孵化
ノルシェさんに会った翌日、オーウェンさん達に別れを告げて家へと帰っていた。
「はぁ〜〜〜、疲れました・・・」
珍しく長い溜息を吐いたリビアさんが呟きながらアンさんと一緒にソファに座った。
「久々に2人に会えたからノルシェも張り切ってたんですよ」
2人ともノルシェさんからの特訓を帰る直前まで受けていた為、疲れ切ってしまっていた。
「今日は私が料理をするので、ゆっくり休んでいて下さいね」
「あっ、では私もお手伝いします!」
アリーがそう言って台所に向かうと、リッヒさんもお手伝いを買って出た。
「ノルシェさんの特訓ってそんなに大変なんですか?」
「えぇ、体力的にも精神的にも大変なんです・・・」
アンさんがそう言い、リビアさんが力なく頷く。
「しかもノルシェはクリーンという魔法を極めていて、その魔法を使いつつ自分も別の所を掃除すると言う荒技をしていますからね。それに似た様な事を2人に求めているんですよ」
料理の途中に、2人に温めたタオルを持って来たアリーが言う。
クリーンと言えば、以前習得した体を綺麗にする魔法だったが、
「それってそんなに凄い事なの?」
「魔法を制御して使用しつつ自分は別の所を掃除すると言うことは思考を2分割していると言う事ですからね、熟練の魔法使いでも難しいですよ」
確かにそう言われてみれば凄そうだ。
「ノルシェも2人の事を大切に思ってますからね、愛故に厳しくしてるんだと思いますよ」
「そうですかね・・・?特訓の時はいつもよりウキウキした感じになってるんですけど・・・」
アリーが言った事に、リビアさんが不思議そうに言う。
「ん〜〜・・・、私はお料理に戻りますね〜」
(あっ、逃げた)
アリーは答えずに笑顔でキッチンへと戻るのだった。
俺は一度部屋に戻り、夕食までの時間を潰そうとしたのだが、ベッドの毛布がやけに膨らんでいたのだ。
もしや、ベルが隠れんぼでもしているのかと思ったが、廊下の方からオルフェさんと喋る声が聞こえて来たので違った。
覚悟を決めて毛布を思いっきりめくってみると、そこには1m程の真っ白な卵と手紙が置いてあったのだった。
「なにこれ・・・?」
持ち上げてみたが、20kg位はありそうだ。
とりあえず訳が分からないので、全員を集めて再びリビングに戻って来た。
「これが何か分かる人?」
当然ながら全員が首を振る。
「その手紙にはなんて書いてあったのだ?」
「卵見つけたから宜しく、とだけ書いてありました」
「差出人不明か・・・」
エレオノーラさんが腕を組み考え込む。
「ちょっと手紙を貸すのじゃ」
ティーに言われて手紙を手渡す。
「あー、これはフィーアの奴じゃな」
「フィーアさんが?」
「この筆跡はフィーアの物じゃし、転移を使えるから簡単に忍び込めるじゃろ」
「でも、どうしてまた卵なんて・・・」
「偶に訳の分からん事をする奴じゃからな、大方卵を見つけたのは良いものの自分じゃ育てられんと思って、こっちに持って来たんじゃろ」
「じゃあ育てた方がいいのかな?」
「こんな訳の分からん物を育てるのか?」
「そうだよ!道端に落ちてる卵を育てるなんて危険だよ!」
とオルフェさんもティーに合わせて言ったが、そもそもベルという前歴のある、お前が言うのかと言う様な顔を皆んなが向けていた。
「でもフィーアさんが持って来たって言う事は、ある程度安全だと分かってるんじゃないの?」
「そうかもしれんが・・・まぁ良い、好きにするのじゃ」
「じゃあ、皆んなで育てよっか。って言ってもどうすれば良いんだろ?」
「毛布にくるんであったのなら、その状態で放置すればいいと思う」
シエルさんがそう言い確かにそうだなと思い、毛布でグルグル巻きにした。
「あとは孵化を待つだけか・・・とりあえず何かあっても良い様にリビングに置いておくか」
「なら、夜は私が見張っておきますね!」
とルインが言うので、お願いする事にしたのだった。
〜〜〜〜〜〜
それから3日が経過した。
フィーアさんは、まだやって来ていない。
本当に彼女が持って来たのだろうかと考えていると、不意にパキパキと聞き慣れない音が聞こえて来た。
皆んなも音に気付いた様で、何処からしているのか調べると卵の方から聞こえていた。
もしやと思い、毛布を外してみると卵に亀裂が入っていたのだ。
「もしかして孵化するんじゃないでしょうか!」
メアリーさんがそう言い、俺は慌てた。
「ど、どうすれば?」
「とりあえず外に持って出るのじゃ!」
ティーの指示の元、卵を抱えて外に運び出す。
卵はどんどん亀裂が入っていき、遂にはパカンと半分に割れるのだった。
そして中から出て来たのは・・・
30cm程の真っ白なドラゴンだった。
「キュウ?」
真っ白なドラゴンは瞼を開いて鳴き声をあげる。
「この子はドラゴンで良いのかな?羽も生えてるし」
「キュウ!」
そうだと言う様に鳴いて反応を示す。
「どういうドラゴンなのかな?ティー分かったりする?」
「全然分からんのじゃ。と言うか妾に怯えた様子が無いのが不思議じゃな」
「確かにティーフェン様は龍王ですから、ドラゴンであれば本能的に怯える筈ですね」
とリッヒさんが言う。
「まだ産まれたばかりで妾の事が分かってないだけなのか、相当な大物なのか・・・」
「やっぱりフィーアさんがいないと何も分からないか」
「ひとまず産まれてしまった訳じゃ。責任持って育てる事じゃな」
「じゃあティーにお願いしていい?」
「なんで妾なんじゃ」
「同じドラゴンだし、この中でドラゴンを育てた事のある人なんていないし」
皆んなが頷く。
「いや妾だって他のドラゴンなんか育てた事ないし」
「皆んなで協力はするからさ」
「はぁ、またフィーアの尻拭いじゃな。まぁ引き受けるからには強いドラゴンに育て上げるからな、まずは火山の中に放り込むのじゃ!」
「えっ!?」
「キュウ!?」
俺とドラゴンは驚きの声をあげる。
「冗談じゃ、いやまぁ最終的には火山の中でも問題無いくらいには育てるから冗談でも無いが・・・」
そんな言葉を聞いて、本当にティーにお願いして正解だったのだろうかと思うのであった。
何はともあれ、ドラゴンの育成を皆んなで協力して始めるのだった。
 




