、後の4人の女性店員もオルフェさん作の服に身を包んでいる。
「何はともあれ店の宣伝が必要だよね。だから、お店の宣伝の紙を従業員の子に配って来て貰ったんだけど、それでも誰も来ない・・・」
「根気よく頑張るしかないよね」
「ママ頑張って!」
「ありがと〜ベル〜!」
ベルの応援にやる気の上がったオルフェさんだったが、結局初日は客は誰もやって来ない最悪のスタートとなるのだった。




