成長
謎の卵から産まれた白いドラゴンと暮らし始めてから、1週間が経過した。
皆んながドラゴンを育てるのは初めてなので手探りで色々と試してみているのだが、かなり知性が高いのか全く手の掛からない子だった。
食べ物は肉や野菜など意外と何でも食べており、トイレも自ら場所を決めてそこしている。
そして、戦闘能力も高く口から火のブレスを吐き近くにいた魔物を黒焦げにしていた。
そんな感じで良い子なのだが、1つだけ大きな問題があった。
それは成長スピードだ。
産まれたばかりは30cm程だった体長が今では1週間で3mになっていたのだ。
流石に家の中には入らないので、クロ達の小屋を拡張してそこで暮らして貰っている。
「ドラゴンってこんなに成長するの早いの?」
「いや、流石に早過ぎじゃ。そういう個体なのかもしれんが」
「そもそもこの子ってなんて言う名前のドラゴンなの?」
「分からん!」
ティーは腕を組みながらはっきりと言う。
「龍王の力的な物で分からないの?」
「そんな都合のいい物は無いのじゃ。ラヴィの家で本が無いか調べる方が早いじゃろ。もしくはフィーアに直接聞くか・・・」
一応ヒルズにお願いして、フィーアさんの精霊ランフィに連絡を取って貰っているが音沙汰は無い。
「そう言えば、こやつの名前は決めんのか?」
「ベルがシロが良いって言ってたけど」
「そのまんまじゃな、妾としてはもっと格好いい名前の方がいいんじゃが」
「まぁ、名前は後から皆んなで決めよ」
「そうじゃな、さてそろそろ中に戻るとするかの」
ティーが家へ戻ろうとすると、上空から影が現れてビューと風が吹き荒れた。
何だと空を見上げてみると、そこには全長20m位の白いドラゴンが飛んでいた。
「もしかして、あの子の親?」
「多分そうじゃろうな」
親ドラゴンはそのまま地面に着地し辺りを見回すと、ドラちゃんが子ドラゴンの背中に乗って遊んでいるのが目に入った様で、それを見て虐められていると思ったのか咆哮を上げた。
ドラちゃんは、その咆哮に驚き背中から転げ落ちた。
その瞬間を狙って親ドラゴンがドラちゃんに攻撃しようとしたので、ティーが急いで間に入り攻撃を止めた。
「グルルルル・・・」
気が立っている親ドラゴンは再び攻撃態勢に入る。
「妾が誰か分からんのか?」
ティーはそう言いながら圧を掛ける。
ドラゴンはそれで龍王と気付いたのか少し怯えた様子だった。
それでも、自分の子供が虐められていると思っているので、なりふり構わずティーに突進した。
「その意気はいいが無謀じゃ」
ティーが手に力を込めて殴り迎えようとした瞬間、
「キュウ!」
「ちょっとまったー!」
と子ドラゴンと音信不通だったフィーアさんが突如間に入り制止するのだった。
「なんじゃ、生きておったのか」
「折角の再会なのにいきなり酷いな〜」
「訳の分からん卵を押し付けて1週間以上も音信不通だった奴が何を言っとるんじゃか」
「一応手紙書いといたじゃん」
「あれだけ分かる訳ないじゃろ。今から洗いざらい吐いて貰うからの」
ティーに詰め寄られたフィーアさんは事情を話し始めた。
何でも、山を歩いていたら卵が落ちていてその近くで親ドラゴンが魔物と戦っていたそうだ。
そのせいで卵を育てられないと考えて卵を俺達に預けて、自分は親ドラゴンに加勢したそうなのだ。
「それで?お主なら転移出来るからもっと早くに来れたじゃろ?」
「うん、転移しようとしたんだけど次は人間が襲って来たんだよね。それでその人間達があのドラゴンの卵を奪う為に魔物を送り込んでたみたいで、失敗したから強硬手段に出て来たからとっちめて衛兵に突き出したんだよね。そしたらそいつらが犯罪組織の一員だったみたいで、また同じ事が起きない様にその組織を潰しに行ってたんだー」
「結構大がかりな事になっておったな・・・」
「そーそー、だから許して欲しいな〜」
「それでもちゃんと報告するんじゃ」
「ごめんね、次は気をつけるから」
「いや、これっきりにして欲しいんじゃが・・・」
ティーの言う通り何回もあっては俺達も困る。
「それで、親を連れて来たという事は子供を引き取りに来たという事で良いのか?」
「そうそう、まぁまさか孵化してここまで育ってるとは思わなかったけど」
「そもそもこのドラゴンの種類は何なんじゃ?」
「色々調べてみたらサントドラゴンって言う凄い珍しいドラゴンみたいで、100年に1匹現れるかどうかってレベル何だって」
「ほぉ〜初めて聞くの」
「もぉ〜、ティーったら龍王なのに知らないなんてダメだよ」
「世界は広いんじゃから仕方ないじゃろ」
「まぁ、そんな感じで珍しいドラゴンだから人間に狙われたって感じだね」
「安全は確保出来てるんじゃろうな?」
「うん、この子の住処の周りは一通り調べてきたから大丈夫だよ!」
「そうか・・・と言う訳じゃ、お主は親の元へと向かうが良い」
「キュウ?キュウ!」
ティーの言葉に子ドラゴンは親ドラゴンの元へ向かった。
「寂しくなるのじゃ・・・」
この1週間、何かと子ドラゴンを1番気に掛けていたのはティーだったので、少し寂しそうな表情をした。
「まぁまぁ、また会えるだろうし大丈夫だよ」
とフィーアさんが励ます。
「それじゃあ転移で飛ばすからちょっと待ってね〜」
フィーアさんはそう言ってゲートを開いた。
親ドラゴンはゲートに入る前にティーに頭を下げて行き、
「キュウ!キュウ!」
子ドラゴンはバイバイと言う様に鳴きながら後を追って行ったのだった。
「さて、私の仕事も済んだし次の目的地に向かおうかなー」
フィーアさんがそのまま別の所に転移しようとすると、ティーが片手でフィーアさんの腕を急にガシッと掴んだ。
「あの・・・ティー?離してくれないと移動出来ないんだけど?」
「お主は妾達に迷惑を掛けたんじゃ・・・当然お詫びをするんじゃろう?」
ティーの背後からゴゴゴゴと音が聞こえそうな程の圧をフィーアさんに向けながら言った。
「えーっと、その・・・」
フィーアさんは冷や汗をかきながら逃げようと踏み込んだ瞬間に、もう片方の手でフィーアさんを更に掴んだ。
「逃がさん!」
「はい・・・」
逃げられないと悟ったフィーアさんは観念してティーの言う事を聞き、3日間に渡って家の掃除や狩りなんかを手伝う事になるのだった。




